■オンコリスバイオファーマ<4588>の開発パイプラインの動向



1. テロメライシン

(1) 概要

テロメライシンは、5型のアデノウイルスを遺伝子改変した腫瘍溶解ウイルスの一種で、テロメラーゼ活性の高いがん細胞で特異的に増殖することで、がん細胞を破壊する特徴を持つ。アデノウイルス自体は自然界の空気中に存在し、風邪の症状を引き起こすウイルスのため、ヒトに投与すると発熱等の症状が出るケースもあるが、正常な細胞の中では増殖能力が極めて低いため副作用も少なく、人体への安全性には問題がないことが確認されている。また、用法としては局所療法が中心となるため、放射線治療や免疫チェックポイント阻害剤等との併用により、患者のQOL並びに治療効果の向上が期待されている。なお、テロメライシンの国際的な一般名称は、「suratadenoturev(スラタデノツレブ)」となる。



(2) 中外製薬とのライセンス契約解消のスケジュール及び今後の事業方針について

同社は2019年4月に中外製薬とライセンス契約を締結以降、国内の臨床試験は中外製薬が主体となって進めてきたが前述のとおり2021年12月にライセンス解消契約を締結し、2022年10月15日をもって契約を解消することが決まった。このため、同社は中外製薬で実施していた食道がんを対象とした放射線併用療法による第2相臨床試験を継続すべくデータベース等の移管作業を行うとともに、(独)医薬品医療機器総合機構(PMDA)に対して治験依頼者変更手続きを行い、2022年8月に同治験を承継したことを発表した。



また、契約解消にあたって2022年10月15日までに製造委託先から受領したテロメライシンのGMP※製造開発費用等に関する請求額の約50%を中外製薬が負担することで合意している。なお、ライセンス契約の解消については、テロメライシンの安全性および有効性が理由ではないことを両社で確認している。



※GMP(Good Manufacturing Practice):医薬品の製造及び品質管理に関する基準のこと。GMP認定のためには、製造工場ごとに構造や設備の運用・管理、製品の品質・衛生・製造管理などの細部にわたる審査・査察を受け、基準を満たすことが必要となる。創薬においては、GMP準拠施設で製造されたGMP製剤でないとヒトを対象とする治験に適用できない。



今後については現在約9割まで被験者登録が進んでいる同治験を完了させ、2024年に販売承認申請を行う予定に変わりない。先駆け審査指定制度※1の対象品目に指定されているため、早期審査により申請後1年以内に承認される可能性がある。また、同社は承認申請までに、「オーファンドラッグ※2指定」と自社販売ができる体制の構築を進めていく。中外製薬に代わる臨床試験の開発パートナーを今から見つけるには時間的ロスが大きいためで、まずは自社で販売できる組織体制を構築するとともに、コプロモーションができる販売パートナーの探索を進めていくことにしている。このため販売開始当初は、対象医療施設も現在治験を実施している医療施設(17施設)など絞って販売を進めていき、徐々に対象施設を拡大していく予定にしている。また、販売パートナーについては今後、適応拡大を進めていくために必要となる臨床試験を共同で実施できる企業を対象に考えており、消化器領域に強い製薬会社等を想定している。



※1 先駆け審査指定制度とは、対象疾患の重篤性など一定要件を満たす画期的な新薬などについて、PMDAが薬事承認に関する相談・審査を優先的に取り扱い、承認審査期間を短縮することで早期実用化を目指すもの。通常は、承認申請から12ヶ月程度を目標に審査を行うが、同制度を活用することで審査期間を6ヶ月程度に短縮することが可能となる。テロメライシンは2019年4月に指定された。

※2 オーファンドラッグとは希少疾患用医薬品のことで、日本では対象患者数が5万人未満で医療ニーズが高いものなどが指定条件となっている。オーファンドラッグとして指定されると、10年間の独占販売期間が得られる。



