かつてないほど注目を浴びるアクションスポーツシーン。その発展のために、FINEPLAYが送る多角的視点の連載「FINEPLAY INSIGHT」最終回。

アクションスポーツやストリートカルチャーのために、ビジネス視点を交えて提言を行ってきた本連載「FINEPLAY INSIGHT」も、今回が最終回です。

全12回を目標に続けてきた本連載。かねてより、最終回のテーマについては幅広いリクエストをいただいてましたが、やはりこのタイミングでは東京五輪を経て、これからやってくるであろうアクションスポーツの新時代、とくにここでは企業やメディアからの商業的な需要とどのように向き合っていくのか、メモ代わりに記しておきたいと思います。

商業的な需要に対して、構えきれていないアクションスポーツシーン

開催にも賛否両論あった東京五輪ですが、やはり僕たち「ストリート側」の立場からすれば、スケートボードのストリート男女金メダル、同じくスケートボードのパーク女子のダブルメダル、スポーツクライミング女子のダブルメダル、サーフィンの男女メダルなど、輝かしい成績を残してくれた新競技の日本代表アスリートによる活躍が記憶に新しいです。もちろん、メダル獲得に限らず、初開催となったこれらの競技におけるすべてのアスリートの姿に、僕もいたく感動し、励まされた一人です。

スケートボードを中心に、新しい風を吹き込んだアクションスポーツは連日メディアでも取り上げられています。メダリストたちはおそらく今後(原稿執筆時点は2021年8月)テレビCMなどの声もかかってくるでしょう。スケートボードでは、堀米雄斗選手をはじめ世界中のライダーが数多く着用した<NIKE SB>のParraデザインによるウエアが競技当日に飛ぶように売れたとか。街のスケートボード教室には、たくさんのキッズたちが見学に訪れていると聞きます。明らかに、アクションスポーツを取り巻く社会的な環境が一歩前に進んだ、そんなエポックメイキングな出来事が東京五輪でした。

また、2024年パリ五輪の新種目として採用が決まっているブレイキンでも、世界で活躍しているB-boy Shigekixが閉会式当日のIOCによるインスタライブに登場するなど、早くも世界中から注目が集まっている様子です。

この場で言うまでもなく、かつての五輪を象徴していた姿とは異なるアスリート像を、アクションスポーツのアスリートたちは体現してくれました。10代からグローバルな環境に身を置き、ユニバーサルなコミュニティの一員として、自分の表現や生き方、まさにライフスタイルとしてそれぞれのカルチャーに向き合っています。ゼッケンスポーツから、ライフスタイルスポーツへ。次世代のロールモデルとなりつつあるアクションスポーツのアスリートに企業やメディアが注目することは、時代の流れとして必然と言えるでしょう。アクションスポーツやストリートの文化には、この連載の第1回で述べたような、今の社会から見ると羨ましい性質がそもそも備わっているのです。

Photo by Patrick Smith/Getty Images

アクションスポーツが直面するであろう課題と対応策

手探りの消費が始まる

当面は、企業やメディアも手探りでアクションスポーツの消費を始めるでしょう。いわゆる「ツバをつけてみる」というやつです。とりあえずよくわからないけれど、若い人たちに人気があるみたいだし、CMや番組にスケーターを出してみようか、B-BoyやB-Girlを出してみようか、なんとなくストリート風味の映像を作ってみようか、みたいな企画がポツポツ増えてくると思います。

この時点でシーン側は、企業やメディア(ときには行政すら)が本当にカルチャーやシーンを支援するつもりは「ない」と思っていたほうが得策です。「今は小さい話だけど、あとから大きなスポンサーがつくかも…」という淡い期待は持つべきではありません。なぜなら企業側はビジネスのリターンがなければいつでも支援を打ち切りますし、担当者が異動になればシーンへの熱もどこかへ立ち消えてしまいます。ネガティブですが、ビジネスとは生物(なまもの)で、そういうものと割り切るのが良いでしょう。第1回でお話したように、「スポンサー」というのは甘い蜜、魔の思考停止ワードなのです。

