日経平均は続落。60.14円安の29062.04円(出来高概算6億3591万株)で前場の取引を終えている。

 10日の米株式市場でダウ平均は30.48ドル安(−0.09%)と小幅に3日続落。4月消費者物価指数(CPI)でインフレの鈍化基調が確認されたため利上げ停止観測が高まり、上昇して始まった。ただ鈍化ペースは依然遅く、また根強い景気後退懸念もくすぶり、ダウ平均は下落に転じた。一方、金利低下に伴うハイテクの買いが続き、ナスダック総合指数は+1.04%と反発。ダウ平均の下落や為替の円高を受けて日経平均は11円安からスタート。序盤は売りが先行し、早い時間帯に29028円(93円安)まで下げ幅を広げたが、心理的な節目近くからは買い戻しが優勢となり、下げ止まった。ただ戻りは鈍く、その後も軟調に推移した。

 個別では、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)の上昇を受けてレーザーテック<6920>、アドバンテスト<6857>、ディスコ<6146>が買われ、日東電工<6988>、新光電工<6967>、三井ハイテック<6966>などハイテクの一角も高い。決算など業績関連のリリースを受けてOATアグリオ<4979>、じげん<3679>、ミツバ<7280>、スペース<9622>がストップ高となり、オカムラ<7994>、イーグル工業<6486>、メンバーズ<2130>、Uアローズ<7606>、シュッピン<3179>、オエノンHD<2533>、SREHD<2980>なども2ケタ台の上昇。第1四半期好決算を受けてサンアスタリスク<4053>、セグエ<3968>はストップ高買い気配となっている。主力どころでは富士フイルム<4901>、パナHD<6752>、ヤマトHD<9064>、東急不HD<3289>などが決算を材料に買われた。

 一方、為替の円高が重しとなり、前日に決算を発表したトヨタ自<7203>をはじめ、ホンダ<7267>、マツダ<7261>など自動車が軒並み下落。前日に決算が失望されて急落した日本製鉄<5401>は反発しているが、JFE<5411>、神戸製鋼所<5406>など鉄鋼は軟調。郵船<9101>、川崎汽船<9107>の海運、三菱重工業<7011>、川崎重工業<7012>、IHI<7013>の重厚長大産業、三井物産<8031>、住友商事<8053>の商社など景気敏感株は総じて冴えない。決算を受けて住友鉱<5713>、日本ケミコン<6997>、メイコー<6787>、メック<4971>などが大きく下落し、第1四半期大幅減益となったセレス<3696>は急落している。協和キリン<4151>は新薬の開発中止に伴う業績予想の下方修正が失望されて急落。

 セクターでは非鉄金属、海運、倉庫・運輸が下落率上位に並んだ一方、石油・石炭製品、鉱業、サービスが上昇率上位に並んだ。東証プライム市場の値下がり銘柄は全体の57%、対して値上がり銘柄は38%となっている。

 前日に発表された米4月消費者物価指数(CPI)は前月比+0.4%と市場予想に一致した一方、前年比では+4.9%と市場予想(+5.0%)を小幅ながら下回った。また、食品・エネルギーを除いたコア指数は前月比+0.4%、前年比+5.5%と共に市場予想に一致した。上振れが警戒されていただけに、今回の結果は目先の安心感につながったもよう。住宅価格に対して1年超もの遅行性があり上昇が続いていた住居費は前月比+0.4%と、2月(+0.8%)と3月(+0.6%)からの鈍化傾向が続き、粘着性の高かったサービス価格の上昇率鈍化も明確に見られるようになった。

 しかし、米4月CPIはモメンタムを示す前月比では総じてプラスが続いている。総合は+0.4%と3月(+0.1%)から大きく加速し、コア指数は前月比+0.4%と3月と同じ伸びが続き、鈍化していない。前年同月比では総合およびコア指数ともにわずかに鈍化したものの、ペースはあまりに緩慢と言わざるを得ない。米連邦準備制度理事会(FRB)のインフレ目標である+2.0%を大幅に上回る状況は当面続く状況であり、市場が期待するような年内の利下げは、金融危機や景気後退が深刻化しない限り、引き続き見込みにくいだろう。

 東京株式市場の反応も冴えない。米CPI鈍化を受けた金利低下により、ハイテク・グロース(成長)株は上昇しているが、日経平均や東証株価指数(TOPIX)は為替の円高が重しとなる形で軟調に推移している。マザーズ指数や東証グロース市場指数などは上昇しているが、上昇率は小幅にとどまっている。前日の米株式市場でも、ハイテク中心のナスダックは上昇したが、ダウ平均は下落するなどまちまちでCPIの結果は株高の火付け役としては機能していない。

 対ドルで円が1円ほど上昇している中でも、日経平均が29000円を維持している点は底堅さを感じるが、今週で決算発表が一巡することを考えれば、現状の株価水準からの一段高にはやはり材料不足の感が否めないだろう。米国でも興味深い分析があり、金融大手ゴールドマン・サックスによると、アップルやマイクロソフトなどのITセクター上位5銘柄だけで年初から5月初旬までのS&P500種株価指数の上昇分の約9割を説明できるという。

 決算一巡で手掛かり材料が乏しくなっていく中、今後は株式市場の一段高よりは調整局面を警戒した方がよさそうだ。前日後場に決算を発表したトヨタ自動車<7203>の動きも気掛かりだ。今期計画は概ね市場予想に一致しサプライズに乏しかったものの、為替前提が保守的な点を踏まえると悪くない見通しだったと捉えられる。また、自社株買いの発表や前期第4四半期の市場予想比での上振れ着地、そして半導体などの部材調達環境の改善に自信を示した会社側の姿勢なども合わせて考慮すると、好感されてもおかしくない内容だった。

 しかし、前日の同社株価は決算の発表直後に一時2%超にまで上昇率を拡大したが、結局その後は伸び悩んで上げた分はほぼ吐き出した。さらに本日は為替の円高もあるが、1%を優に超える下落率となっている。自動車株の中でも出遅れ感が強かっただけに見直し余地は相対的に大きかったはずであるが、今回の同社株の決算反応は投資家の景気に対する先行き警戒感の根強さを裏付けているといえそうだ。

 なお、本日はソフトバンクグループ<9984>、東京エレクトロン<8035>などの決算が予定されているほか、米国では4月卸売物価指数(PPI)が発表される。
(仲村幸浩)