2022年はFRBの利上げに振り回された1年
2021年を最高値近辺で終わった米国株式市場は、連邦準備理事会(FRB)の利上げ懸念から下げ始め、ロシアのウクライナ侵攻を嫌気して、さらに下げ足を強めました。
その後、穀物、エネルギー価格の高騰、物流の停滞などから、インフレが予想以上に進み、FRBの利上げスピードが加速するとの懸念から、さらに下げが続き、2022年6月には、年初からS&P500が23.1%下落、ナスダック100指数に至っては30.8%の大幅下げとなりました。
それでもFRBは2022年6月以降4回連続で、通常の3倍にあたる0.75%の利上げを実施し、インフレ撲滅に強硬な姿勢を続けました。このFRBの強硬姿勢に市場はかなり痛めつけられた、というのが昨年1年の市場状況だったといえるでしょう。
●2022年 米国主要3株価指数

※2021年末を100として指数化。図内の数値は2022年12月15日時点のもの。
株価下落は割高調整の見方もできる
しかし、ここで視点をやや変えてみると、2021年まで米国株式市場はかなり高く買われすぎていたともいえます。
特にナスダック市場は、なぜここまで強いのかというほど、急速な上がり方をしました。いわゆるグロース株が買われたわけですが、グロース株ほど利益成長が高く見込まれます。
そもそも株価算定は、将来の利益を金利を使った割引率で割り戻して、現在の株価を見積もるため、分母の金利が上がると、将来の利益が大きくなるグロース株の株価ほど、下落率が大きくなるのです。これが、ナスダック指数の下落率が他の指数に比べて、高い背景です。見方を変えれば、グロース株の株価は上下の変動が大きく、戻すときは大きく戻します。
米国市場は、上がるときには「ここまで上がるのか」と感じるほど上がりますが、下がるときもまさに情け容赦なく下がる、残酷な(cruel)市場です。このような動きを前向きにとらえると、米国市場は活力に富み、株価形成が自然であると見ることができるわけです。
FRBと日銀の決定的な違いも浮き彫りになった2022年
また、中央銀行であるFRBが市場に遠慮することなく、まさに徹底的にインフレ撲滅に邁進するという姿勢は、一面では、信頼できる管理者ともいえます。しかも、これだけインフレが進むということは、景気が過熱したともいえ、それだけ米国経済の強さの証ともいえるのです。
●S&P500(配当込み)

このあたりを日本の中央銀行、日本銀行と比較すると、大変面白い対比となります。金利を果敢に上げる米国FRB。一方、10年の国債金利をかたくなに0.25%以下に抑え続けてきた日銀(年の暮れ、12月20日になって金融政策の修正が発表されましたが……)。
これは、非常に活力ある米国経済と停滞感が強い日本経済の構図にほかなりません。この彼我の開きは、かなり大きいといってよいでしょう。まさに日本の国力の衰えをはっきりと感じざるを得ません。
2022年10月、円/ドルレートが32年ぶりの円安に
2021年末115.12円/ドルだった円/ドルレートは、2022年3月末には121.75円と日米の金利差の開きから円安が進み、ついには10月21日には151.90円と、実に32年ぶりの円安となりました。この過程で、政府・日銀は9月と10月に、24年ぶりとなるドル売り/円買い介入に踏み切ったわけです。
●2022年 円/ドルレート

この円安の背景は、日米金利差の拡大によるところが大きく、150円台の円安の後、12月に135円程度まで急速に円高になったのも、米国金利上げのペースダウンにより、金利差拡大にブレーキがかかると見たことが背景にあります。
ただ、そもそも今回の円安の根底にあるのは、日本経済の成長力の減退、国の債務残高への懸念、少子高齢化による人口減少など、将来見通しへの懸念がある点も見逃せません。
2022年の米国株投資は、株安と円安の1年
ここまで米国株価と為替について、それぞれ振り返りましたが、2022年の「日本から米国株投資」の観点でいえば、特筆すべきは、なんといっても米国株安と円安が同時であった点でしょう。
円/ドル為替をヘッジしていない限り、円からドルにして米国株に投資するのが通常です。その場合に、米国株自体(S&P500)は18.3%下がっても、円換算で計算するので、投資評価額は“押し戻せ”ます。それが2022年は効果を最大に発揮し、2.6%下げた日本株に対して、なんと米国株に投資していたほうが1.6%ほどよかったのです(2022年12月15日現在)。
●2022年 日米株価パフォーマンス

※2021年末を100として指数化。図内の数値は2022年12月15日時点のもの。
外国株投資では、為替は副次的に考えるべき
米国株投資において、為替の変動はこのように有利に働くこともあれば、逆に円高へ揺り戻せば資産が目減りすることもあります。そのため、外国株投資をしようにも、為替リスクがあるからと踏み出さない人も多いのですが、為替リスクは長い間に株価の上昇で消えていきます。
あくまでも為替は、株に投資した後に来る副次的なものと見るとよいでしょう。また米国株投資をする場合に、為替ヘッジするよりも、ヘッジしないほうが、余計なコストを払わず、リスクの平準化も図れます。
2023年米国株式市場は、最高値更新も視野
さて、始まったばかりの2023年――最大の注目点は、なんといっても、FRBがどのようなスピードで利上げ幅を抑え、いつ利上げを止め、利下げに転じるかというところでしょう。
2022年の米国市場を見ても、いかにFRBの金利政策が大きな影響を及ぼすかを再認識させられました。2022年12月には、4回連続で0.75%上げた政策金利を0.5%に縮小しました。FRBはインフレを徹底して抑え込むとしていますので、早急に金利上げを止めるとは思えませんが、私は、早晩上げ幅を0.25%に縮小し、2023年前半には金利上昇は止まると見ています。
では、利下げはいつか。
現時点で、その予測は難しいものがありますが、2023年中にはその気配が出てくると見ておきたいところです。2023年は金利上昇を織り込み、次第に力強い展開となり、2022年の下げを取り戻し、2023年の後半にはS&P500指数の最高値更新も視野に入ってくるでしょう。
特にナスダック市場には、以前だったら高くて買えなかったものの、3割、4割も下がり、割安のままになっている銘柄が多くあります。アップル、マイクロソフト、アルファベット、アドビなどは買って長く持つのに適した銘柄といえるでしょう。
米国株投資は長期投資が大原則
米国株投資の最大の注意点は、短期売買は禁物で、目先の株価を追って買ったり売ったりしないことです。米国株は値幅制限がなく、1日で20%、30%も株価が動くことがありますから、短期では損失も大きくなります。また日本と米国は昼夜が逆転していますので、短期売買をやっていては、体力が持ちません。日本人の米国株投資は、長期投資で臨むことがもっとも大事なことです。投資成果も大きく違ってきます。
世界最高の投資家といわれ、昨年8月に92歳になったウォーレン・バフェットは、次のように言っています。
「米国に“反して”賭けるな(Never bet against America.)。米国はこれからも長く繫栄し続ける」