また、もう一つ持つべきでない期待が、「競技人口が増えるかも」というものです。これは非常に多い誤謬(ごびゅう)なのですが、第7回で説明したように、競技人口が増えても、ビジネスチャンスが広がるとは限りません。むしろ、ビジネスの規模と競技人口は負の相関関係ですらあります。 競技人口そのものよりは、観戦人口を増やすように注力するべきです。 「(特にメディアで)観て面白いもの」にしていくことが、スターを産むための必要条件なのです。そのために、ルールの明確化などの努力は絶えず続けていく必要があります。(繰り返しですが、カルチャーとしての発展はこの限りではありません)

第7回図表 競技人口が増えても、競技団体の収益は増えない(再掲)

橋渡し人材の必要性

現時点では、こうした企業やメディアの熱視線とは裏腹に、アクションスポーツシーン側の体制がまだまだそれ(=商業的な需要)に対応できるものになっていないのが大きな課題です。ここまでビジネスチャンスとして注目されてくると、発展途上であるアクションスポーツ側のビジネスリテラシーの構築が急務になってきますが、ビジネスとアクションスポーツシーンとの間を橋渡しできる人材は非常にまれです。

アクションスポーツやストリートカルチャーがビジネスになっていくことの賛否は、ここでは論点ではありません。歴史が証明しているように、賛成か反対か、白か黒か、右か左か、という議論は常に分断を生んできました。ビジネスになっていくことは当然、メリットもデメリットもあります。少なくともメリットがある限り、上手くバランスを探りながら共存の道を実現していくことが、より多くのプレイヤーにとって最大幸福となるのではないでしょうか。

シーン側では、FINEPLAYで行ったワークショップのような、ビジネスリテラシーを学ぶ場がもっと増えていくと良いでしょう。広告代理店や企業がそういったワークショップを提供できれば、双方にとって中長期的にメリットが生まれます。逆にそういった場を通じて、広告代理店や企業側もシーン側の言語をすくい取り、本質的な課題の相互理解から対話をスタートしていくべきです。僕は「スポンサー」よりも、数万円で出来るそういった活動のほうがよっぽどブランド資産の向上に資すると考えています。

消費されないために、シーンどうしの横連携を

では、都合よく消費されないためのソリューションは何か。

一つの解は、アクションスポーツの各競技団体が横連携し、 特に、失敗経験の情報共有をしていくことです。場合によっては、この企業とこんなことがあった、この番組とこんなことがあった、という生々しい情報交換で良いでしょう。我々は弱者、被消費者であるという共通認識のもと、スケートボードもブレイキンもBMXも、共有知として情報交換の場を定期的に作っていくべきです。私もFINEPLAYをはじめとして、利害の無い第三者の視点からそういった仕組みづくりを支えていければと思っている一人です。

そうした情報共有を横連携で行いながら、上述したような「淡い期待」でアスリートやコンテンツを安く売らない。甘い数万円の誘いに乗らず、自分たちの価値を守る。その一方で、ビジネスとして成立するような価値算出作業(=フェアな値付け)を、共有知をベースに行う。その動きなくして、街の教室に生徒は増えても、シーン全体やトップアスリートの境遇はあまり改善されないでしょう。価値の歪みが残るからです。

実際に僕の身近なところでも、世界的な企業からテストマーケティング的なアプローチを受けて、つい「あれもこれも」と安請け合いをしてしまった、という悔しい例が起きています。最初の値付けや実績価格はアンカリングと言って、その後の価格決定に無意識に影響を及ぼします。たかだか数万円でも、安請け合いの実績は、後々高くつきます。トップアスリートがエージェントとマネジメント契約をしっかり結ぶべき理由は、この点にあります。

企業とのエンドースメント契約は大きなチャレンジ

良い意味のチャレンジは、企業とのエンドースメント契約でしょう。第11回で解説したように、数十万ドル規模の賞金が設定される大会を別として、アクションスポーツアスリートの収入の多くは企業からのエンドースメント契約によるロイヤリティ収入です。ロイヤリティはティは売上の一部ですから、要するに、その契約によって売り出される商品の売り上げが大元の収入源です。

