日経平均は反発。88.55円高の30976.43円(出来高概算6億9193万株)で前場の取引を終えている。

 5月31日の米株式市場でダウ平均は134.51ドル安(−0.40%)と続落。債務上限問題を巡り「財政責任法案」の下院採決を控えた警戒感から売りが先行。予想を上回った4月JOLTS求人件数を受けた追加利上げ観測の高まりなども重しとなった。一方、米連邦準備制度理事会(FRB)高官らの発言を受けて利上げの一時停止機運が再浮上すると下げ幅が縮めた。ナスダック総合指数は−0.63%と4日ぶり反落。本日の日経平均1.87円安からスタート。月末のリバランス(資産配分の再調整)目的の売りが一巡したあく抜け感などから買いが先行し、前場中ごろには31185.05円(297.17円高)まで上昇した。しかし、米財政責任法案が下院で可決されたと伝わってからは好材料出尽くし感から売りが強まり、再び下落に転じた。その後前引けにかけては改めて買い戻しが入り、プラス圏に再浮上した。

 個別では、ソフトバンクG<9984>、ソシオネクスト<6526>、ルネサス<6723>、ソニーG<6758>のハイテクの一角が大幅高。前日に大きく売られた商社株が買い戻されており、三菱商事<8058>、三井物産<8031>、伊藤忠<8001>などが大きく上昇。ダイキン<6367>は3カ年の戦略経営計画が好感されて大きく上昇。業績・配当予想を上方修正した菱洋エレク<8068>はストップ高。目標株価が引き上げられた日本CMK<6958>、自社株買いを発表したシグマクシス<6088>なども急伸。一方、アドバンテスト<6857>、ディスコ<6146>の半導体の一角や、京セラ<6971>、ファナック<6954>、イビデン<4062>、TDK<6762>などのハイテクが軟調。為替の円高を嫌気して三菱自<7211>、マツダ<7261>、ブリヂストン<5108>など自動車関連は大きく下落。大平洋金属<5541>はレーティング格下げを受けて大幅安となっている。

 セクターでは卸売、情報・通信、精密機器が上昇率上位に並んだ一方、ゴム製品、パルプ・紙、保険が下落率上位に並んだ。東証プライム市場の値上がり銘柄は全体の49%、対して値下がり銘柄は45%となっている。

 前場の日経平均は乱高下する荒い展開となった。前日は久々の大幅安となったが、これまでの上昇相場のけん引役だった商社株が特に大きく崩れたあたりから、あくまで月末のリバランス(資産配分の再調整)目的の売りが主因だったのではないかとの指摘があった。実際、本日はリバランス売り一巡に伴う需給改善やそれを見越した売り方の買い戻しが入ったか、日経平均は寄り付きからするすると値を切り上げ、あっさりと31000円を一時回復した。

 一方、日本時間午前7時前から米下院での採決プロセスに入っていた「財政責任法案」が可決されたと伝わってからは好材料出尽くし感からか、急速に値を崩し、日経平均はマイナス圏にまで落ちる場面がみられた。米債務上限問題については、前日に共和党の強硬派議員らから、バイデン米大統領とマッカーシー下院議長の合意に対して報復宣言が出されるなど、無事に可決されるかやや懸念されていた。このため、特に難航が予想されていた下院で可決されれば素直に買いで反応するかと思われたが、実際には出尽くし感で売りが強まったもよう。

 その後、日経平均は再度31000円を回復する場面もあるなど底堅さも見せているが、好材料に素直に反応できなくなっているあたり、これまでの強気一辺倒だった状況からはややムードが変わってきている印象を受ける。

 為替も米国時間に一時1ドル=140円台を回復したが、同水準を再び割り込むとさらに円高方向に動いてきている。これまで日米金利差拡大に加えて、海外投資家が日本株を買う際にヘッジ目的で同時に円を売っていたことが円安・ドル高の要因となってきたが、円安が一服し、円高に傾いてきているあたりから、海外勢の買いが一服してきた感が窺える。

 米債務上限問題がほぼ解決したことで米国債を巡る先行き不透明感が後退し、再び米国債の需要が高まることも想定される。加えて、日本経済新聞社の5月31日付けの記事「米社債市場が急回復、ファイザーが4兆円の超大型起債」によると、足元では米企業による投資適格債の発行額が5月1日から18日で約800億ドル(約11兆2000億円)と、既に4月月間を4割上回る規模にまで増加し、米国の社債発行市場が急回復しているもよう。

 米銀行の経営破綻など金融システムの危機に対して、米連邦準備制度理事会(FRB)らが大規模な流動性供給で対応したことが、これまでのマーケットにおける一時的な弛緩ムードを作り出していた。しかし、米債務上限問題後の米債務短期証券(TB)の大量発行や企業の起債の増加、そしてFRBの金融引き締め継続により、市場に一時的にだぶついていたマネーは吸い上げられ、マーケット環境は再び引き締まってくることが考えられる。

 需給面では先物手口をみると、商品投資顧問(CTA)との連動性の高いドイツ証券は先週まで日経225先物とTOPIX先物で買い越し傾向を続けていたが、今週に入ってからは売り越しに転じており、昨日も両先物で売り方に上位に入っていた。需給面に関する追い風も止んできたとみられる。

 今週末の米雇用統計や来週末の株価指数先物・オプション6月限の特別清算指数(SQ)算出を控えるなか、まだ上方向も含めて荒い展開となる局面は残されているだろうが、徐々に調整モード入りに注意を払った方がよいタイミングがきたと考える。
(仲村幸浩)