日経平均は続伸。236.92円高の31384.93円(出来高概算6億1723万株)で前場の取引を終えている。

 1日の米株式市場でダウ平均は153.3ドル高(+0.46%)と3日ぶり反発。財政責任法案が下院で可決されて警戒感が和らぐも、冴えない小売り決算が重しとなり、寄り付き後は軟調。一方、賃金指標の鈍化や高官発言を受けて6月の利上げ一時停止観測が高まると、ハイテク株の買い戻しが相場を下支え、上昇に転じた後はプラス圏で推移した。ナスダック総合指数は+1.28%と反発。米株高を引き継いで日経平均は152.71円高からスタート。序盤は買いが先行し、一時31424.15円(276.14円高)まで上昇。一方、為替の円高が上値を抑え、その後は伸び悩んだ。ただ、香港ハンセン指数の大幅高が投資家心理を向上させ、前引けにかけては再び騰勢を強めた。

 個別では、ソフトバンクG<9984>やニデック<6594>を筆頭にキーエンス<6861>、新光電工<6967>、パナHD<6752>、日立<6501>など主力の電気機器セクター株が大幅高。ダイキン<6367>、信越化<4063>の値がさ株、三井物産<8031>、丸紅<8002>の商社、三菱重<7011>、川崎重<7012>、IHI<7013>の防衛関連も高い。T&DHD<8795>、東京海上<8766>の保険の上昇が目立っており、第一生命HD<8750>はレーティング格上げも寄与。目標株価引き上げを受けて三菱地所<8802>、住友不動産<8830>も大幅高。エーザイ<4523>はアルツハイマー病新薬の米国での普及を期待視させる報道で大きく上昇。東証プライム市場の値上がり率上位にはインソース<6200>、マネーフォワード<3994>、MSOL<7033>などグロース(成長)株が多くランクイン。メンバーズ<2130>は「Web3」領域の事業拡大が好感された。

 一方、ソシオネクスト<6526>、東エレク<8035>、レーザーテック<6920>、アドバンテスト<6857>の半導体株が軒並み下落。米ブロードコムが決算発表後の時間外取引で下落していることが嫌気されたもよう。東証プライム市場の値下がり率トップはKeePer技研<6036>、5月既存店売上高の伸び鈍化が嫌気された。

 セクターではパルプ・紙、保険、サービスが上昇率上位に並んだ一方、空運、海運のみが下落した。東証プライム市場の値上がり銘柄は全体の86%、対して値下がり銘柄は11%となっている。

 日経平均は続伸し、5月29日に終値ベースで付けたバブル崩壊後高値の31233.54円を超えてきている。前日の米ナスダック指数が1.3%前後、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)が1.55%上昇したのに比べると上昇率は小幅ではあるが、前日の上昇分や為替が円高・ドル安に傾いていることを考慮すれば違和感はない。

 前日に発表された米5月ADP雇用統計の雇用者数は市場予想を大幅に上回り、週次新規失業保険申請件数も予想を下回るなど、改めて米労働市場の堅調さが確認された。一方、ADP雇用統計における賃金の伸びは鈍化した。また、米1−3月期単位労働コスト改定値は前期比年率+4.2%と予想(+6.0%)および速報値(+6.3%)から大幅に鈍化。これらの賃金インフレ鈍化の結果に加えて、フィラデルフィア連銀のハーカー総裁が6月米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ一時停止を示唆したこともあり、米長期金利は一段と低下、ドル円のさらなる下押し圧力として働いた。

 今晩は米5月雇用統計が発表されるが、改めて賃金インフレの鈍化が確認されれば、6月利上げ観測の一段の後退に伴いさらに円高・ドル安が進む可能性がある。その場合、これまで日本株高は円安とともに進んできた背景もあるため、日本株の上値抑制要因となりかねないだろう。

 また、5月31日までの一週間で米国株ファンドが年初来最大となる資金流入を記録したことが伝わっている。この週、米債務上限問題が解決へ向かうとの楽観的な見通しが強まったことが背景にあると考えられる。これまでの日本株高の背景としては、東証によるPBR改善要請やバフェット氏の商社株への追加投資など日本独自の要因もあったが、債務上限問題など米国株を敬遠する材料があったからということも一つの要因としてあるだろう。足元で円安が一服したことに加え、米債務上限問題を巡る不透明感も解消されたことで、消去法的な理由から日本株に向かっていた逃避マネーの流れは小休止することが考えられる。今後も日本株への期待は続くだろうが、少なくとも日本株独歩高の局面は終わった可能性が高い。

 米株式市場ではハイテク株をけん引役にナスダック指数やS&P500指数が堅調に推移している。景気敏感株が足かせになっているダウ平均も200日移動平均線がサポートラインとして機能する形で底堅さを見せており、米債務上限問題も峠を超えたいま、米株式市場は総じて良好な印象を受ける。

 一方、米国で足元発表されている決算がやや気掛かりだ。小売りでダラー・ゼネラルやメーシーズが業績予想を下方修正したほか、小売り以外でも、クラウド型ID管理・統合認証サービスのオクタ、人工知能(AI)ソフトのC3.ai、クラウド顧客管理情報サービスのセールスフォース、サイバーセキュリティサービスのクラウドストライクHDなどの決算が振るわず、株価も揃って下落した。また、AIブームで沸く半導体のブロードコムも、第3四半期(5−7月)の売上高見通しはAI需要の高まりを背景に市場予想を上回ったが、時間外取引では株価は伸び悩んで下落した。エヌビディアの決算を契機に日米の株式市場をけん引してきた半導体株だが、やや買い疲れ感も出てきたようだ。

 東京市場は来週末が株価指数先物・オプション6月限の特別清算指数算出(メジャーSQ)である。足元の堅調な株価推移を受け、来週末までは売り方の買い戻しなどでもう一段の上昇が見込めそうだが、その先は需給の転換が意識されやすい。足元ではファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に焦点が移ってきている様相も見受けられ、主力大型株の上昇は一服する可能性が高い。

 こうしたなか、一方で、米長期金利が明確に低下してきていることが追い風にもなるグロース(成長)株のうち、景気や為替との連動性の小さい情報・通信やサービスといった内需系セクターのグロース企業に注目したい。これらのセクター群はこれまでの日経平均主導の上昇相場においてほとんど恩恵を享受できていなかったことから、出遅れ感の解消に期待したいところだ。
(仲村幸浩)