■業績動向



1. 2023年6月期第3四半期の業績

サイジニア<6031>の2023年6月期第3四半期連結業績は、売上高1,684百万円(前年同期比5.9%減)、営業利益76百万円(同39.6%減)、経常利益75百万円(同37.8%減)、親会社株主に帰属する四半期純利益45百万円(前年同期は1,317百万円の損失)となった。一見減益に見えるが、前年同期の業績にZETAの2022年5月期第1四半期業績が含まれていないことが要因で、これを加えた実質増減率は同68.9%の営業増益となる。CX改善サービスは引き続き好調に推移したものの、デジタルマーケティングの環境変化によりネット広告サービスが想定以上に苦戦し、計画比では未達となったようだ。



新型コロナウイルス感染症の法律上の位置付けが「2類相当」から「5類」へと引き下げられ、国内経済活動は正常化に向かっているが、ウクライナ情勢や円安の進行、原材料価格やエネルギー価格の高騰などが重なり、依然として先行き不透明な状況が続いている。一方、同社の事業領域である国内EC市場はコロナ禍前の2019年を上回る規模に拡大しており、主要顧客が多く属する物販系分野のEC市場は特に伸長しているもようである。このような市場環境の下、同社は「ZETA CXシリーズ」などで積極的に新サービスをリリースした。



ネット広告サービスは、デジタルマーケティングの環境変化による競争激化により苦戦し、全社ベースでの計画未達の要因にもなった。一方、CX改善サービスは前年同期比で増益となり、計画も超過した。EC売上拡大やOMO推進といったEC事業者のニーズを的確に捉えた「ZETA CXシリーズ」が好調なことに加え、新サービスの「ZETA HASHTAG」の立ち上がりが順調に推移し、新規採用企業や既存企業向けが伸長した。なお、従来はサイト内検索「ZETA SEARCH」が同社サービスへの入口だったが、最近では「ZETA VOICE」からの流入も増えており、間口が拡がったことも好調の背景にある。





CX改善の好調を背景に、2023年6月期業績は期初予想を据え置き

2. 2023年6月期の業績見通し

2023年6月期連結業績については、売上高2,800百万円(前期比7.9%増)、営業利益370百万円(同1.9%増)、経常利益360百万円(同1.7%増)、親会社株主に帰属する当期純利益250百万円(前年同期は1,146百万円の損失)とする期初予想を据え置いた。ZETAの2022年5月期第1四半期業績を加えた実質的な営業利益との比較では前期比31.2%増となる。



同社がターゲットとするEC市場は、社会のデジタル化やDXを背景に引き続き拡大が見込まれている。実店舗中心の小売企業は同市場で売上を確保するため、ECを強化する一方で実店舗とWebの相互送客に対するOMO推進ニーズが高い傾向にあり、アパレル業界から小売全体へ拡大することが予想される。同社のCX改善サービスはこれらのニーズにフィットすることから、第4四半期以降も好調が期待できる。第3四半期はインターネット広告サービスが苦戦したものの、CX改善サービスが好調であることに加え、第4四半期に利益が偏重する傾向があることから、通期業績予想を据え置いた。





ポストクッキーの事業モデルを構築することで成長に弾みをつける方針

3. 中期成長イメージ

デジタルマーケティングの環境変化に対して同社は、既述のとおり(1) ネット広告サービスの効率化、(2) CX改善サービスへの経営資源集中、(3) コスト効率の改善、を推進することで成長を加速させる方針を掲げているが、これに加えてより詳細な基本方針を策定した。基本方針では、本社集約やCX改善サービスの単一セグメント化などの組織変更を計画しており、ポストクッキーの事業モデルを構築することで成長に弾みをつける考えだ。



具体的には、ネット広告サービスでリスティング広告にフォーカスし、高収益・高成長のCX改善サービスにネット広告サービスの一部サービスや人材、広告ノウハウなどを移管する。合わせて、SARIでのAI研究などにより技術面を強化する。CX改善サービスでは、既存サービスの拡充と新規サービスの開発を進めるとともに、リテールメディアテックやUGCといった成長領域に注力し、ECサイトのCX支援でトップシェアを目指す。中期的には検索やクチコミなどで蓄積した技術・データを生かした新たなUGCビジネスを実現させ、長期的にはデータビジネスやBtoC領域への事業拡大を計画している。コスト面では、本社をZETA拠点の三軒茶屋に集約し同社のホールディングス事業を強化するほか、CX改善サービスを単一セグメント化することでコスト削減とコミュニケーションの円滑化を図る。また、決算期を6月から12月に変更し、ZETAの利益獲得期を第4四半期から第2四半期に早めることで、安定した予算執行の実現を目指す。このほかにも、M&Aをスムーズに実行するためにIFRSを導入し、将来的にはプライム市場への指定替えや海外進出につなげる考えである。



(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)