■決算動向



1. 過去の業績推移

過去の業績を振り返ると、エルテス<3967>は顧客数の拡大や単価向上により順調に業績を伸ばしてきた。利益面では、2017年2月期にそれまでの過去最高益を更新した一方、連結決算に移行した2018年2月期以降は、将来の事業拡大に向けた先行投資の影響により利益水準は2期連続で低調に推移した。2020年2月期は事業拡大と新サービスの一部収益化により大幅な増益を実現したものの、2021年2月期はDXの動きが加速するなかで、新たな事業機会に対応するための先行投資を拡大し、上場後初めての営業損失を計上する結果となった。しかしながら、2022年2月期はコロナ禍からの段階的な回復や高収益プロダクトの伸びにより、黒字転換している。また、2023年2月期に入ってからは、相次ぐM&Aの実施により事業が大きく拡大するとともに、「デジタルリスク事業」に加え、「AIセキュリティ事業」「DX推進事業」の3事業によるバランスの良い成長基盤が整ってきた。



財務面に目を向けると、自己資本比率は2016年11月の株式上場に伴う新株発行等により80%を超える水準で推移してきた。ただ、2021年2月期は(株)And Securityの買収に伴って自己資本比率は50.4%に低下、2023年2月期も相次ぐM&Aにより38.1%にまで低下した。ただ、ネットDEレシオは0.45倍、EBITDA有利子負債倍率は2.4倍に収まっており、財務の安全性に懸念はない。



2. 2023年2月期決算の概要

2023年2月期の連結業績は、売上高が前期比74.7%増の4,685百万円、営業利益が同152.0%増の202百万円、経常利益が同52.8%増の143百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同60.6%減の42百万円と大幅な増収及び営業(及び経常)増益を実現した。EBITDA※についても前期比80.1%増の446百万円に増加している。なお、親会社株主に帰属する当期純利益が減益となっているのは、M&Aに関する支払手数料等の一過性要因が影響したものである。



※税引前当期純利益+支払利息+減価償却費及び償却費にて算出。





売上高は、相次ぐM&Aによる効果に加え、「デジタルリスク事業」「AIセキュリティ事業」「DX推進事業」の3つの事業がそれぞれ伸長し、大幅増収となった。特に、「デジタルリスク事業」については、ソーシャルリスク対策に係る大型案件の複数受注や、営業秘密持ち出し事件をきっかけに「内部脅威検知サービス」の受注が加速し順調に拡大した。エルテス単体の月次売上高は2023年2月に過去最高を更新しており、モメンタムの強さは継続している。また、「AIセキュリティ事業」についても、M&A先を含めた営業体制整備が奏功し警備事業が伸びた。「DX推進事業」については、自治体との連携(住民サービスのデジタル化支援など)が本格化してきた。



利益面では、M&Aに係る一時的な費用やのれん償却費(248百万円)に加え、プロダクト開発に向けた先行費用等が利益を圧迫する要因となったものの、高収益の「内部脅威検知サービス」の伸びや生産性の向上、管理部門の業務効率化により大幅な営業増益を実現し、営業利益率も4.3%に改善してきた。また、投資フェーズにある「DX推進事業」についても、通年では損失となったものの、第四半期だけで見ると黒字化(四半期ベース)を実現しており、収益の底上げが急速に進んできた。



財務面についても、M&Aや資本業務提携により大きく変化した。自己資本が第三者割当増資(約8億円の資金調達)※1により前期末比68.3%増の2,279百万円に増加した一方、資産合計は「現金及び預金」や「のれん」の増加等により同149.9%増の6,000百万円に拡大したことから、自己資本比率は38.1%(前期末は54.8%)に低下した。長期借入金を中心とする有利子負債も2,712百万円(前期末は731百万円)に大きく増加したものの、ネットDEレシオ※2は0.45倍、EBITDA有利子負債倍率※3は2.4倍に収まっており、財務の安全性に懸念はない。むしろ、キャッシュを稼ぐ力を維持しつつ、レバレッジの効いた財務バランスになってきたという見方ができる。もちろん、M&Aに伴い「のれん」が2,576百万円(前期末は230百万円)に増えており、今後の減損リスクを認識する必要はあるものの、複数社に分散されていること、各社ともに比較的キャッシュフローが安定していること、既にPMIの効果も出始めていることから、大きな下振れ要因として懸念する必要はないであろう。



※1 2022年4月21日に締結した(株)ラックとの資本業務提携締結により、(株)ラック及びDOSOを割当先とする第三者割当増資を実施した。

※2 (有利子負債−現預金)/純資産 にて算出。ネット有利子負債を純資産でどれだけカバーできているかを見る指標。一般的に1倍を超えると懸念(過剰債務)があると判断される。

※3 (有利子負債−現預金)/(税引前当期純利益+支払利息+減価償却費及び償却費) にて算出。EBITDAの何年分で有利子負債を返済できるかを見る指標。一般的には10倍が基準とされている。



(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)