今回は金融庁の2022年の「」でも取り上げられている確定拠出年金用投資信託の一物多価問題について最新動向と、個人はどう自衛し、付き合っていくかなどについてお話ししたいと思います。

iDeCo商品、信託報酬に最大4倍もの差がある現状

今年、金融庁が2022年の資産運用高度化プログレスレポートで指摘しているように、確定拠出年金の投資信託についてはTOPIXや日経平均といった同じベンチマークに連動するパッシブ運用の投資信託で信託報酬が4倍ぐらい違う商品が平然と提示されているというのが現状です。

iDeCoのパッシブ(インデックス)ファンドの信託報酬の現状
データ出所:iDeCoナビ 8月15日時点

これが手取り額にどれくらい影響があるか、40歳の方がiDeCoに加入し25年間、毎月1万円を積み立てした場合で試算してみました。運用益による残高の増加を加味せず保守的に計算をしたとしても、国内株式パッシブの一番安い信託報酬の0.143%であれば25年間で負担する信託報酬額は約8万円ですが、最も高かった0.682%の場合は約36万円です。28万円も徴収される手数料額が異なります。同じ指数に連動するパッシブ(インデックス)ファンドであれば値動きはほぼ同じですから、信託報酬の差と同じだけ手取り額に差がつくということになります。

国内株式以外もパッシブ運用の投資信託でどれくらい違うか、調べてみると表のように他の資産クラスでも大きな差がありました。最近人気の外国株式(先進国)では10倍も差があります。最安にこだわる必要性は全くないと思うのですが、パッシブの場合何倍も違う高コスト商品での資産形成は避けるべきです。

NPO法人確定拠出年金教育協会として運営しているiDeCoに関する情報サイト「」では、iDeCoを始めようとする方が誤って高コストのパッシブ(インデックス)投資信託を買ってしまわないように、コスト(信託報酬)やリターンで比較できるコーナーをご用意しています。資産クラスと運用手法(パッシブ・アクティブ)を選んでいただくだけで、iDeCoの運用商品として並んでいる約700本の投資信託の中から同カテゴリー・同運用手法でコスト(信託報酬)の安いものから順に一覧表示し、ワンクリックしていただければその商品を買える運営管理機関も確認できます。  

口座管理料が安くても、高コストのパッシブ(インデックス)投資信託を並べている運営管理機関は顧客に誠実に向き合ってサービス提供してくれるのか疑問を感じざるを得ません。中にはまるでひっかけ問題のように、商品ラインナップの中に同じカテゴリーの同じパッシブ(インデックス)運用で高コストのものと低コストのものが混在しているケースもあります。年々商品数が増えて間違いやすい状況になっていますので商品選択の際には、よく注意して選んでください。

運営管理機関には老後資産形成に適した商品を専門的知見をもって厳選して並べていただきたいと切に願うばかりですが、個人としては自衛の策として、どなたでも登録なしで手軽に使える「iDeCoナビ」の「運用管理費用(信託報酬)で比較」のコーナーを活用いただけたらと思います。

信託報酬引き下げの動き

現状も差があるiDeCoのパッシブ(インデックス)商品の信託報酬ですが、2017年以降全体としては下がっています。それは法改正でiDeCoに加入できる人が公務員や専業主婦などにも拡がり、運営管理機関の顧客獲得競争が激化したためです。比較しやすい口座管理料は一気に下がり、その次に差別化としてパッシブ(インデックス)商品で低コストの商品が並んでいるかどうかが注目されるようになったからです。結果として運用会社各社は従来のファンドのコスト部分だけ下げた低コストパッシブ(インデックス)を続々と新設し、現在各資産クラス共に最安の信託報酬の商品が10本程度横並びである状態です。

普通に考えればわざわざ新設しなくても今ある高コストの商品のコストを下げればそれで済むのに、と思うのですが、信託報酬の引き下げは運用会社だけでなく、その収入を分け合っている販売会社である銀行・証券会社・保険会社と、投資信託資産の管理をしている信託銀行の収益にも大きく影響します。例えば人気の投資信託であれば残高が数千億単位ですから、0.1%の引き下げでも年間億単位の収益を自ら手放すことになります。ですから、なかなか調整は進みません。

それでもニッセイアセットマネジメントや野村アセットマネジメントは各社との調整・交渉に努力し、これまで数度の引き下げを実行しています。そして、新聞報道によれば低コストパッシブ商品の人気が継続していること、一物多価への風当たりが厳しくなってきていることなども受け、アセットマネジメントOneや三菱UFJ国際投信も国内株式のTOPIX連動などを中心に、年内に信託報酬を引き下げるそうです。ようやく、高コストのパッシブ商品がiDeCoの商品群から消えてくれそうな気配が感じられます。

企業型DCの商品ラインナップ健全化の動き

2022年10月から企業型DC加入者がiDeCoへの加入も原則できるようになりました。このことによってiDeCoの5.6倍も残高のある企業型での商品ラインナップにも変化が起きつつあります。

どういうことかといいますと、企業型DCとiDeCoに同時加入する社員は、企業型の商品ラインナップとiDeCoに並んでいる商品の両方を目にすることになるので、見比べることになります。そうするとiDeCo商品の方が魅力的であれば「うちの商品ラインナップにもiDeCoで並んでいる○○○○のような商品を入れてください」という声が当然出てきます。出てこなくても企業としては社員に適切な商品を提示する責務を強く意識するようになって、商品を見直す企業が増えているのです。

NPO法人確定拠出年金教育協会で行った「企業型DCの担当者の意識調査 2021」でも「商品ラインナップの見直しをした」と「見直しを検討」を合わせると55.1%と半数を超えていました。 つまり、iDeCoの商品ラインナップが魅力的であることが企業型DCの商品ラインナップをよくしていく一助になっているのです。

個人の商品に対する厳しい目が健全化のカギ

本来であれば、商品選定を行っている運営管理機関に専門的知見をもって加入者が老後資産形成する上で適切な商品を提示するという責務を果たしてもらえれば、高コストパッシブ商品を確定拠出年金の世界から一掃できると思うのすが、商品の販売会社でもある彼らの動きは大変遅く、健全化されるにはまだまだ時間がかかりそうです。

私たちiDeCoを利用して老後資金の資産形成をする側からすれば、自らの年金資産を効率よく運用するために商品選択に厳しい目を持って臨むことで自衛するしかありません。ぜひ、すでにiDeCoに加入している方またはこれから加入するみなさんも、しっかり商品選びをしてください。iDeCoでおひとりおひとりの選択によってアクティブを含め良い商品に資金が集まるようになると きっとそれは大きな力になって運営管理機関・金融機関側を動かす力になり、健全なラインナップのプランが拡がっていくと思われます。

そしてiDeCoの商品が魅力的になっていくと、見比べられる企業型DCの商品ラインナップをも良くしていく力にもなっていきます。みんながベストな商品を選ぶと世の中を良くしていく力になる、そしてそんな投資信託が投資する先は長期的に値上がり・成長が見込める先ですから世の中全体を良くする力にもなります。面倒くさがらず、少しずつ投資信託を深く知って、しっかり商品選びをしていただけたらと思います。