■ナノキャリア<4571>の会社概要



2. 事業概要

(1) コア事業領域:抗がん剤

自社プラットフォーム技術を用いた抗がん剤の開発を主要事業としているが、導入によるパイプラインの強化も図っている。標的は固形がん領域である。



● 自社プラットフォームによる開発品

a) シスプラチンミセル(NC-6004)

シスプラチンは、その有効性により各領域のがん化学療法の中心的薬剤となっている。一方で、シスプラチンの腎機能障害、神経障害や催吐作用が極めて強いため、がん患者にとって苦痛度が高く、さらに投与の際には長時間にわたる大量の輸液が必要なことから、患者の生活の質(QOL)を著しく低下させている。同社では、シスプラチンが持つこれらの副作用を軽減し、かつ抗腫瘍効果の増強も期待できる新薬を目指している。



b) エピルビシンミセル(NC-6300)

エピルビシンは、乳がん、卵巣がん、胃がんなどの適用症で世界的に普及しているアントラサイクリン系抗がん剤だが、投与を重ねると心臓毒性を引き起こすので、その使用が制限されている。同社では、細胞内のpH変化に応答して薬物を効果的に放出するシステムを開発した。薬物を化学結合して封入したミセル化ナノ粒子は、エンドソームと呼ばれる細胞膜が陥没して形成される小胞に取り込まれると考えられている。エンドソーム内のpHは酸性であることが知られており、このpHの低下により薬物とミセルの結合が外れて、薬物が放出される機能を搭載。同社では、時限的かつ急激に薬物をがん細胞内に放出することで、さらなる副作用の軽減と薬効増強が期待できる新薬を目指している。



なお、仮に主力品目(NC-6004、NC-6300)をライセンスアウトした場合、一時金で“2ケタ”億円が見込まれる。また、その後のマイルストーンやロイヤリティ収入も期待できる。



● 導入による開発品

c) 遺伝子治療薬VB-111

VBL社(イスラエル)からライセンスを受けた遺伝子治療薬である。同社のミセル化ナノ粒子製剤は、腫瘍細胞を標的にした治療薬を目指しているのに対し、VB-111は腫瘍血管を標的としてがんを兵糧攻めにするとともに、腫瘍免疫を惹起する効果が期待できる。ミセル化ナノ粒子とは異なるメカニズムによる治療薬をパイプラインに持つことで、がん領域における同社の選択肢が広がり、経営基盤強化に資する。



一般論として、臨床試験には規模により通常数十億円〜数百億円ほど必要であるが、第III相臨床試験段階にあれば十分に投資に値すると考えられる。同社は開発資金のみならず、経営基盤強化のための事業提携等を実施するためのキャッシュも調達済みであったため、2017年11月にVBLと国内開発・商業化権を取得することとなった。この事業は、同社プラットフォーム技術の実用化事業と異なり、既存事業領域外ではあるが、最先端遺伝子治療薬分野であり、デリバリーということでは、事業特性は類似している。また、遺伝子治療薬VB-111は、近年話題となっているウイルス製剤であり、また免疫惹起作用も持ち合わせるなど、がん治療環境のニーズを満たしている。さらには、全身投与型で各種多様な固形がんなどへ応用拡大が見込める。



同社では自社技術(NC-6004、NC-6300など)と導入技術(VB-111)の2タイプの抗がん剤事業に取り組むが、がん治療薬は第III相臨床試験まで進んでも承認は5割程度といわれる。このような意味では、今回の遺伝子治療薬VB-111はリスクヘッジ策として有効で、できるだけ多くビジネスチャンスを張り巡らせておくことで、早期収益化の確率が高まる。



(2) 周辺ヘルスケア領域

ミセル化ナノ粒子を応用した化粧品・皮膚科領域では、2013年より(株)アルビオン(コーセー<4922>の子会社)と高級化粧品の共同開発を行い、販売している。化粧品・皮膚科(医薬品部外品)は、ミセル化ナノ粒子技術の皮膚浸透性と徐放性の特質を生かせる分野であり、技術の連続性がある。なお、アルビオンとは独占契約でないため、他化粧品メーカーにも材料販売や共同研究を進めている。共同開発による美容液eclafuturは使い心地が良いと好調であることから、2019年10月にリニューアル商品(eclafutur d)をアルビオンから発売している。アルビオンでのeclafutur売上高は年商60億円となるヒット商品となっている。同社ではアルビオン向けにeclafuturやエクシアALイマキュレートIDD用の材料供給を実施している。また共同開発したスカルプトータルケア製品「Depth」の販売も実施しており、化粧品関連の売り上げは数億円規模で推移している。そのほか、経営理念である、人々の健康と幸福に貢献することを目指し、がん領域以外のパイプラインも導入している。セオリアファーマ(株)より耳鼻咽喉科領域(中耳炎)、(株)エイオンインターナショナルより再生医療領域(不妊治療)を導入、新規領域へ参入している。これらの品目は、抗がん剤開発と比べて、収益化が早いことが見込まれており、主力開発品の実用化までの期間の経営基盤の強化が期待される。



(3) 次世代プラットフォーム技術の開発と事業開発

同社ではiCONMラボ(川崎市)にて脳内デリバリーの基礎研究を推進している。さらに、2017年10月よりJCRファーマ<4552>と核酸等の脳内デリバリー創薬に関する共同研究を推進している。



新技術開発として代表的なものが次世代型ミセル化ナノ粒子「ADCM(Antibody/Drug-Conjugated Micelle)」である。第一三共<4568>が再発・進行性の固形がん患者を対象としたDS-7300(B7-H3を標的とした抗体薬物複合体(以下「ADC」)を開発しているが、同社ではADCのミセル版を研究中だ。ADCは抗体に薬物が4つ程度しか付かないが、ミセル化すれば大量(抗体1個当たりでは100個以上)に薬物を封入することができ、様々な病変細胞を標的とすることが可能となり、効率化を図れるとするものだ。ADCMの特徴は、抗体がセンサーの役割を担っており、抗体がダイレクトにがん細胞部位に向かっていくことで、薬物を標的とする細胞に大量にデリバリーできることである。ADCMは、センサーと薬物の組み合わせによる製剤の最適化を実施中である。



(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)