多くの日本企業で6月に定時株主総会が開催され、その後さまざまなニュースが報道されましたが、その後のニュースで私は次の3つのニュースに注目しています。
まず、(株主総会議案で買収防衛策の導入や継続の賛成比率が低下)(7月15日付日本経済新聞)、次に、(事業法人の株式保有比率は22年3月末時点で20%。2年連続で前年度から下がり、過去最低を更新)(7月22日付日本経済新聞)というもの。最後に、(8月26日付日本経済新聞)です。

これらは良い変化です。なぜかというと投資家の声が企業により届きやすくなり、成果が出てきたからです。こういった変化には、実はインベストメントチェーンにおける投資家による企業との対話が大きな効果を発揮しているのです。そもそも株主は、株式を保有することで、企業の利益を配当に分配するか、経営者を信じて翌年以降の設備拡大などに投資してもらうかを決める権利があります。しかし、それだけでは経営陣がちゃんと仕事をしてくれなかった場合泣き寝入りになりますね。ですから、株主には経営の執行を監督する取締役を選ぶ権利も同時に持っています。株主の権利がハイブリッドと言われる理由です。

配当は、利益から設備投資など事業の拡大に今は必要がない部分の分配(株主への還元)です。逆に言えば、株式を持っている人(株主)は、融資のように金利を支払ったり元本を返済したりすることにはなっていません。その上、配当は、利益が出た時にその一部がもらえるに過ぎず、融資の金利支払いのように約束されていないのです。そうであれば、株主は融資をする人に比べて高い利回りを求めます。返す約束がない上、経営者がうまく経営した時だけ返ってくる配当ですから、融資と同じ金額を投資するのなら金利よりも配当が高くなければ保有しませんよね。

一言で言えば、株主はドキドキしているのです。そんな株主のために、株式会社は未来を期待させてくれる情報を積極的に出す義務があります。これまでの売上や利益、費用や借金の額を見せることは財務諸表などとして義務化されています。年に1回の株主総会の際に提供される招集通知による情報や株主総会での質疑だけでは、提供した資本が正しく事業や投資に使われているか、取締役会として十分な監督がなされているかは十分に把握できません。また意見表明としての議決権の行使も年に1回では不十分です。

そこでイギリスでは、普段から投資先や投資候補の企業と対話をしたり、経営を分析して売買の判断をしたりしている機関投資家(例えば投資信託会社)が、プロとしてステークホルダーの事も考慮しながら、企業情報を分析し、経営者と対話し、経営も株価もお互いにより良い成果が出るように活動するようになりました。これが「スチュワードシップ」と呼ばれ、大きなムーブメントとなったのです。そして、この動きが2010年代中頃から日本でも本格導入されてきました。具体的には、責任ある投資家の活動としてエンゲージメント(対話)が一年中実施され、その結果として、冒頭の新聞報道にあるように、投資家にとってよりリターンを得やすい状況へと、企業の行動の変化を促しつつあります。

投資のリターンの源泉にもなるエンゲージメント

以前私が投信や年金を運用する会社で働いていた時、投資先企業に対してこのスチュワードシップ活動を実施していました。注力するテーマの特定(例えば取締役会の多様性や脱炭素対策)、対象企業の特定、実際に課題意識を共有し、株主価値の向上に関して行動の変化を起こしてもらう面談、その後も関連ニュースが出た際のフォローアップなどについて、年間数百の企業を対象にエンゲージメントを行っていたのです。

その際、面談を受けてくださる事業会社の反応はさまざまで、課題に気づき、早速行動変容を起こす(例えば買収防衛策の廃止)もあれば、設備投資も株主還元もせずに余剰の資金を持ち続けて一向に自己資本利益率(ROE)を上げられない企業もありました。

スチュワードシップ活動は、中長期的なリターンの向上を目的とした内容について対話するので、一度や二度の面談では企業が成果をあげてくれないこともあります。一方でリターン向上に向けた活動の成果は資金の提供者であるアセットオーナー(例えば企業の年金基金や投信を保有している人)への説明責任が発生します。年金基金では、スチュワードシップ活動の成果もアセットマネージャーの評価の一部となっているところもあり、顧客満足の面からは年次で前進、改善していることが求められてしまうのです。この点で、投資先企業、運用会社の担当者、アセットオーナーには良い意味での緊張感のチェーンがあると言ってもいいかもしれません。

最後に簡単にエンゲージメントの種類について触れたいと思います。これまでお話したのは、投資後のエンゲージメント。これは投資戦略を単純にパッシブ運用、アクティブ運用と分けると、主にリスク低減の側面(例えば炭素税導入が見込まれるなか、脱炭素対策がどの程度整っているか、コスト増については準備ができているのか等の視点)からどちらの手法においても実施されているエンゲージメントになります。

出所:エミネントグループ

一方でアクティブ運用の中には、投資のリターンの源泉としてエンゲージメントを活用する方法もあります。例えば、複数の事業を展開する企業に対して不採算事業に対する考え方をディスカッションする、ということは事業の組み合わせを変えることによって大きく収益構造が変わり、これまで割安とみられていた企業の株が将来の投資効率の改善から大きく向上することも考えられます。こういったエンゲージメントを軸にした投資手法をエンゲージメント投資(一部ではアクティビスト戦略)と呼んだりします。これについてはまた別の機会に、実際に見聞きした事も踏まえてお話しさせていただきます。

次回は、事業会社の視点で投資家とのエンゲージメントについてご紹介していきます。