朝鮮半島有事における今後の展開として、どのような展開が起こり得るのだろうか。



不確実性が増す昨今、未来のシナリオを予測する上で、構造変化などの根本的な変化の可能性などの極端な要因も踏まえた上でストーリーを描いてみる、というアプロ?チ方法を取ることは、危機対応能力を高める上で非常に重要となる(※)。



そこで、北朝鮮が歩む今後の展開として「戦争勃発シナリオ」「北朝鮮自滅シナリオ」「緊張状態継続シナリオ」「朝鮮半島統一など世界融和シナリオ」の4つのシナリオを想定し、それぞれのシナリオが世界経済、ひいては日本経済に与え得る影響を分析してみたい。



※シナリオ分析に関する考え方は、別途「シナリオプランニング、戦略的志向と意思決定【フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議】」を参照



まず本稿では、ひとつめの「戦争勃発シナリオ」をご紹介する。



■米国のジレンマの中ミサイル開発は着々と進む

北朝鮮・金正恩氏の挑発行動は一段と激しさを増してきている。北朝鮮は2016年からミサイル発射のペースを加速、2016年の弾道ミサイルの発射は実に15回に上り、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射を成功させたほか、3発の同時発射なども行っている。



ミサイル発射は2017年に入ってからも同様のペースを維持しており、北朝鮮のミサイル技術のレベル進展が明確化する状況にもなっている。2月12日の弾道ミサイルは「固体燃料を使用した大出力ロケットエンジン」を使用した可能性が高いとされている。固体燃料は、長時間の注入が必要となる液体燃料に対して、常に保存が可能となるため、発射の兆候がつかみにくくなる。



また、3月6日は1度に4発ものミサイルを同時発射している。これは、ミサイルの4発同時発射というよりも同時着弾に意味が大きく、ミサイル防衛を困難にさせるものともいえよう。



そして5月14日に発射したミサイルは高度2000kmにも達する「ロフテッド軌道」を辿ったともみられている。「ロフテッド軌道」は、飛行距離を抑えて高度を高め、ミサイルの落下速度を上げる攻撃方法であり、落下スピードの高速化に伴って迎撃が難しくなるものだ。



このように北朝鮮のミサイル開発は着々と進んでおり、米国にとっても危機的な状況が迫りつつある。現状では、北朝鮮の攻撃力が米国本土に及ぼす影響がほとんどないとみられるが、仮に、大陸間弾道ミサイルが完成してしまうと、ここに核弾頭を搭載して米国本土を直接攻撃することが可能となってしまう。米国としてはなんとしても避けたいシナリオであるが、現状のような緊張状態が目先続くようだと、北朝鮮の対米攻撃体勢が整ってしまうことになる。



米国軍が先制攻撃を行った場合、すぐにでも北朝鮮の報復攻撃が韓国に加えられるとみられる。その際には、1000万人の人口を擁するソウル一帯が火の海となり、数十万人規模の死傷者が出ることは確実であるとされている。また、韓国のみならず日本をミサイルの標的としている可能性は高い。米軍施設のほか、国内の原子力発電所もピンポイントで狙われる可能性があり、甚大な被害も想定しておく必要がある。仮に、日本が標的とならなくても、韓国には6万人前後(一時的な旅行者なども含む)の在韓邦人がいるとされ、それらの人々を救出するためには日本の自衛隊が非常に危険な立場に立たされることになる。



このような状況に置かれていることで、米国の北朝鮮に対する先制攻撃は実現性に乏しいともみられている。ただ、ひとたび大陸間弾道ミサイルが開発されてしまうと、量産化には多くの時間はかからないと考えられ、米国の危機的な状況が現実のものとなってしまう。こうした状況を「米国第一主義」を標榜するトランプ大統領は許容するのだろうか。先行きは不透明といわざるを得ないだろう。



■大陸間弾道ミサイルの開発が開戦へのキーとなる

今後、北朝鮮と米国の直接対話の可能性はあるのだろうか。例えば、米国が経済制裁や米韓合同軍事演習などを凍結すれば、北朝鮮も核・ミサイルの開発の凍結に合意するかもしれない。ただ、リビアのカダフィ大佐を反面教師とする金正恩氏は、決して核の放棄は行わないだろうと言われている。過去において何度もそうであったように、北朝鮮が合意を翻す可能性は高く、十分にこうした流れを把握している米国が、このような策に出る可能性は極めて低いといえる。



対北朝鮮の抑止力としては中国の存在が大きい。北朝鮮の輸出全体に占める中国への依存度は90%近いとされており、経済制裁には中国の協力が不可欠となる。逆に言うと、中国の協力がなければ、北朝鮮への経済制裁はほとんど意味をなさないといえよう。また、北朝鮮の金融機関や企業は中国国内にフロント企業を設立して、国際金融市場へアクセスしているとも言われている。



