企業の破綻では、通常考えられないようなさまざまな出来事が起こり得ます。その中でも、「Nuts(ナッツ)」ほど多くの珍事に見舞われたケースは少ないでしょう。粉飾やそれに伴う実質的経営者の逮捕は序の口で、報酬未払いで監査人に契約を打ち切られたほか、上場廃止の直前には取引所のシステム障害に巻き込まれました。

10月3日はNutsが上場廃止となった日です。今日はNutsの破綻劇を振り返りましょう。

金商法違反に帳簿の水増し…負債5億円を残し破産

Nutsはさまざまな業態に変貌してきた企業です。設立当初は塩化ビニール製品の販売が中心でしたが、その後はビデオレンタル事業、ゲーム事業、アミューズメント関連事業、医療関連事業といったように、メイン事業を目まぐるしく変遷させてきました。商号も三高産業→トップボーイ→コモンウェルス・エンターテインメント→Nutsと何度も変更しています。

しかし業態転換はうまくいかず、2016年3月期以降は4期連続で純損失を計上しました。その上、2020年2月には偽計の疑いで証券取引監視委員会の強制調査を受け、翌年3月には告発されています。告発によると、Nutsは運営していた医療施設の入会に伴う売上高を5億6300万円と公表していたものの、実際には2000万円しかありませんでした。同社の実質的な経営者らは金融商品取引法違反で2021年6月に逮捕され、同年12月には有罪判決を受けています。

さらに2020年4月、Nutsの監査人を務める監査法人は、同社には帳簿上8億900万円あるはずの現金が実際には50万円しかないと指摘しました。Nutsは帳簿を水増しし、実体より財務が安定しているように見せかけていたのです。

当該監査法人はNutsとの契約を解除したため、Nutsは監査人が不在という状況に陥りました。Nutsは同年8月に別の監査法人と契約を結び直したものの、翌月には監査報酬の支払いができなかったために再び契約を解除されるという異例の事態に発展します。

こうした状況の中、Nutsは2020年9月16日に同社の取締役から破産手続きを申し立てられ、裁判所が破産手続きの開始を決定したことから、約5億1000万円の負債を抱え倒産となりました。Nutsの破産決定を受け、取引所は即日に同社株式の上場廃止を決定し、同年10月3日を上場廃止日としました。

泣きっ面に蜂…東証のシステム異常で売りたくても売れない状況に

破産手続き決定を受け、Nuts株式を持つ投資家の多くは売りを急ぎました。破産手続きは、株式の価値を全て失う可能性が高い処理だからです。破産決定の翌日、Nuts株式は前日の終値30円を76%以上も下回る7円で取引を開始しました。一時10円まで値上がりしたことから、短期マネーも流入したようです。

【Nutsの株価】

ヤフーファイナンスより著者作成

しかし、Nutsホルダーにとって予想外の事態が起こりました。最終売買日(2020年10月2日)の前日に取引所でシステム障害が起こり、Nutsを含む全銘柄で終日売買停止になったのです。

全銘柄の売買停止は2005年11月にも起こりましたが、終日停止されるのは1999年のシステム移行後初めてでした。最終売買日に取引が再開されるか、Nuts株式の保有者は大いに心配したことでしょう。

結局、東証は当日中にシステムを復旧し、Nutsも無事に取引最終日を迎えました。もっとも、Nutsの株価は1円から動かなかったため利益を得られるチャンスはありませんでした。

監査人もお手上げ!「意見不表明」とは

Nutsの破綻劇では、監査人を選任できるか否かも注目点でした。監査人の設置は上場企業に義務付けられているため、監査人の不在は法令違反になり得る緊急事態だからです。

【金融商品取引法193条の2「公認会計士又は監査法人による監査証明」(一部抜粋)】
金融商品取引所に上場されている有価証券の発行会社……が、この法律の規定により提出する貸借対照表、損益計算書その他の財務計算に関する書類で内閣府令で定めるもの……には、その者と特別の利害関係のない公認会計士又は監査法人の監査証明を受けなければならない。

出所:e-Gov法令検索 金融商品取引法

ただし、監査人を選任できれば安心というわけではありません。公認会計士や監査法人は独立した立場で監査を行い、監査報告書などでその意見を表明します。従って、会計が正しく行われていなければ監査人のお墨付きを得ることはできないのです。

特にずさんな会計が行われている場合、「意見不表明」という監査意見が示されることがあります。これは財務諸表が適正か否かを判断できないほど、会計記録が残されていない場合や監査を実施できず十分な監査証拠を入手できない場合などに表明されます。

【4つの監査意見】

出所:日本公認会計士協会 監査意見

「不適正意見」や「意見不表明」は上場廃止基準に抵触する監査意見であり、取引所が市場の秩序を保つために必要と判断すれば上場廃止となるため注意してください。また上場廃止とならなくとも、不明瞭な会計が行われている可能性が高いため投資はおすすめできません。

取引所は注意を促すため、「不適正意見」「意見不表明」、および「限定付適正意見」が示された上場企業を開示しています。投資の前に一度チェックしてみてはいかがでしょうか。

執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。