英トラス新政権のインフレ対策はポンドの売り要因となり、9月に入り対ドル相場で37年ぶり安値を付けました。リセッション懸念でさらに売り圧力が強まっています。足元でいったん下げ止まっているのは、死去したエリザベス女王への市場の弔意でしょうか。





ポンド・ドルは今年1月に1.37ドル台をピークに下落トレンドが続き、9月7日の取引で2年前の安値を下回る1.14ドル付近に落ち込みました。これは1985年以来37年ぶりの安値圏です。米金融引き締めの長期化でドル高が進み、どこの国も自国通貨安に苦慮していますが、ポンドは特にそれが顕著に表れています。今年の下落率は20%に達し、ユーロ・ドルの16%を凌ぐ低迷ぶりです。





英中銀は昨年12月からすでに6会合連続で利上げを実施しているものの、ポンド売りは強まるばかり。記録的なインフレ高進や景気減速懸念のほか、ジョンソン政権の退陣で政治情勢が不安定化したのもその要因の1つでした。この9月に発足したトラス政権は景気回復への意気込みを見せ、独自の政策を発表。それでもポンドへの下押し圧力は弱まらないものの、1.15ドル付近の水準は維持されています





トラス首相が就任して間もない9月8日にエリザベス女王が死去。国葬が行われる19日までは国中が喪に服し、英中銀は当局者の講演を取りやめ、15日に予定していた金融政策委員会(MPC)を翌週に後ずれさせています。予定通りなら金融引き締めスタンスを強めたでしょうが、かえって景気への影響を懸念したポンド売りにつながっていたとみられ、MPCの延期はポンドの一段安を回避したと考えられます。





もちろん、その間にもインフレや光熱費の高騰で状況は悪化し続けています。市場では、エネルギー価格に上限を設定するトラス政権の政策は、物価上昇圧力を弱めるとして中銀の利上げペースを減速させる効果を期待。半面、財政刺激策がかえってインフレを加速させ利上げが必要になるとし、現在1.75%の政策金利は来年夏までに4%に上昇するとも指摘されています。





直近のイギリスのインフレ指標は伸びが鈍化し、とりあえず過度な景気減速懸念は和らぎポンドは下げ渋っています。ただ、アメリカは物価高止まりで20-21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では3会合連続の0.75pt利上げが実施される見込みです。一部では利上げ幅を1.00ptに拡大するとの見方まで浮上しています。MPCもこれに追随しなければ、英米金利差からポンド売り・ドル買いは避けられません。英中銀と政府の逆行した対応は投機筋から標的にされるリスクもあります。





女王の在位70年間、すでに基軸通貨の地位から転落していたポンドにとっては厳しい歴史でした。ヘッジファンドに中銀が敗れたポンド危機は、治世下の封印したい過去ともいえます。肖像画のデザインが国王に変わればポンドは持ち直すでしょうか。

(吉池 威)

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