去る8月31日、金融庁は2022事務年度の金融行政方針を公表した。「直面する課題を克服し、持続的な成長を支える金融システムの構築へ」と題した方針の目玉は何といっても「貯蓄から投資へ」の促進であり、これは岸田総理が打ち出した「資産所得倍増プラン」を受けたものでもあろう。

この中には、NISAの抜本的拡充と国民の金融リテラシーの向上への取り組みに加え、金融事業者による顧客本位の業務運営の確保に向けた取り組みの促進も含まれる。現行のNISAの拡充については、今回の金融行政方針が正式に公表される前から日本証券業協会が提言を発表するなど、少しずつ今後の方向性が明らかになってきた。

そこで今回は、各種報道から見えてきた今後のNISA改革について、4つのポイントに分けて解説する。なお、現時点でこれらのポイントはまだ「方針」や「案」の段階であり、筆者なりの解釈も含まれることはご了承いただきたい。

制度そのものと非課税期間、2つの「NISAの恒久化」

1.制度の恒久化

「NISAの恒久化」には2つの観点が含まれている。1つは、租税特別措置として時限的に導入されたNISAという制度自体を恒久化するというもの。NISAは長期の資産形成を後押しする制度として浸透しつつあるが、実は、制度自体は「期間限定」のものとしてスタートした。このため口座を開設する時期によっては、非課税枠に差が出てしまう可能性が指摘されてきた。

そしてもう1つは、非課税期間の恒久化である。現状、一般NISAで5年の非課税期間をその終了後に延長するには、翌年の枠を使用し、資産を移し替える「ロールオーバー」と呼ばれる手続きが必要になる。非課税期間自体が恒久化されれば、こうした煩雑な手続きをしなくても済むようになる。

年間投資枠と対象年齢の拡大の具体案はどうなっている?

2.年間投資枠(非課税限度額)の拡大

現状、つみたてNISAの年間投資枠は40万円で、非課税限度額は800万円(40万円×20年)である。同様に、一般NISAの年間投資枠は120万円で、非課税限度額は600万円(120万円×5年)となっている。

これを、本家英国のISA(アイサ、年間2万ポンド=約320万円)並みの水準に引き上げるべきという声は以前からあり、日本証券業協会が7月に発表した提言でも同様の要望が盛り込まれた。具体的には一般NISAの年間投資枠を120万円から240万円に、つみたてNISAを40万円から60万円に引き上げ、さらに2つの制度を併用可能とし、年間投資枠の合計を300万円とする案が示されている。

3.つみたてNISAの対象年齢拡大

現状、つみたてNISAの対象年齢は20歳(2023年1月1日以降は18歳)以上だが、ジュニアNISAが2023年末に廃止されることを受け、この年齢を未成年者にまで拡大するという案が検討されている。

筆者の個人的な見解として、資産継承や金融教育の観点でも、現行のつみたてNISAの基本的な仕組みはそのままに、対象年齢を未成年に拡大することには賛成だ。皮肉にもジュニアNISAは制度の廃止が決定した2020年3月以降に口座数が急増し、足元2022年3月末時点に80万口座を突破している。

ジュニアNISAを含む未成年口座は、両親や祖父母など二親等以内の親族によって運用管理がなされるので、つみたてNISAの口座数の伸びとともにジュニアNISAも増えている、というわけだ。実際に、ジュニアNISAとつみたてNISA、それぞれの口座数の増加率(前年同期比)は約160%で、ほぼ同じ水準となっている(なお、つみたてNISAの口座数は3月末時点で587万)。

制度自体はシンプルに設計し、金融教育でリスクに向き合う

4.「成長投資枠(仮称)」の新設

「2.年間投資枠(非課税限度額)の拡大」でも言及した、一般NISAとつみたてNISAを併用可能とする案の流れで、つみたてNISAとの併用を前提とした「成長投資枠(仮称)」の新設も検討されている。現行のつみたてNISAは投資対象が一部の投資信託に限定されているが、「成長投資枠(仮称)」は株式にも投資できるようにするとのこと。こう聞くと、2024年から開始が予定されている「新NISA」と何が違うのかと疑問に感じた方も多いと思うが、実は今回の金融行政方針の「成長投資枠(仮称)」と「新NISA」は、それぞれ異なる背景から出てきた案である。

ただし、両者には共通項がある。それは、アクティブファンドや現物株式といった積極的にリターンを追求するサテライト資産の扱いである。背景には、かつてブル・ベアファンドに代表されるレバレッジ型ファンドが、一般NISAで買い付けられていた実態に対する金融庁の問題意識がある。

前回の本連載()でも言及した通り、レバレッジは「取らなくてもよい」リスクであり、資産形成には必ずしも適さない。しかし、一般NISAでブル・ベアファンドを購入するような投資家は、あわよくば高い非課税メリットを享受したいという、明確な意思を持って投資している。成り行きでハイリスクのファンドに行き着いたのではなく、あくまでも自発的に選択しているのである。

こうした事情を踏まえると、レバレッジ型のようなハイリスクの商品を投資初心者に「見せない」「買わせない」ために制度を複雑化するというのは本末転倒だ。利便性の高さや投資家の裾野拡大を優先するなら、制度そのものは極力シンプルに、投資初心者が迷うことのない設計にしたほうがよい。仮に現物株を「成長投資枠(仮称)」の対象とした場合でも、過度に流動性リスクを取るなど制度設計側が意図しない形で利用される可能性は十分に考えられる。レバレッジ投資をはじめ、投資にまつわる各種リスクについては、金融教育の一貫として真正面から向き合い、根気強く投資家に啓発していく必要があろう。

以上見てきた通り、まだ不確定要素が多いNISAの改革ではあるが、改善されることはあっても改悪されることはまずない。これは確定拠出年金についても同様だ。

日本における「貯蓄から投資へ」の進捗が遅いことを手厳しく批判する向きもあるが、20年以上にわたり続いた極度のデフレ環境下で、投資の必要性を感じることのほうがむしろ難しかったのではないか。投資をすべき理由の1つは、インフレに打ち勝つため、である。言葉は悪いが、今こそ投資の必要性を訴える「絶好のタイミング」と捉えたい。