(3) 開発状況

テロメライシンは現在、国内と米国にて複数のプロジェクトが進んでいる。このうち、国内では中外製薬とのライセンス契約解消により、今後は食道がんを対象とした放射線併用の第2相臨床試験に集中し、2024年の販売承認申請を目指していくことにしている。一方、米国で進めている3本の医師主導臨床試験のうち、頭頚部がんを対象とした試験に関しては同領域の治療指針が変化したこともあり、一旦組入れを終了することを決定した。



a) 食道がん(放射線併用療法、日本)

食道がんを対象とした放射線併用療法による第2相臨床試験は、外科手術による切除や根治的化学放射線療法(放射線と抗がん剤を用いた治療法)が不適な患者を対象に行われ、ヒストリカルデータ(日本食道学会による放射線単独療法)との比較により有効性と安全性を確認する試験となる。予定症例数37例のうち、2022年8月時点で約9割まで進んでおり、年内にもすべての組入れが完了する見通しとなっている。



テロメライシンと放射線の併用療法では過去の臨床試験等の結果から、放射線単独療法と比較して高い治療効果が得られていることが確認されている。放射線をがん細胞に照射することでテロメライシンのがん細胞への感染力が向上するとともに、放射線で切断されたがん細胞の遺伝子修復をテロメライシンが阻害することが要因と考えられる。このため、第2相臨床試験においても好結果が得られるものと期待される。



b) 食道がん(化学放射線療法との併用療法、米国)

同社は2020年6月に米国の主要ながん研究グループであるNRGオンコロジーとの間で、食道がん患者を対象とした医師主導の第1相臨床試験を実施する契約を締結した。臨床試験の内容は、標準治療法であるCRT療法を行いながらテロメライシンを隔週に3回投与し、安全性の確認と3ヶ月後の腫瘍の縮小効果を確認するというもの。完全奏効率が標準治療法を上回れば(CRT療法単独で約50%程度)、企業治験で開発を進めていく可能性が出てくる。また、3年後のがん再発率が既存療法より低ければ、食道がんにおいて外科手術以外の標準治療法候補となる可能性もある。



予定症例数は12例だが新型コロナウイルス感染症拡大(以下、コロナ禍)の影響で進捗は遅れており、2022年8月時点で組入れは3例にとどまっている。同社では今後、治験施設を増やしながら予定症例数の完了を目指していく。今回の臨床試験の結果については、国内で進めていく予定にしている適応拡大(CRTとの併用療法)のための臨床試験データとして援用していくことにしている。データを援用することで第2相臨床試験からの開始が可能となり、開発期間の短縮につながると同社では見ている。なお、適応拡大のための臨床試験では予定症例数も多くなることが想定されるため、開発資金を分担する共同開発パートナーが必要となってくる。



c) 進行性または転移性固形がん(免疫チェックポイント阻害剤との併用療法、日本)

食道がんを中心とした進行性または転移性固形がんでステージ4の患者を対象に、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブ(開発:米メルク、商品名:キイトルーダ)との併用療法による医師主導の第1相臨床試験が国立がん研究センター東病院等で進められ、2021年に22例の組み入れを完了した。同治験はステージ4の患者に対する治療戦略として、テロメライシンによる局所療法で腫瘍を縮小させ、患者のQOLを高めることで免疫チェックポイント阻害剤の治療効果をさらに高め、患者の生存期間を延伸することが可能かどうかを確認する試験であった。



前半の9例に関する中間報告については、2019年3月に開催されたAACR(米国癌学会)で発表されている。投与を制限するような重篤な副作用は発生せず、副次評価項目である有効性評価として、9例中3例で全身での部分奏効(PR)が確認されたというもので、ペムブロリズマブの単独療法による臨床試験結果(PR率13.1%)と比較して、併用療法による腫瘍縮小効果が期待できる内容であった。また、後半の11例の試験結果も含めた全体総括については、2023年4月に米国で開催予定のがん治療学会で発表される予定となっている。治験担当医師からは「独自のバイオマーカーが見えてきた」という中間報告を受けており、その内容が注目される。



(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)