SBI証券と楽天証券は株式手数料を原則として無料化しました。顧客が2社に流れれば証券会社全体で委託手数料が見込みづらくなります。証券会社にとって金融収支がますます重要な収益源となるでしょう。

【SBI証券と楽天証券の委託手数料と金融収支(2022年度通期)】

   委託手数料   金融収支 
 SBI証券 395億円 372億円
 楽天証券   298億円 231億円

出所:各社の決算短信

証券会社の金融収支は「信用取引」が大きな割合を占めています。今後はキャンペーンなどで信用取引へ誘導する動きが見られるかもしれません。

ただし信用取引は一般に高リスクな取引です。安易に始める前に注意点を押さえておきましょう。

自己資金以上の売買ができる高リスク取引

信用取引は証券会社から資金や株式を借りて行う株式取引です。顧客はその対価として金利や貸株料を支払い、証券会社の収益となります。

借りられる金額は、担保として差し入れる現金や金融商品のおおむね3.3倍です。例えば1000万円分の担保があるとき、約3300万円までの取引ができます。

信用取引のメリットは資金効率の高さです。大きな金額で取引できるため、現物取引より大きな利益が期待できます。現物の株式や投資信託などを担保に差し入れ、信用取引でさらに別の株式に投資することも可能です。

「売り」から取引できる強みもあります。通常、株式は値上がりしなければ利益になりません。しかし信用取引なら値下がりでも利益を得られます。証券会社から借りた株式を売り、より安い株価で買い戻せば差額が利益となるためです。

このように信用取引にはメリットが少なくありません。しかしリスクの高さには注意する必要があります。自己資金以上の金額で取引すれば大きな利益が期待できますが、損失も大きくなるためです。相場が思惑と反対に動いたとき、現物取引よりも損失が広がる可能性があります。

ほかに議決権といった株主の権利がないこと、一定以上の評価損で強制決済される可能性があること、金利や貸株料など特有のコストがあることにも注意が必要です。

なくならない過当勧誘 証券会社に狙われる信用客

対面型の証券会社の場合、信用取引そのもののリスクだけでなく担当者にも注意する必要があります。高額取引が可能な信用取引は、たびたび「過当勧誘」が問題視されてきました。顧客の属性に照らし、不適切なほど高頻度・高額の取引を勧誘する行為です。

例えば以下の事例では、証券会社の担当者が主導し半年間で760回もの取引が行われました。取引のほとんどは新興市場銘柄や日々公表銘柄(※)など大きな値動きが予想される銘柄でした。短期間で売買を繰り返すため、あえて値動きの大きい銘柄を選んだと推測されます。

※日々公表銘柄:証券取引所が信用取引の残高を毎日公表する銘柄。投機的な値動きをしている銘柄など、ガイドライン基準に該当した銘柄で公表される。

事案は、小さな会社の60歳代の経営者(男性)が、平成29年6月〜11月の6ヶ月間に行われた信用取引で約4710万円の損害を被ったことについて、過当取引の違法を理由に不法行為を認め、さらに、担当者の個々の銘柄の取引に関する情報提供義務違反及び指導助言義務違反も認めた事件である……(略)……本件信用取引の取引回数(新規426回、決済334回、合計760回)、保有期間(日計り(※)約35%、3日以内が約7割)、買付総額(12億円4900万円余)から、短期、多数回、高額の売買が行われたといえる

※日計り(ひばかり):新たに建てた注文をその日のうちに決済すること。

引用:全国証券問題研究会 名古屋地裁 令和3年1月20日判決

1日に1回しか値段が付かない投資信託と異なり、株式は1日に何度も売買できる商品です。買いと売りの双方で手数料が見込めるため、頻繁に売買する顧客は証券会社にとってありがたい存在です。大きな金額で取引できる信用取引はなおさらで、担当者の手数料稼ぎにはより警戒しなければいけません。

信用取引は正しく理解すれば便利なツールです。しかし注意点も多く、初心者向きではありません。自分に必要か冷静に自問し、もしも信用取引に臨むなら無理のない金額で行うようにしましょう。

特に対面型の証券会社の場合、担当者のアドバイスをうのみにしてはいけません。自分でも必要な情報を集め、冷静に判断するようおすすめします。

文/若山卓也(わかやまFPサービス)