朝鮮半島有事における今後の展開として、どのようなシナリオが起こり得るのだろうか。



不確実性が増す昨今、未来のシナリオを予測するにあたり構造変化などの根本的な変化の可能性といった極端な要因も踏まえてストーリーを描くというアプロ?チは、危機対応能力を高める上で非常に重要となる(※1)。



この観点に基づき、極端な要因も省略することなく「戦争勃発シナリオ」「北朝鮮自滅シナリオ」「緊張状態継続シナリオ」「朝鮮半島統一など世界融和シナリオ」という4つのシナリオを想定し、それぞれが世界経済、ひいては日本経済に与え得る影響について分析を試みてみたい。



本稿では二つ目にあたる「北朝鮮自滅シナリオ」をご紹介する(※2)。



※1 シナリオ分析に関する考え方は、別途「シナリオプランニング、戦略的思考と意思決定【フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議】」を参照

※2 ひとつめの「戦争勃発シナリオ」は、別途「朝鮮半島有事の投資法(1)戦争勃発シナリオ【フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議】」を参照



■親中国派を次々と粛正する金正恩氏

以前から、金正恩氏と折り合いの悪い中国が、将来の傀儡政権のトップに金正日総書記の長男である正男氏を据えようとしているとの臆測が絶えなかった。こうした観測が背景とみられるが、2013年には中国と太いパイプを持つとされる叔父の張成沢が処刑された。さらに、今回は国外の脱北者団体の間で浮上した「亡命政権構想」が引き金となり、金正男氏が暗殺されたとみられる。これは、金正恩体制を転覆させて平和的に体制を移行させていくに当たり、金日成主席の血を引く人物を首班にして海外に新政権を樹立する構想である。



金正恩氏の側近で、秘密警察組織トップの金元弘国家保衛相が1月半ばに解任されている。金元弘氏は張成沢氏の粛清を主導した人物でもあり、正恩氏の最側近の崔竜海党副委員長と並ぶ実力者であった。同氏解任の背景は、党組織指導部が保衛省の勢力拡大を警戒した権力闘争との見方が強いもようだが、金正男氏と脱北者の接触の事実を「握りつぶした」とみなされた可能性もあるという。金元弘氏のみならず、国家保衛省の次官級を含む多数の幹部が処刑されたもようだ。なお、韓国の情報機関によると、金正恩体制発足後の5年間で高官や住民ら340人が公開銃殺や粛清されており、処刑・粛清された幹部は2012年3人、13年30人余り、14年40人余り、15年が60人余りと増加傾向にあるようだ。



この傾向に対して、不満分子も大幅に増加していく可能性があり、金正恩体制を転覆させようといった動きが今後強まる可能性もあろう。側近や親類をも厳粛するやり方に対して、本当の意味で信頼できる側近が果たしているのかなどは疑問だろう。ちなみに、過去に「亡命政権構想」で担ぐ声もあった金平一駐チェコ大使は、金日成氏の息子で兄は金正日総書記である。内乱の際の象徴になり得る人物といえよう。



また、仮に、中国が北朝鮮とのすべての貿易を中止して、中朝国境を封鎖すれば、金正恩政権は2〜3年ももたないとの見方がある。金正恩氏は平壌の建設に集中しているため、エネルギー、食糧問題を棚上げしていることから北朝鮮の経済構造が一段と悪化している状況だ。中国にとって北朝鮮は緩衝地帯で、強硬姿勢は望めないとみられているが、今後のトランプ・習近平との関係強化次第では、中国が北朝鮮の核問題に一段と否定的な態度を示す可能性もあろう。中国にとって北朝鮮とのパイプは米政権への外交カードであるため、自制要請を北朝鮮がまるで聞かず、かつ米国との友好関係が築けるような兆しが見られるのなら、北朝鮮の後ろ盾となる必要性もなくなろう。



中国が主導して傀儡政権のトップになり得る人物を擁立するなど、北朝鮮自滅シナリオは比較的高い確率ではないかと考える。



■北朝鮮の豊富な地下資源を虎視眈々と狙う中国

北朝鮮が自滅、崩壊後は中国が主導する国家運営となっていく可能性が高いだろう。北朝鮮からの難民流入を抑制するためにも、中国では積極的にインフラ整備などを進めていく公算が大きい。中国にとっては、過剰設備の削減につながることにもなり、メリットは大きくなるだろう。一方、日本にとっては、経済的に大きな変化はないものと考えられるが、北朝鮮の「核」の脅威は後退することになる。



北朝鮮における資源開発の動きも進むことになる。北朝鮮の地下資源としては、金、鉄鉱石、亜鉛、鉛、重石、希土類、マグネサイト、黒鉛など、世界10位内の埋蔵量を持つ鉱物が8つもあるとされている。真偽のほどは不明であるが、仮にこうした見方が事実であるならば、国外の技術を取り入れることによる開発力強化を背景に、鉱物資源事業が北朝鮮の復興を担うことになろう。中国がこの面でも実権を握ることになれば、世界的な批判が高まる可能性もあるが、全般的に資源価格は大きく下落していく可能性が高い。日本などの資源不足の国と資源国ではやや経済状況に明暗が分かれることにもなろう。



なお、仮に中国ではなく韓国が北朝鮮の復興を担うことになれば、北朝鮮の核は廃棄されることになろうが日本に対する影響は後述する第4のシナリオに準じたものとなっていこう。中国にとっても絶対に避けたいシナリオとなる。



このシナリオ下でのマーケットは、基本的にはプラスもマイナスも少なく「中立」であると考えられる。「核」の脅威がなくなることで、一時的には株高、円安に振れることになろう。ただし、このシナリオ実現に大きな役割を担うとみられる中国のプレゼンスが最も高まることになる。グローバルマーケットにおいては、日本株から中国株へと資金シフトが進む可能性はあろう。一方、人民元の位置づけも高まるであろうことは、円にとってはやや売り要因につながっていく公算もある。



つづく〜「緊張状態継続シナリオ」「朝鮮半島統一など世界融和シナリオ」〜



■フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議の主要構成メンバー

フィスコ取締役 中村孝也

フィスコIR取締役COO 中川博貴

シークエッジグループ代表 白井一成(※)



※シークエッジグループはフィスコの主要株主であり、白井氏は会議が招聘した外部有識者。



【フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議】は、フィスコ・エコノミスト、ストラテジスト、アナリストおよびグループ経営者が、世界各国の経済状況や金融マーケットに関するディスカッションを毎週定例で行っているカンファレンス。主要株主であるシークエッジグループ代表の白井氏も含め、外部からの多くの専門家も招聘している。それを元にフィスコの取締役でありアナリストの中村孝也、フィスコIRの取締役COOである中川博貴が内容を取りまとめている。2016年6月より開催しており、これまで、今後の中国経済、朝鮮半島危機を4つのシナリオに分けて分析し、日本経済では第4次産業革命にともなうイノベーションが日本経済にもたらす影響なども考察している。今回の朝鮮半島についてのレポートは、フィスコ監修・実業之日本社刊の雑誌「JマネーFISCO株・企業報」の2017年春号の大特集「朝鮮半島有事の投資法」に掲載されているものを一部抜粋した。