■シンバイオ製薬<4582>の開発パイプラインの動向



2. 「ブリンシドフォビル(BCV)」(注射剤/経口剤)

(1) 概要とライセンス契約

BCVは、サイトメガロウイルス網膜炎治療薬等で知られているCDVに脂肪鎖を結合した構造で、CDVよりも高活性の抗ウイルス効果が得られるほか、幅広いウイルスに対して抗ウイルス活性を持つことに加えて、ここ最近ではアカデミアの研究により高い抗ガン活性があることも明らかとなってきており、未だ治療法が確立されていない「空白の治療領域」を充たす開発候補品として注目度が高まっている。



BCVはCDVに脂肪鎖を結合した構造となっているため、CDV単体よりも細胞内に侵入しやすく、侵入後は脂肪鎖が切り離され二リン酸と結合することで、DNAウイルスの複製を阻害する役割を果たす。こうした作用機序から、CDVや他の抗ウイルス薬と比較してウイルスの増殖抑制効果が格段に高くなるというデータがin vivo試験などで得られている。また、安全性という点においては、CDVが腎尿細管上皮細胞に蓄積することで腎機能障害を発生するなど腎毒性が強いといった副作用リスクがあったが、BCVは脂肪鎖と結合することで逆に腎尿細管上皮細胞内に蓄積されず、腎毒性も回避できるといった優れた特徴を持つ。FDAからは、サイトメガロウイルス、アデノウイルスを対象としたファストトラック(優先審査)指定を受けており、欧州医薬品庁(EMA)からも同様のウイルスを対象にオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)指定を受けている。



キメリックスではBCVの経口剤タイプの開発を進めていたが、第3相臨床試験で下痢等の副作用が発生したほか、統計的に有意な結果が得られず開発を中断していた。その後、抗がん剤分野に経営リソースを集中させるためBCVについてはライセンスアウトする方針とし、2019年9月に同社がグローバルでの製造・販売・開発(天然痘を除く)に関するライセンス契約を締結した。同社が導入を決めたポイントは、BCVが優れた安全性と機能性(広域かつ高い抗ウイルス活性)を持ち、開発成功の可能性が高いと判断したこと、また対象疾患が「希少疾患」かつ「空白の治療領域」で同社の開発ターゲットと合致しているだけでなく、対象疾患が「トレアキシン(R)」と同じ血液疾患領域であり、営業面でのシナジー効果も大きいと判断したことにある。



キメリックスが経口剤の開発に失敗した原因については、消化器官からの薬剤の吸収率が低いため、多量の薬剤を服用せざるを得なかったことにあると同社では見ている。注射剤であれば経口剤の1割の投与量で同じ効果が期待できるため、副作用リスクも低く成功確率は高くなる。また、同契約では注射剤だけでなく経口剤についても契約内容に含まれているが、経口剤に関しても今後、製剤改良を行うことでこうした課題を解決できる可能性があると考えている。なお、天然痘だけ契約の対象外となっているのは、バイオテロ対策として天然痘治療薬を米国政府が自国で製造、備蓄しておく必要があるためだ※。



※天然痘治療薬に関しては、キメリックスが2021年6月にFDAから「BCV(経口薬)」の販売承認を取得している。





このライセンス契約ではグローバルライセンスであること、また、製造権も含めた契約になっている点が注目される。製造権も含めたライセンス契約としたのは、2019年に発生した「トレアキシン(R)」での品質不良問題が影響している。製造も含めて自社でコントロールし、事業リスクを極力抑える体制を構築していくことが、患者も含めたすべてのステークホルダーのためとなり、かつグローバル・スペシャリティファーマとして成長を目指していくためには重要であるとの認識だ。



開発の対象疾患として、造血幹細胞移植後または臓器移植後のウイルス感染症のほか、大学の研究成果からサイトメガロウイルス感染した脳腫瘍、EVウイルスが主要発症因子であることが明らかとなった多発性硬化症抗等での開発も進めていく意向を示している。2021年10月には米国に開発統括拠点となる子会社SymBio Pharma USAも稼働させた(会社設立は2016年だが休眠状態にしていた)。グローバルで臨床試験を円滑に進めていくためのノウハウや経験を持つ人材を副社長として招聘し、2022年3月時点で3名の人員体制を2025年頃までに10数名体制まで増員し、開発体制を強化していく計画となっている。



なお、BCVのライセンス契約に関しては開発元のキメリックスに対して契約一時金5百万米ドル(約540百万円)を2019年12月期に支払っており、将来的なマイルストーンとして最大180百万米ドル(約194億円)、製品売上高に応じて2ケタ台のロイヤルティを支払う契約となっている。



(2) 開発計画

a) 造血幹細胞移植後のアデノウイルス感染症

BCV(注射剤)の最初の開発ターゲットとして、小児(成人含む)を対象とした造血幹細胞移植後のアデノウイルス感染症に対する国際共同第2相臨床試験を2021年8月から米国で開始している(予定症例数24例)。アデノウイルスは自然界に存在するウイルスで、呼吸器、目、腸、泌尿器などに感染することによって、咽頭炎、扁桃炎、結膜炎、胃腸炎、出血性膀胱炎等の感染症を引き起こす。健常人が感染しても重篤になるケースは稀だが、造血幹細胞移植後の免疫力が低下した患者が感染すると重篤化するリスクが高く、未だ治療薬もないことから治療薬や予防薬の開発が強く望まれている。世界における造血幹細胞移植の件数は年間3.5万件で、このうちアデノウイルス感染症の患者数は約2千人(出所:Bone Marrow Transplantation 2016,Bone Marrow Transplantation 2019)となっている。



第2相臨床試験では薬剤の投与量で4グループに分けて安全性、忍容性及び有効性を評価し、次試験のための推奨用量を決定する試験となる。2022年3月時点で第2グループまで進んでおり、今後は米国での治験施設追加や英国での治験開始等によってスピードアップを図り、2022年内の完了を目指している。現段階で有害事象の発生報告はなく、順調に進めば2023年内に第3相臨床試験に進むものと予想される。また、第2相臨床試験の結果次第では、パートナー契約を締結して第3相臨床試験に進む可能性もある。



b) 腎臓移植後のBKV感染症

2つ目のパイプラインとして、腎臓移植後のBKV感染症を対象とした国際共同第2相臨床試験を2022年後半に開始すべく準備を進めている。治験プロトコルや症例数はまだ確定していないが、造血幹細胞移植後のアデノウイルス感染症の臨床試験と同様なものになると推察される。当初は日本とオーストラリアで進めていく予定だが、状況によってはその他の国でも行う可能性がある。



腎臓移植は末期腎不全の唯一の根治療法となっており、移植手術が必要な患者数は世界で約10万人の規模になっていると同社では見ている。腎臓移植後は免疫力が低下しているためウイルス感染症を発症するケースが多く、発症確率としてはBKVが15%以下、CMVが20%以下、水疱・帯状疱疹ウイルスが10%以下となっている。BKVについては健常人でも小児期に100%近くが感染しており、健康状態であれば問題ないが、臓器移植後の免疫力が低下している状況ではウイルスが活性化し、出血性膀胱炎や間質性腎炎などを発症する。また、症状が悪化すると移植後の腎臓も機能不全となるケースもある。BKV感染症の患者数は年間約8千人(出所:International report on Organ Donation and transplantation Activities executive summary 2019,April 2021及びTransplantation 2012)で、現在は免疫抑制剤やCMV感染症治療薬等が対処療法的に処方されているが効果は限定的で、未だ確立された治療法のないアンメット・メディカルニーズの高い疾患となっている。



(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)