スケートボードアメリカ代表のナイジャ・ヒューストン選手は、すでに<NIKE SB>と契約し、彼の名を冠したシグネチャーモデルが世界中で販売されています。例えば、120ドル×世界で5万足(=600万ドル)が年間で販売されたとします。ロイヤリティ率が彼に知らされているとは限りませんが、<NIKE SB>からすれば、600万ドルを原資として彼にエンドースメントの契約金を払うことが可能です。仮に5%だとしたら、シューズだけで30万ドル(約3,300万円)です。本稿執筆時点(2021年8月)では未定ですが、近いうちに<NIKE SB>から堀米雄斗選手のシグネチャーモデルが発売されるかもしれません。

シューズ以外にも、アパレルやサプリメント、ギアなど、多くの周辺ビジネスでエンドースメント契約は存在します。この連載でも繰り返し述べてきたように、企業に消費されるのではなく、収益を一緒に生み出すパートナーになれるかどうか。シーン側はもちろん、企業側も、前例がなくともそうした目線で契約スキームを構築してみる、良いタイミングではないでしょうか。

Little Shao/Red Bull Content Pool

2024年のパリ五輪へ向けて:変わっていくキャリア

もちろん、エンドースメント契約のようないわゆる「プロ」のキャリアだけがシーン発展の機会ではありません。第2回でも触れたように、アクションスポーツのアスリートが企業に所属しながら活動していくことも、キャリアの観点から大きな意味があります。特に親和性の高い業種の企業は、アクションスポーツ部の設立を是非検討してみてはいかがでしょうか。社員としての多様な貢献が企業にとって見通せるのであれば、「スポンサー」でお金を消費するよりも、より本質的で意義のある取り組みになるでしょう。

また、今回の東京五輪でも見られたように、10代で世界トップへ上り詰める、早熟なキャリアパターンも今後一般化するかもしれません。10代で競技キャリアの全盛期を迎え、20代でよりカルチャーへの貢献にフォーカスし、上述したように所属企業を通じてシーンの発展を支えるようなアスリート像があってもいいでしょう。引退してから大学に通ったりすることも、海外ではよくあることです。日本の学生平均年齢は世界でも最も若い部類ですが、大人になってから学生になる選択肢がもっと一般化していってもよいはずです。

コーチングの重要性が増していく

他に、コーチや指導者の専門職キャリアも今後重要性が増していきます。現代のトップアスリートには、メンタル・フィジカル両面での科学的なメソッドを構築できる、一流のコーチングが避けて通れません。メジャースポーツのトレーナーや専属コーチは年収10万ドルでは雇えないほど価値が高まっています。今は早くから海外に渡って世界最先端のシーンで腕を磨くアスリートも多いですが、その側(そば)でメンタル含めて指導でき、基礎トレーニングから競技の高度な技術まで一貫したメニューをデザインできるコーチの存在は、これから価値を増していくでしょう。

ユニバーサルなコミュニティの可能性

東京五輪では、アクションスポーツアスリートが競技へ向き合うスタンスが大変新鮮に映ったようです。怖い監督に言われるままでもなく、あくまで主体的に競技を楽しんで、ジャム的に大会へ参加する。相手の国籍には興味もくれない。男女も障害も出自も、どうでもいい。そんなユニバーサルな感覚で競技を楽しみ、10代のうちから、グローバルなコミュニティの一員となっているのです。

そんな新しい時代のスポーツ文化を、アクションスポーツアスリートがどんどん切り拓いてくれるでしょう。そしてそれは決してスポーツに限らず、社会全体に「こういう生き方もあるんだよ」「わたしはこうやって生きているんだよ」ということを投げかけてくれることでもあります。多様性が叫ばれて久しいですが、多様性とは体型や性的価値観のことではありません。78億人一人ひとりがのびのびと、自分の意志で生きてゆけることです。そんな世界に一歩ずつ近づいていくことが、楽しみで仕方ありません。僕も端くれとして、何かシーンのために力になれることがあれば嬉しいです。

AUTHOR:阿部将顕/Masaaki Abe(@abe2funk)
BOX LLC. Co-Founder   

大学時代からブレイキンを始め、国内外でプレイヤーとして活動しつつも2008年に株式会社博報堂入社。2011年退社後、海外放浪を経て独立。現在に至るまで、自動車、テクノロジー、スポーツ、音楽、ファッション、メディア、飲料、アルコール、化粧品等の企業やブランドに対して、経営戦略やマーケティング戦略の策定と実施支援を行っている。建築学修士および経営管理学修士(MBA)。

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