欧州通貨のユーロとポンドがいずれもドルに対して弱含む展開です。7月に入りイギリスとイタリアの首相が相次いで辞任していますが、後者の方がダメージは大きいようです。それを反映し、ユーロ・ポンド相場は下落基調が見込まれます。





欧州中銀(ECB)は7月21日の理事会で2011年以来11年ぶりに政策金利を引き上げ、次回9月でも引き締めを強める方針です。ただ、政策発表後のユーロ買いが限定的だったのは、市場がすでに織り込み済みだったためだけではありません。ロシア産天然ガスのドイツへの供給が再開していますが、ロシア側は供給量を従来計画の4割程度にとどめ、不安が根強いためです。





もう1つの要因は政治情勢です。深刻なインフレの対策法案審議でイタリアのドラギ政権を支える「五つ星」は最低賃金導入の主張が認められず、採決への参加を拒否。同党から協力を得られなかったとしてドラギ氏は辞表を提出しました。五つ星のなかではウクライナへの軍事支援をめぐっても対立しており、北大西洋条約機構(NATO)に懐疑的な意見が政治情勢に反映しているもようです。





一方、イギリスでは、7月に入り閣僚約50人が短期間に辞任し、ジョンソン首相が退陣を迫られました。昨年の新型コロナウイルス禍における行動制限の最中、官邸内でパーティを開いた問題がくすぶり、首相の求心力が急低下。先月行われた下院の補欠選挙では長期にわたる保守党の地盤を失ったほか、公約破りの増税により有権者の支持率も落ち込み、「ジョンソン劇場」は終えんを迎えました。



イギリスでは消費者物価指数が40年超ぶりの高水準に達し、英中銀が昨年12月から利上げを繰り返しているものの、インフレを抑制できていません。エネルギー価格の急騰は国民の生活を圧迫し、リセッション入りも警戒されています。ジョンソン首相の後任選びはスナク前財務相とトラス外相による一騎打ち。経済情勢を考えると、スナク氏がリードしても不自然ではありません。





ユーロ圏、イギリスの混乱はいずれもウクライナ戦争が背景にあります。9月に前倒しされるイタリアの議会選では、ファシストの流れをくむ「イタリアの同胞」を主体とした右派政権発足がリスクになります。イギリスの首相選びでは、トラス氏がインフレ高進は英中銀の責任で日銀を参考にするべきと主張。同氏の政策がリスクと指摘され、欧州通貨は当面買いづらい状況が続くでしょう。





こうした経緯からユーロ・ドルは20年ぶりに等価(パリティ)を割り込む場面もあり、ポンド・ドルはコロナ禍以来2年半ぶりの安値圏まで売り込まれました。そしてユーロ・ポンド相場はユーロ売りとポンド売りの交錯で方向感が定まらず、居心地の良い0.85ドル付近でもみ合っています。ただ、どちらかといえばユーロ圏の方が不安要素は大きく、一段のユーロ売りが続く見通しです。



(吉池 威)





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