日本は食品に対する意識が高く不祥事には強い拒絶反応が起こるケースが珍しくありません。これまで食の安全を脅かす事件が数多く発生してきました。中でも大手食品メーカーが産地偽装に関わった「雪印食品牛肉偽装事件」は記憶に新しい方も多いでしょう。

21年前の今日、事件の中心となった雪印食品が解散を迎えました。一体何が起こったのか、事件の概要を振り返りましょう。

老舗企業が食品偽装…内部告発で明るみに

2002年1月23日、衝撃的なニュースが報じられました。雪印食品が輸入牛を国産牛と偽り国や業界団体などから1億9000万円もの補助金をだまし取ったという内容です。

当時は国内で発見されたBSE(牛海綿状脳症。いわゆる狂牛病)対策として牛肉の全頭調査が行われており、調査より前に解体された国産牛は国による買い上げが実施されていました。事件は雪印食品がこの制度を悪用し、輸入牛を国産牛として申請し不正に補助金の受給をもくろんだものです。

事件が明るみに出たきっかけは西宮冷蔵による告発でした。同社の倉庫で牛肉の詰め替えが行われていたことをマスコミに明かし、雪印食品は世間から強い批判を浴びます。翌2月には雪印食品の再建断念を発表し、4月末に解散となりました。大正から続く雪印グループ最大の不祥事といえるでしょう(雪印食品の設立は1950年)。

その後大手企業が同様の手口を働いていたことが相次いで発覚します。6月には日本食品、8月には日本ハムの関与が明らかになりました。食に対する安全がこれほど脅かされた事件はないでしょう。

出所:農林水産省 牛肉在庫保管・処分事業に係る偽装事件の概要

“雪印ブランド”を回復させた取り組み

雪印グループは2000年にも食中毒事件を起こしていたこともあり、事件から信用が失墜します。同社のお客さまセンターには事件後、月に1万件もの問い合わせが寄せられました。

これを受け雪印グループはブランドの復活を目指し「新再建計画」を打ち出します。コーポレートガバナンスや品質保証などを策定し再発防止を目指したものです。消費者や生産者からの意見も集め企業体質の改善に努めました。

取り組みが実ったのか雪印グループの業績は回復に向かいます。新再建計画には具体的な財務目標も盛り込まれましたが、2005年9月に半年間の前倒しで達成しました。

【雪印グループの新再建計画における財務目標】
・2003年度の黒字化(2003年度に達成)
・2005年度の未処理損失一掃(2004年度に達成)
・2006年度決算における復配(2006年度に達成)

雪印グループの中核を担っていた雪印乳業は2009年に同業の日本ミルクコミュニティと経営統合し「雪印メグミルク」として生まれ変わります。これにより事件後に失っていた市乳事業(牛乳などの製造販売)をグループに取り戻し、今日では6000億円以上の売上高を持つ大手乳製品メーカーとなりました。

【大手乳製品メーカーの売上高】
・明治ホールディングス:1兆1917.65億円
・雪印メグミルク:6151.86億円
・森永乳業:5835.50億円
・ヤクルト本社:3857.06億円

※いずれも2021年3月期

売り上げ8000億円を目指す中期経営計画の中身

雪印グループはさらなる飛躍に向け2017年に中期経営計画「グループ長期ビジョン2026」を策定しました。現在はその第3ステージに位置しています。

【雪印メグミルクグループ長期ビジョン2026】

出所:雪印メグミルク 雪印メグミルクグループ「グループ長期ビジョン2026」「グループ中期経営計画2019」および「雪印メグミルクバリュー」の策定について

中期経営計画では具体的な数値目標も示されました。2026年度(2027年3月期)までに売上高は最大8000億円、営業利益は最大400億円を目指す内容です。

【雪印メグミルクグループ長期ビジョン2026の数値目標(一部)】

雪印メグミルク 2020年3月期決算説明「グループ中期経営計画2022」(数値偏)

しかし株価は芳しくありません。雪印メグミルク株式は2017年から下落トレンドを形成し2022年は2000円前後で推移していましたが、最近では1700円台まで落ちています(2023年4月6日時点)。株価浮上の鍵は中期経営計画の成否が握っているかもしれません。

執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。