本稿は、「ビットコインとデジタル法定通貨の関係:アンチマネーロンダリングとプライバシーの狭間で(2)」の続きである。



プライバシーと利便性の交換



白井:ダークウェブのサイトで違法薬物などの売買などにビットコインが使われる事例が多発したため、ビットコインのイメージが著しく毀損させられましたが、実際には完全なトレーサビリティを有しており、完全な誤解からくる批判のようです。当時は技術的な知識が普及しておらず、送金や所持の匿名性を利用した犯罪であったことから、反対派の人たちには格好の攻撃のチャンスとなりました。しかし、イギリスの財務省が「現金よりマネーロンダリングのリスクは低い」というレポートを発表している通り、ビットコインを利用した違法売買サイトや犯罪資金のマネーロンダリングは摘発されていることが多いようです。



CBDCの送金データや個人資産情報に、テック企業が保有する位置情報やチャットの内容、消費行動などの個人情報や公的機関のデジタルデータと重ね合わせれば、国民一人ひとりの全てをリアルタイムで捕捉することが可能となります。これらは、マネーロンダリングのような不正行為を防ぐ目的を達成できるものの、超監視社会を作ってしまう可能性もあります。また、国民から、これらの監視という権力を保持する大手企業や政府へ、パワーシフトが起こるということでもあります。さらに、悪意を持った組織がコントロールする事態ともなれば、ターゲットになる個人の財産や生活は破壊されることになりかねません。



あちこちにカメラがある中国は、監視社会に一直線です。乗車アプリもSNSも、基本的には政府が関与していく。社会的な生活とお金のデータが結びつけば、完全にプライバシーがなくなってしまいます。自分よりも政府のほうが自分を知っているという社会になるかもしれませんし、将来、自分が何をするのかさえも予測されてしまう。中国のような国にCBDCをつくれば、そういう社会になってしまうのは必然ではないでしょうか。



橋本:実際にそういう社会になるのかは、政府の運用指針などに依拠するでしょう。中国はそういうモチベーションが強い国ですので、ご指摘の通りかもしれません。日本は少し違う気もします。文化的な違いや、技術をうまく使いこなす能力の違いなどがありますから。ただ、お金の流れがわかることで、あらゆる企業や組織は、そのデータを使って自らの事業をより効率化することはできるでしょう。そういったお金の流れのデータは、ある程度、適切に加工された上で、販売、配付され、ますます有効活用されていくと思います。



アンチマネーロンダリングのためにお金の流れを捕捉したいという流れがある一方、プライバシーが大事という流れも並行しています。これは特にユーロ圏で強いです。従来よりもプライバシー性が非常に強いデータをどのように扱っていくかは、そういう世界にもう少し近づいていく過程で、ますます議論されていくでしょう。



白井:ユーザー側から見た場合、非公開ブロックチェーンの管理者が信用できるかどうか、仮に信用できなくともそれを超える利便性があるかどうか、この2点が大きいほど普及が加速していく可能性が高いと思います。



ブロックチェーンはビットコインでつくられた技術でしたが、そもそものビットコインの構想は、金融緩和が続く法定通貨へのアンチテーゼでした。数十年にわたる、止め処もない金融緩和で、世界のマネーは膨張し続けています。このような状況に対して、一定数の人々は、貨幣が複式簿記誕生以前の施政者の権力維持の道具に戻ってしまったのではないかと懸念しています。



ビットコイン黎明期には、完全なトレーサビリティを保持しつつ、管理者不在で発行量が決まっているビットコインの理念は、そのような人々によって「デジタルゴールド」と称され、熱狂的に受け入れられ、自国通貨を信用できない国々での利用を中心に広まりました。金融緩和の道具である法定通貨にブロックチェーンが利用されつつあり、管理社会にも使いやすい技術というのは、非常に皮肉な気もします。当初のビットコイン原理主義者のような人たちは、現状をどのように見ているのでしょうか。



橋本:ビットコインの一番重要な点は、価値が備わっている、すなわち十分な時価総額と十分な流動性が備わっているということです。歴史的に見ても、これだけの時価総額、流動性が備わり、いったんその地位を確立してしまうと、簡単には廃れません。金(ゴールド)のようなものに近い意味合いを持っています。ビットコインを持っている人たちは、原理主義者であるかどうかにかかわらず、金(ゴールド)を持っている感覚の人が多いと思います。デジタル人民元、もしくはCBDCが広がった世界でも、金(ゴールド)の価値が損なわれることはないでしょう。同様にビットコインの価値も損なわれないだろうと考える人は非常に多いと思います。



これだけの市場ができてしまいましたので、ビットコインの取引が完全に禁止されるという世界は恐らく訪れないでしょう。技術的にも難しいです。そうであれば、お金の流れがほぼ透明化し、ほとんどのお金がデジタルでやりとりされる中で、プライバシーの観点からも安全に取引できる数少ないアセットとしてビットコインが生き残るというのは想像しやすい未来ではないでしょうか。



ビットコインはプライバシーが欠如したブロックチェーンです。先ほどお話した通り、お金の流れを追いやすいという性質があります。高いプライバシー性を持つモネロ(XMR)、ジーキャッシュ(ZEC)なども作られましたが、どういうわけか広まらない。結局、価値がついているのは、誰もが知っているビットコインなのです。ある種の自由、ある種のプライバシー、相当程度の自由が保証されたというビットコインの性質を、多くの人が気に入り、盛り上げてきました。ツイッター、PayPalでも使っていこうといったように、ユースケースもますます増えています。



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