非課税期間の無期限化と限度額引き上げで使いやすくなった新NISA
2023年度与党税制改正大綱に、NISA制度の大幅な改正案が盛り込まれました。すでに方々で報道されているので、仕組みなど詳しい内容には触れませんが、目玉になるのは投資可能期間の恒久化と非課税期間の無期限化、そして非課税限度額として最大1800万円という大幅な増額が盛り込まれたことです。
使い勝手もかなり改善されました。
まず、投資可能期間の恒久化と非課税期間の無期限化によって、一般NISAで「分かりにくい」と言われてきたロールオーバーがなくなりました。
次に、1800万円の非課税枠のうち年間投資枠は総額360万円で、このうち120万円が「つみたてNISA枠」、残り240万円が「成長投資枠」になりましたが、特につみたてNISAの年間投資額が120万円になったことで、毎月10万円という、ちょうど割り切れる金額で積立投資が可能になります。
それと、非課税枠の再利用が可能になった点も特筆すべきでしょう。現行の一般NISA、ならびにつみたてNISAは、投資した分を解約もしくは売却すると、その枠を再利用することはできませんでしたが、新NISAでは1800万円の非課税枠の範囲内であれば、解約や売却をしても、その枠を再び利用できます。
つまり新NISAは、国から「1800万円の非課税枠を差し上げますから、好きなように使って下さい」と言われているようなものなのです。
これだけ日本の財政事情が厳しいなかで、個人の資産形成に対して1800万円もの非課税枠を認めたのですから、何と太っ腹なことでしょうか。
新NISAと引き換えに、確実視される金融所得課税の強化
しかし、これを額面通りには受け止めない方が良いでしょう。「いちいちNISA口座をつくるなんて面倒だ」と言って、これまで一般NISAやつみたてNISAの口座を開かなかった人も結構いらっしゃると思いますが、新NISAばかりは真剣に口座開設を検討しなければならないかも知れません。
というのも、1800万円の非課税枠が個々人に認められた後に、今度は「金融所得課税の強化」が議論の俎上に乗せられる可能性があるからです。
金融所得課税の強化は、そもそも岸田首相が就任と同時に言い出した結果、今の低支持率の元凶にもなった話です。
もっとも金融所得課税の強化については、以前から財務省内部では議論されていたようで、岸田首相が発案したわけではないようですが、それを国民の前で明言したことで、特にマーケット関係者を中心にして強い拒否反応が示されました。ウクライナ紛争や急激なインフレ、それにともなう長期金利の上昇なども株価の下げ要因にはなりましたが、岸田政権が誕生した2021年10月4日以降、株価は大きく値を下げ、2022年3月9日の日経平均株価は、2万4681円まで下落しました。
菅政権の時代、支持率こそ30%前後まで低迷したものの、日経平均株価は3万円台まで上昇したことからすれば、岸田政権が金融所得課税の強化を持ち出したことで、いかにマーケットから嫌われたかが分かります。
その金融所得課税強化を、再び議論の俎上に乗せてくる可能性があります。現在のところ、預貯金の利息、株式の配当金ならびに特定口座を用いた場合の値上がり益、投資信託の分配金と値上がり益に対する税率は、東日本大震災の復興特別所得税を含めて20.315%となっていますが、その税率を引き上げるというものです。
もちろん、これが議論の俎上に乗せられた時には、さまざまな反対意見が出てくるでしょう。そもそもNISAの制度改正を行い、2024年から1800万円まで枠を広げたのに、一方で金融所得課税を強化したのでは、全く意味がないという意見は、当然のことながら出てくるものと思われます。
「NISA口座開設が面倒」などと言っている場合ではない
ただ、冷静に考えると、億円単位の金融資産を持っている富裕層に関しては大きな影響が及ぶ問題でも、それ以外の一般の人たちにとっては、おそらく金融所得課税の強化は、あまり影響のある話ではないかも知れません。
2024年からスタートする新NISAで、最大1800万円の非課税枠が実現します。既婚者であれば夫婦で新NISAの枠を個別に使えるので、夫婦で3600万円の非課税枠をつくることができます。
これに加えてiDeCoや企業型DCを用いた投資非課税枠もあります。たとえばiDeCoに30歳から積み立てたとしましょう。勤務先に企業年金がない場合だと、月々の積立金額は2万3000円まで非課税です。年間だと27万6000円。65歳まで35年間積み立てた場合、総額は966万円です。第3号被保険者の妻も同様にiDeCoに加入して同額を積み立てれば、夫婦で1932万円の非課税枠がつくれます。
つまり新NISA+iDeCoを夫婦でフル活用すれば、合計で5532万円の非課税枠をつくることができます。
非課税枠がこれだけあれば、恐らく大半の人にとっては十分だと思われます。
金融広報中央委員会が毎年行っている「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯]」の2021年調査結果分を見ると、世帯主の年齢別による金融資産保有額の平均値は、以下のようになります。
20歳代・・・・・・344万円
30歳代・・・・・・986万円
40歳代・・・・・・1235万円
50歳代・・・・・・1825万円
60歳代・・・・・・3014万円
70歳代・・・・・・2720万円
平均値の最大が60歳代の3014万円ですが、この平均値で見ても、5532万円には達しません。ましてや中央値で見ると、最も金融資産保有額が高いのは70歳代になりますが、それでも1500万円です。
このように、平均値や中央値から推察すると、恐らく新NISA+iDeCoを夫婦でフル活用した時の合計非課税枠である5532万円を超える金融資産を持っている人は、本当にごく一部に過ぎないと考えられます。
つまり、大半の人は非課税枠の範囲内で投資が出来るので、ここで金融所得課税の強化を持ち出したとしても、国民からはそれほど大きな批判が生じないかも知れないという考えが、岸田内閣にはあるのかも知れません。
事実、金融関係の方数名に話を聞いたところ、「新NISAと引き換えに金融所得課税の強化が必ず出てくる」というのが共通認識でした。ということは、2024年からスタートする新NISAについては、「いちいち口座を開設するのが面倒」などと言っているどころではなく、誰もが皆、それを開設するべきものと考える必要がありそうです。