■決算概要



1. 2022年3月期の業績概要

ワコム<6727>の2022年3月期の連結業績は、売上高が前期比0.2%増の108,790百万円、営業利益が同2.9%減の13,024百万円、経常利益が同1.8%増の14,351百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同7.1%増の10,955百万円と増収なり、売上高及び最終損益は過去最高を更新した。また、2回目の増額修正予想(2022年1月31日公表)に対しても、売上高、各段階利益ともにさらに上振れる着地となった。



売上高は、「ブランド製品事業」においてコロナ禍に伴う巣ごもり需要が急増した前期と比べて減収となったものの、プロ向けディスプレイ製品等については経済活動の再開とともに順調に伸ばすことができた。一方、「テクノロジーソリューション事業」については、コロナ禍に伴う生産サプライチェーンの制限を受けるも、OEM提供先からの需要増により増収となり、過去最高の売上高を更新した。なお、売上高全体が上振れたのは、ブランド製品事業におけるプロ向けディスプレイが好調であったことや、為替の円安効果※も大きかった。



※同社試算によれば、売上高を約64億円押し上げる要因となった。





損益面では、米国の対中追加関税措置の回避による原価低減※1があった一方、製品ミックスの影響※2や棚卸在庫評価損等の計上※3などにより、売上総利益率は36.4%(前期は38.2%)に低下した。一方、販管費については、今後に向けた研究開発費や広告宣伝・販促費が増加したものの、各費用の最適化や為替の円安効果※4により売上高販管費率は過去最低を更新し、その結果、営業利益率は12.0%(前期は12.4%)と小幅な低下に抑えることができた。



※1 「ブランド製品事業」の一部製品ラインの主要生産工程を中国本土以外の地域(周辺の東南アジア等)に移管するなどの対応を行い、一部対米輸出モデルにおいて、米国税関国境取締局から対中追加関税措置を適用されないことが認められたもの。約9億円の売上原価低減要因となった。

※2 相対的に粗利益率の高い「ブランド製品事業」のペンタブレット製品の構成比減は、利益率全体を悪化させる要因となる。

※3 テクノロジーソリューション事業において、部品不足に備えて先行発注のリードタイムを拡大する等によってたな卸資産を戦略的に増やすなか、顧客の生産計画の変更等が生じたものについて棚卸在庫評価損や廃棄損を計上した。

※4 同社試算によれば、営業利益を約15億円押し上げる要因となった。





財政状態については、現金及び預金が減少した一方、サプライチェーンの影響(部品不足等)に備え、たな卸資産を戦略的に増やしたことや固定資産の増加等により、総資産は前期末比3.0%増の73,332百万円に拡大した。一方、自己資本は、自己株式の取得※を進めながらも、内部留保の積み増しにより同15.4%増の43,503百万円に拡大したことから、自己資本比率は59.3%(前期末は52.9%)に改善した。一方、資本効率性を示すROEは27.0%(前期末は31.3%)、ROICは29.7%(同39.4%)と前期比で低下したものの、高い水準を維持しており、同社の財務内容は安全性及び効率性の両面でバランス良く優れていると評価できる。



※2021年5月12日付けの自己株式取得方針に基づき、通期累計で352万株(30億円)を取得した。自己株式の取得は自己資本の減少要因となる。





2. 事業別業績の概要

(1) ブランド製品事業

売上高は前期比7.1%減の52,641百万円、セグメント利益は同4.2%減の8,712百万円と減収減益となった。売上高は、「クリエイティブソリューション」(特に、中低価格帯のペンタブレット製品)が巣ごもり需要等の落ち着きにより大きく減少した。一方、「ビジネスソリューション」は、経済活動の再開に伴って伸長したものの、売上規模の大きい「クリエイティブソリューション」の減少分をカバーできなかった。損益面では、米国の対中追加関税措置の回避による原価低減があったものの、減収による収益の下押しや積極的な研究開発投資等により減益となった。各製品群の売上高は以下のとおりである。



a) クリエイティブソリューションの売上高

前期比8.9%減の48,245百万円と減少した。製品別に見ると、「ディスプレイ製品」はエントリーモデルが伸び悩んだ一方、プロ向け製品がクリエイティブ需要(アニメ、映画、ゲーム等)の拡大により大きく伸びた。「ペンタブレット製品」は、経年等の影響があるなかで、プロ向け製品が微増したものの、需要の落ち着きにより中低価格帯が大幅に減少した。「モバイル製品」他は、モバイル製品以外のスタイラスペン製品が減少した。



b) ビジネスソリューションの売上高

前期比17.5%増の4,396百万円と大きく伸長した。経済活動の再開に伴う積極的な営業活動により、欧州を中心に液晶ペンタブレットが大きく伸びた。



(2) テクノロジーソリューション事業

売上高は前期比8.3%増の56,149百万円、セグメント利益は同4.0%減の8,888百万円と増収ながら減益となった。売上高は、生産サプライチェーンの制限を受けながらも、「AESテクノロジーソリューション」及び「EMRテクノロジーソリューション他」がともに伸長し、過去最高の売上高を更新した。損益面では、棚卸在庫評価損等のほか、次世代技術開発等に向けた研究開発投資により減益となった。各製品群の売上高は以下のとおりである。



a) AESテクノロジーソリューションの売上高

前期比18.2%増の22,142百万円と大きく伸長した。OEM提供先メーカーからの需要増により大幅な増収となった。



b) EMRテクノロジーソリューション他の売上高

前期比2.7%増の34,007百万円と伸長した。OEM提供先の製品ポートフォリオの変化等の一時的な影響を受けながらも増収を確保した。



3. 2022年3月期の総括

以上から、2022年3月期を総括すると、巣ごもり需要の一巡や生産サプライチェーンの混乱に伴う部品不足や部材価格の上昇、東南アジアにおけるコロナ禍の拡大、中国でのロックダウン、ロシア・ウクライナ情勢が資源価格上昇等を通じて消費者センチメントに及ぼす影響(ただし、直接的な影響は軽微)などのマイナス要因と、円安効果や米国の対中追加関税措置の回避によるプラス要因が混在しており、実態が掴みづらい決算となった。ただ、巣ごもり需要やオンライン教育の進展等により業績が急拡大した2021年3月期に引き続き、高い業績水準を維持し、過去最高売上高と最終損益を更新したところは、特需だけでなく、各方面での需要拡大をしっかりと取り込んできたことを示すものとして高く評価できる。活動面でも、後述するように、注力するAI、XR、Securityといった新コア技術への研究開発投資や、教育やワークフローDXといった成長分野での取り組みなど、パートナーとの協業により、新たなビジネスモデルの立ち上げ準備が進んできたところは、今後に向けて大きな成果と言える。



(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)