2015年1月29日、『21世紀の資本』の著者として有名なトマ・ピケティ氏が初来日しました。同著は世界中で300万部以上売れるほどのベストセラーとなり、経済書としては異例の映画化も果たしています。

ピケティ氏は何を主張し、世界で支持を集めたのでしょうか。

労働収益より投資収益の方が大きいと指摘

ピケティ氏の主張で最も有名なものが「r>g」でしょう。rは「資本収益率」、gは「経済成長率」を指しています。ピケティ氏は、経済成長率より資本収益率が大きいことが、経済格差を生む要因だと指摘しました。

つまり、資本を多く持つ富裕層は、その資本から得られる利益でさらに富み、そのスピードは経済成長にひも付く労働収益(賃金)の上昇率を上回ると主張したのです。これが成り立つなら、資本を持たない人たちがいくら働いても、多くの資本を持つ富裕層に追いつくことはできません。結果として経済格差は拡大することになります。

ピケティ氏は18世紀までのデータをさかのぼりr>gを導きました。この不等式は、現在でも成り立つのでしょうか。rを全世界株式、gを世界GDPと見立て、直近のデータを見てみましょう。

2008年から2021年まで、全世界株式の騰落率と世界GDPの成長率は以下のようになりました。全世界株式はリーマンショックなどの影響から、上下ともに大きな値が出現しています。一方世界GDPは、2009年と2020年を除き、安定的にプラス成長を果たしました。

【世界GDPの成長率と全世界株式の騰落率】

IMF「World Economic Outlook Database(October 2022 Edition)」およびMSCI「MSCI ACWI Index (USD)」より著者作成

上記のデータを基に考えると、全世界株式は14年間で2.7倍に成長したと計算できます。1年あたりの収益率は約7.3%となりました。一方、同じ期間で世界GDPの成長はおよそ1.5倍にとどまり、1年あたりの成長率は約3.1%でした。株式だけが資本というわけではありませんが、2008年〜2021年はr>gが成り立ったといえそうです。

【世界GDPと全世界株式の推移(2007年=100)】

IMF「World Economic Outlook Database(October 2022 Edition)」およびMSCI「MSCI ACWI Index (USD)」より著者作成

格差を示す「ジニ係数」って? 日本はどれくらい?

経済格差を表す代表的な指数が「ジニ係数」です。0〜1までの範囲で示される値で、0に近いほど格差が小さく、1に近いほど格差が大きいことを表しています。

OECD (経済協力開発機構)によると、2021年または最新データで比較したとき、加盟国で最もジニ係数が小さい国はスロバキア(ジニ係数:0.222)となりました。反対に最もジニ係数が大きくなった国はコスタリカ(同0.487)で、ワースト3カ国には中南米の国が並びます。

なお、日本のジニ係数は0.334で、OECD加盟国の平均(同0.315)を上回りました。日本はやや格差が大きいといえるかもしれません。

【ジニ係数の国際比較(OECD加盟国)】

※2021年または最新データ

出所:OECD Data Income inequality

日本のジニ係数についてもう少し詳しく見てみましょう。厚生労働省の「厚生労働白書(令和2年版)」によると、日本のジニ係数はこれまで上昇傾向にありました。「当初所得(※)ジニ係数」は1990年から2017年までに約0.13ポイント悪化しています。

しかし、社会保障の給付などを加味した「再分配所得(※)ジニ係数」に大きな変化は見られません。単純に考えれば、高所得者から低所得者へ所得を再分配する仕組みが機能したといえそうです。

※当初所得:雇用者所得、事業所得、農耕・畜産所得、財産所得、家内労働所得および雑収入ならびに私的給付の合計額
※再分配所得:当初所得から税金、社会保険料を控除し、社会保障給付(現金、現物)を加えたもの

【日本のジニ係数】

厚生労働省「令和2年版厚生労働白書」より著者作成

なお、当初所得ジニ係数は高年齢層で大きい傾向にあります。所得の再分配で改善されているとはいえ、経済格差は高年齢層の方が深刻なのかもしれません。

【日本のジニ係数(2017年、年齢階級別)】

厚生労働省「令和2年版厚生労働白書」より著者作成

お金持ちになる方法は「労働×投資」

ピケティ氏は経済格差の是正を訴えたのであって、お金持ちになる方法を言ったわけではありません。しかしr>gが成り立つなら、資産を築く方法として投資は有望といえるでしょう。

ただし、労働収益より投資収益の方が大きいからといって、労働を一切やめて投資に集中する必要はありません。多くの人にとって、労働と投資の両方を行う方が収益は最大になるでしょう。株式や投資信託といった証券投資なら時間の制約も小さく、労働と両立させやすいと考えられます。

もちろん一定以上の資本を持つなら、労働の一切をやめ、投資収益のみで生活する選択肢もあるでしょう。その水準に達するまでは、労働と投資を併用し、資産形成に臨んでみてはいかがでしょうか。

執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。