日本には多くの火山が存在しており、気象庁は北方領土を含め111もの活火山を監視しています。温泉や地熱発電といった恩恵も少なくありませんが、突如として噴火し、人命を脅かすこともあります。5年前に噴火した群馬県の本白根山(草津白根山)もその1つでした。

警戒レベル最低の山が噴火し死傷者12人

2018年1月23日、午前10時2分ごろに本白根山が突然噴火しました。近くのスキー場で訓練中だった陸上自衛隊員8人に被害が生じ、うち1人が亡くなっています。一般のスキー客も噴火に巻き込まれ、計12人の死傷者を出す大きな災害となってしまいました。群馬県は同日、いずれも噴石による被害だったと発表しています。

当時、本白根山の噴火警戒レベルは最低でした。2014年6月、火山活動の活性化が観測されたことでレベル2に引き上げられましたが、火山活動が低下したことで2017年6月にレベル1に引き下げられていました。その半年後に本白根山は噴火したことになります。気象庁は、噴火の前兆といえるような変化は観測されていなかったとし、事前に警戒を呼びかけることは困難だったと説明しました。

もともと、本白根山の火山活動は低調でした。近くにある白根山の湯釜付近では活発な火山活動が観測されていたものの、本白根山は有史以来マグマを伴う噴火が起こったことはありません。最後のマグマ噴火は、およそ3000年前に起こったとみられます。

このように、噴火を完全に予測することは困難で、突然大規模な噴火が起こる可能性は否定できません。火山に入る場合や付近でレジャーを行う場合、気象庁や都道府県のホームページなどで避難経路や避難小屋などの場所を確認し、事前に備えておきましょう。

山で遭難したらいくらかかる?

山の事故は噴火だけではありません。けがや道に迷うなどし、遭難してしまう事故が多く発生しています。

登山ブームなどの影響から、遭難者数はこれまで右肩上がりに増加してきました。1999年ごろの遭難者は約1000人ほどでしたが、直近の10年間は毎年3000人ほどが遭難しています。警察庁によれば、2021年は3075人が遭難し、うち283人は死亡または行方不明となりました。

【山岳遭難者の内訳】

警察庁「令和3年における山岳遭難の概況」より著者作成

遭難すると、命の危険だけでなく、救助費用の負担が発生する事態が懸念されます。

警察や消防といった公的な救助機関が救出に向かう場合、費用は原則としてかかりません。費用が発生するのは、民間の救助機関が救助に参加する場合です。日本山岳救助機構合同会社によると、ある航空会社の救助料金は1時間あたり46万5000円、遭難場所が明確な場合で50〜80万円程度の費用がかかるようです。このほか、民間の救助隊などが捜索にあたれば、隊員1人につき1日数万円の費用を支払わなければいけません。捜索の規模によっては100万円を超えることもあるでしょう。

なお、遭難者が助けを求めないケースでも、救助が行われれば費用が請求される可能性があります。民法では「事務管理」という規定があり、義務がなくても本人を助けるような行動を取った場合、その費用を請求できる旨を定めているためです。

【民法第697条「事務管理」(一部抜粋)】
義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理……をしなければならない。

【民法第702条「管理者による費用の償還請求等」(一部抜粋)】
管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる。

出所:e-Gov法令検索 民法

また一部の自治体では、公的救助機関であっても費用が請求されるケースがあるため注意してください。埼玉県では独自に条例を定め、指定された地域で県の防災ヘリコプターが救助にあたった場合、5分あたり5000円の手数料を納付するよう定められました。埼玉県によると、過去の平均救助時間は約1時間であるということから、6万円ほどの費用が発生する計算です。

山の事故に備える「山岳保険」とは

山で遭難した際の救助費用に備えるなら「山岳保険」への加入を検討してください。登山中のけがなどで生じた費用のほか、請求された救助費用などの補償を受けられる保険です。

なお、一般的な旅行保険やレジャー保険にも、遭難時の救助費用を補償する「救援者費用保険」が付帯するケースがあります。ただし補償範囲に注意してください。旅行保険やレジャー保険は、危険なスポーツを補償の対象外としているケースが多く、「山岳登はん」はその代表格です。ピッケルやアイゼンといった本格的な器具を用いる場合、山岳保険への加入を検討した方がよいでしょう。

もっとも、保険は同じ商品でも契約によって補償内容が異なります。いずれの保険を選ぶ場合でも、契約前に補償内容をしっかり確認するようにしてください。

執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。