米中首脳会談の最中にトランプ大統領はシリア攻撃を指示、これは北朝鮮に対する中国の姿勢を強く批判したものと受け止められるが、中国にとっては、貧困にあえぐ北朝鮮からの大量の難民流入が懸念されるほか、経済が崩壊した北朝鮮と韓国が融和して、米軍が北朝鮮にまで進駐することは絶対に避けたいシナリオと考えられる。現状の朝鮮半島情勢に大きな変化を望んでいないだろう。



対話の糸口がみつからず、経済制裁によって北朝鮮が調和的な姿勢に変化する可能性も乏しい中、北朝鮮の核・ミサイル開発は着々と進んでいく。各国が取りうる選択肢は非常に狭まってきているとみられ、軍事オプションは数少ないその中の一つであるといえる。とりわけ、米国にとっての脅威が現実味を増すのは大陸間弾道ミサイルの開発であり、この発射実験がなされた際、Xデーへのカウントダウンがスタートする可能性は高いといえよう。



■開戦とともに株価は下落も早期終結で反転トレンドを強める

このシナリオが実現した場合、日本にとっては、開戦当初に一部地域で甚大な被害をうけることが避けられないとみられる。ただ、早期終結の可能性が高いとみられ、被害の広がりは限定的にとどまる公算が大きいだろう。むしろ、その後は国内外での復興需要が経済成長を高めることになりそうだ。韓国はより打撃を受けることになり、経済停滞の期間も長期化することが考えられる。日本と韓国の貿易関係でみると、韓国の主要輸出品である電気・電子製品、自動車および同部品などは日本の得意分野でもあるため、これらの分野では日本への需要シフトが強まるとみられる。日本経済にとっては、中期的にみて、最もマイナスインパクトが少ないシナリオと考えられる。



ただ、このシナリオは、先にずれ込むに従って、北朝鮮の軍事力・攻撃力は強化されるため、リスクも高まってゆくことになっていこう。



その際は日本も壊滅的な打撃を受ける可能性も高まり、その後の復興などにも時間を要することになる。



このシナリオにおける日本株と為替相場への影響であるが、開戦当初はリスクオフの流れから日本株は急落、為替は円高へと進むことが避けられないであろう。湾岸戦争時の日経平均の推移を見ると、1990年8月2日にイラクがクウェート侵攻を開始、同日は始値3万799円から下落し、同年9月28日の安値2万671円まで下落基調が続いた。その後、1991年1月17日に湾岸戦争がスタートすると、株価は上昇基調に転じたが、現在の株価は戦争勃発を織り込んでいるわけではなく、開戦とともに株価は下落、イラクのクウェート侵攻時と同様に3分の1程度の下落幅が想定される。



ただ、実際に戦争が始まった場合でも、早期終結の可能性が高いため、その後の日本株は反転トレンドを強めよう。これまでのような有事リスクの低下、復興需要の拡大、韓国製品からの代替需要の増加などが株価を押し上げる材料となろう。



為替相場は当初円高が進む公算は大きい。全般的なリスク回避の動きから、新興国通貨売り、先進国通貨買いといった、これまでの巻き戻しの動きが一斉に強まるとみられるためだ。ただ、市場の落ち着きとともに最基軸通貨であるドルに資金は回帰し、緩やかなドル高円安トレンドへ回帰していくことになろう。



つづく〜「北朝鮮自滅シナリオ」「緊張状態継続シナリオ」「朝鮮半島統一など世界融和シナリオ」〜





■フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議の主要構成メンバー

フィスコ取締役 中村孝也

フィスコIR取締役COO 中川博貴

シークエッジグループ代表 白井一成(※)



※シークエッジグループはフィスコの主要株主であり、白井氏は会議が招聘した外部有識者。



【フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議】は、フィスコ・エコノミスト、ストラテジスト、アナリストおよびグループ経営者が、世界各国の経済状況や金融マーケットに関するディスカッションを毎週定例で行っているカンファレンス。主要株主であるシークエッジグループ代表の白井氏も含め、外部からの多くの専門家も招聘している。それを元にフィスコの取締役でありアナリストの中村孝也、フィスコIRの取締役COOである中川博貴が内容を取りまとめている。2016年6月より開催しており、これまで、今後の中国経済、朝鮮半島危機を4つのシナリオに分けて分析し、日本経済では第4次産業革命にともなうイノベーションが日本経済にもたらす影響なども考察している。今回の朝鮮半島についてのレポートは、フィスコ監修・実業之日本社刊の雑誌「JマネーFISCO株・企業報」の2017年春号の大特集「朝鮮半島有事の投資法」に掲載されているものを一部抜粋した。