過去の値動きから学べること

皆さまのiDeCoや企業型確定拠出年金(企業型DC)の運用状況はいかがですか?

5月末から6月初旬というのは多くの企業型DC加入者の方に残高通知が届く時期です。少しずつ電子化が進みPDFがメールで届くという方もいらっしゃるかもしれませんが、3月末基準の年金資産の時価評価額や運用商品ごとの損益などが封書で届くのが一般的です。

iDeCoや企業型DCは“ほったらかし運用”が基本ですが、せめて年に1回、ご自身の年金資産がいくらぐらいになっているか、今のままの商品配分でよいか確認し、必要があれば商品変更をスマホなどで行ってください。

そして、今年は商品について、同封されている簡易な運用実績グラフを眺めるだけでなく、もう一歩進めて「運用報告書」を見て保有している投資信託の値動きについて学んでみませんか? 加入者サイトの商品ページにPDFで掲載されているので簡単にご覧いただくことができます。

「運用報告書」には過去1年の運用において、運用成績がどうだったというだけでなく、その背景にある経済事象の解説が書いてあります。「金利が上がった」「為替が円安になった」という事象が自分の保有商品に「影響があったのか」「影響なかったのか」「その度合いはどのくらいだったのか」がわかっていれば、今後同じようなこと、または逆のことが起きたときに「値上がりしそうか」「値下がりしそうか」という予測がある程度つきます。

こういったマーケットセンスを磨いておくと商品配分を考えたり、60歳以降になって売却して受け取る判断をしたりする際に役立ちます。とくに自らが保有している商品で運用実績とその背景を学ぶのが体得しやすく、実益にもつながるのでおすすめです。

運用報告書に書かれていること

運用報告書というのは、その名の通り商品の運用状況について決算ごとに過去1年どうだったかをまとめたものです。運用報告書には交付運用報告書と運用報告書(全体版)があり、詳細版にあたる交付運用報告書には、過去1年の運用経過だけでなく、組み入れ資産の明細なども書かれています。掲載項目や順序が決まっているので、主な項目と見るべきポイントを解説します。

 

「野村外国債券インデックスファンド(確定拠出年金向け)」の交付運用報告書(2022年5月) 出所:野村アセットマネジメント

(1)運用経過の説明
ここでは、決算前1年間の運用経過がグラフや表を用い説明されています。また、基準価額の主な変動要因及び投資環境について文章で簡潔にわかりやすく示されています。

ぜひ読んでいただきたいのが「基準価額の主な変動要因」です。数行ですが、改めて自分が保有している投資信託の価格変動要因を知ることができます。

例えば、ある外債インデックスの昨年の運用報告書では「外国債券利回りが上昇(価格は下落)したことはマイナスに影響しましたが、主要通貨が対円で上昇(円安)したことがプラスに寄与したため、基準価額は上昇しました。」とありました。

昨年は日本以外の先進国で金利の引き上げの動きがあったことはニュースでよく報じられていましたよね。一方、あまり報じられていませんでしたが、外国債券は「利回り」の上昇が起こり、現地通貨ベースでは外国債券価格が下落していました。「債券の価格は金利が上がる局面では下がる」というセオリー通りの動きをしていたのです。しかし、為替が2022年には1ドル=115円ぐらいだったのが140円に、ユーロも1ユーロ130円から145円ぐらいにと大幅に円安に振れたことで、円ベースでは外国債券の価格はプラスとなり、外国債券投資信託の価格はプラスだったことがわかります。

「基準価額の主な変動要因」をこの1年間聞いたニュースを思い起こしながら読んでいただくと、みなさんが研修会で聞いた「景気」「金利」「為替」といったことが保有資産に与える影響を実感頂けると思います。

費用の項目では、「総経費率」をご覧ください。これまでは投資信託の運用をお任せする時の手数料としては「運用管理費用(信託報酬)」をチェックするのが一般的でしたが、実はそれ以外にも費用として、預けている資産から差し引かれているものがあります。この「その他の費用」は、一般的には信託報酬に比べてそれほど大きくないのですが、「総経費率」で比較する方がより正確なコスト比較となります。

「その他の費用」としてほとんどの投資信託が計上しているのが、監査法人等に支払うファンドの監査に係る費用です。海外の資産に投資する場合は、外貨建て資産の保管銀行等に支払う保管等の費用です。他にも、インデックスなどの指数を使用するための使用料や法令上作成が義務付けられた書類の印刷費用などを運用管理費用に含めるのではなく、「その他の費用」で計上する投資信託もあります。

2024年4月からは、目論見書にも記載することが決まっているので、今後は投資信託のコストと言えば、「総経費率」となっていくと思います。

他にも運用経過として、最近5年間の基準価額などの推移、ベンチマークとの差異、分配金についても確認できます。

(2)今後の運用方針
組入資産毎に、目論見書に記載された今後の運用方針が文章で簡潔にわかりやすく示されています。

アクティブ運用の投資信託を選んでいる場合は、この部分をぜひ読んでください。運用している人たちがマーケットの先行きをどう考えて、どういう戦略で運用しようとしているのか確認し、自分が賛同できるのか改めて確認してください。

(3)お知らせ
約款の内容の変更や運用体制の変更など重要な事項があった場合は、その内容が記載されます。「該当事項なし」ということが多いですが、チェックしておきたい項目です。

(4)投資信託の概要
その投資信託の概要(商品分類、信託期間、運用方針、主要投資対象、運用方法及び分配方針)について表を用いて示されています。

(5)代表的な資産クラスとの騰落率の比較
参考情報として、過去5年の「代表的な資産クラスとの騰落率の比較」について、下記のように帯グラフなどデータがまとめられています。他の資産クラスにくらべて、平均値が高いのかどうかや、最大値と最小値の幅から、いい時と悪い時のブレ幅を確認できます。特に、市場の状況によっては悪い時の最小値ぐらいに下落することを改めて確認しておくといいと思います。

出所:野村アセットマネジメント「野村外国債券インデックスファンド(確定拠出年金向け)」交付運用報告書(2022年5月)よりFinasee編集部作成

 

(6)当該投資信託のデータ
組入資産の内容がグラフや表を用い、わかりやすく示されています。「種類別構成」で資産別、国・地域別、通貨別の投資割合を把握すれば、資産分散する際の参考情報になります。さらに「組入上位ファンドの概要」にある「組入上位10銘柄」を見ると、自分のお金が実際に何に投資されているか、何の価格が上がると自分の年金資産が増えるのかイメージが湧くと思います。

運用報告書は、みなさんが想像しているよりも平易な言葉で書かれています。決算日から2カ月程度で新しい運用報告書が公開されます。自分が大切な年金資産を託している商品を実際のマーケットとの関係の中で知ることは、運用スキルを上げていくことにつながります。この機会にぜひチャレンジしてみてください。