ドルへの下押し圧力が強まっています。米国インフレのピークアウト観測により、連邦準備制度理事会(FRB)内では金融引き締めに慎重な意見を持つメンバーも増えています。加えて、政治サイドからの逆風により、これまでのドル高を修正する動きが強まりそうです。





11月10日に発表された米10月消費者物価指数(CPI)が予想以上に減速し、FRBが今後引き締めを緩和するとの思惑が広がりました。ドル・円は1ドル=146円半ばから一気に6円程度も下落。翌週にはさらに値を下げ、137円台に沈む場面もありました。足元は心理的節目の140円付近に戻しているものの、再び150円台を目指すほどの勢いは失ったようにみえます。





米10月CPIは前年比+7.7%(前月+8.2%)、コア指数は同+6.3%(同+6.6%)と高水準ながら、伸びは鈍化。続いて発表された米10月生産者物価指数(PPI)も前年比+8.0%と強い内容ですが、やはり前月から失速しています。FRB内ではブレイナード副議長やジョージ・カンザスシティ連銀総裁などが引き締め継続の重要性を強調しながらも、利上げペースの減速の可能性に言及し、ドルを下押ししています。





バイデン政権からもドル高終焉を想起させる見解が出始めました。イエレン米財務長官は13日、アメリカの政策運営が他の国・地域に波及し、ドル高が各国の通貨安の要因になっているとの懸念を示しました。これまでは、政策評価の結果がドル高とのスタンスでしたが、10月に開かれた主要20カ国(G20)財務相・中央銀行総裁会合での問題を認めた格好で大きなインパクトを与えています。





一方、11月8日に行われた米中間選挙では民主党が上院で多数派を維持。もっとも、下院は共和党が勝利したことで「ねじれ」が生じ、予算案など重要法案の採決は困難となりました。「財政の壁」といった議会運営への懸念が残ります。調整が難航すれば米国債の格下げなどにつながりかねず、ドル買いを弱める要因になり得るでしょう。





また、中間選挙で優勢とみられていた共和党の動向もドル売りにつながりそうです。上下両院での票獲得が伸び悩み、「レッドウェーブは起きなかった」とバイデン大統領に揶揄(やゆ)されました。トランプ前大統領は今回の中間選挙で党勢回復に尽力したものの、期待ほどの躍進はみられません。にもかかわらず、2024年の大統領選の出馬を表明し、政治情勢の先行き不透明感が嫌気されそうです。





米FRBが利上げサイクルに入ったのは今年3月でした。今後の米国経済にその影響が反映され減速に向かうとの観測が広がり、民主党内からは金融引き締めに対する異論が一層高まるかもしれません。他方、トランプ氏が影響力を強めれば米国社会の分断や政策の揺り戻しが意識されるでしょう。2023年のドルは経済要因だけでなく、政治サイドでも不透明感を深めるとみられます。

(吉池 威)

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