家族信託を支援する立場から考えていること

筆者は、いわゆる「家族信託」を作る支援を行う仕事をしています。本稿では、その業務を通じて感じていることを読者の皆さんにお伝えしていきたいと思っています。

筆者がお伝えしたいことは、親から子そして孫へと受け継がれていく資産を「家族の財産」と位置づけ、その財産の管理と運用はミドル世代が中心となり、その戦略を考えて対応していくことが必要ということです。

ミドル世代とは40歳代から60歳代前半ぐらいまでの年齢帯の方をイメージしています。

ミドル世代のうち、40歳代から50歳代半ばくらいまでの方々は、両親の相続のことや、介護のことなどが気になっている方が多いと思います。

また、50歳代後半から60歳代前半くらいまでの方は、親の相続を経験した方、両親のうち片親の相続を経験し今は生存する片親の生活の世話や財産管理のサポートをしているといった方が多いのではと思っています(筆者は両親を30歳代前半に亡くました。このように早い時期に親を亡くした方もいらっしゃって、すべての方がこのような状況にあるとは限りませんが)。

多くのミドル世代は高齢になった親のこと何らかに関わる時間が長くなってきていると考えられます。結婚しているミドル世代ならば、自身の親のことに加えて配偶者の親のことにも関わっている方もいるでしょう。

人生100年時代―今後、家族信託は増えていく

「信託」も「家族信託」も聞き慣れない……という方も多いかもしれません。

信託はひと言でいえば、信託の引き受け手である受託者が、信託を引き受けて信託された財産の管理・処分を行う財産の管理と承継を行う仕組みです。

信託の引き受けを営業として行うには、内閣総理大臣の免許や登録が必要なのですが、親の財産を子が引き受けて管理することに利用される「家族信託」は、受託者の家族は免許や登録の必要がありません。そして、多くの家族信託では、高齢になった親の資産を子が管理するために利用されています。

高齢になった親の認知判断能力が弱くなってきたことを感じると、親の認知症の不安を感じる人も多いと思います。厚生労働省によると、2025年には、認知症高齢者の数は700万人、65歳以上の高齢者の5人に1人に達するといわれています(認知症施策推進総合戦略〈新オレンジプラン〉)。

親がこうした判断能力を欠くような状態になってしまうと、その親が所有する財産の取引を本人が行えなくなります。2020年、法律行為の当事者が意思表示をしたときに意思能力がなかった場合には、その法律行為は無効とする民法改正がありました(民法第3条の2)。

親の認知判断能力の低下に備え、事前の準備がなければ、親の財産を家族が代理して取引することもできません。親が介護施設に入所するために親の預金を家族が引き出そうとしても、金融機関は本人以外の取引には応じてくれないため、預金を引き出すことができません。その結果、最悪のケースとしては子が親の介護施設費を払い続け、子が困窮する事態にもなりかねません。

このような背景から、家族信託を利用して高齢になる親の資産管理を子が行っていくということが今後増えていくと思われます。筆者の経験から、家族信託の利用者は、親の年齢が70〜80歳代、子の年齢が40〜50歳代といった方々が多いです。

信託は、親が信託する財産を子に移転することが必要です。子は親から信託された財産を親の福祉を確保するために管理します。財産を子に移転することや、親のために子が財産管理をすることなどから、家族信託は親と子の“厚い信頼関係”があることが必要です。

家族信託を作る過程は、親と子が情報を共有する機会

家族信託の多くのケースでは、財産を信託する親が亡くなるまでの間に使い切るだろうと思われる財産より多い額が信託されています。親の福祉を確保するために使われる財産とともに、子たちへと継がれていく財産も含んだものが信託されます。そのため、信託を引き受ける子は、信託財産に対する親の“思い”をよく理解して管理することが求められます。

家族信託を作っていく過程は、親と子が情報を共有する大変貴重な機会となります。親がその親より受け継いできた財産のこと、親がその財産をどのように管理してきたか、財産の現状など親の財産のことを親が子に伝えるよい機会にもなります。

家族信託を作る支援の過程では、信託を引き受ける子ができるだけたくさんの情報を得られるよう、筆者はファシリテーター的な役割を担い、親と子の情報共有の場を盛り上げるように努めています。

共有される情報が多いほど、家族信託が開始された後、子の信託財産の管理が安定すると、筆者は感じています。

ミドル世代は自身の老後準備も必須

いっぽうで、ミドル世代は自身の豊かな老後を送るために財産を形成していく過程にもあります。

この財産形成ができないと例えば、子世代の財産を頼って老後を送らざるをえなくなるなど、ミドル世代の子世代に迷惑をかけることになります。子世代の財産を減らさぬよう、ミドル世代は自身の財産形成にも重要な役割を担うことを課せられています。

ミドル世代のミッションは家族の財産の管理と運用の戦略を作ること

親から財産を引き受け、かつ自身の財産は自身で形成し、そして将来は子世代へと財産を継いでいく――親からミドル世代へそしてミドル世代から子世代へと所有者が変わっていく家族の財産について、今、その重要な役割が期待されているのがミドル世代なのです。

「戦略」というと難しいイメージですが、本稿では、人生の目的地までたどり着く道のりを考えることを「戦略を作る」と位置付けます。

親の財産の戦略であれば、ミドル世代の子が親の人生の目的を理解して財産の管理と運用の戦略を考える支援をしていきます。親の目的地なので、親本位に戦略はデザインされなければなりませんが、高齢になる親がひとりで戦略を作ることは難しいでしょう。しかしながら、戦略作りが難しくても親は一定の財産を所有しているのが現実です。日本では高齢者に財産が偏重しています。親ができなければ子のミドル世代がその役割を担っていかなければなりません。

ミドル世代自身の財産について、それぞれが考える目的地にたどりつくには、財産の管理と運用をどうするか、その戦略を自身で作っていきます。戦略を誤ると子世代に負担をかけてしまうことにもなります。

ミドル世代の後半には、子の教育資金を担う役割が終了します。そして退職金というまとまった資金を得ることもあります。これから得る財産について、管理と運用の戦略を自身でどのように作っていくか、親の財産についての戦略と自身の戦略作りをあわせて行っていきます。

次回からは、ミドル世代が担う役割について具体的に触れていきたいと思います。