■事業概要



5. 市場性・成長性

2026年に向けて国内のパブリッククラウドサービス※市場、国内のCRMアプリケーション市場はともに年間平均成長率は2ケタ成長の予測となっており、キットアライブ<5039>は国内のCRMクラウドサービス需要は今後も継続して成長していくと見ている。



※自らが作り上げるのではなく、クラウドサービス提供業者が構築した環境を利用するサービスのこと。





日本政府は国のDXを推進するために2021年9月に「デジタル庁」を設立し、国民の利便性や行政の効率化を目指している。国内ではコロナ禍によるリモートワークやオンラインサービスの需要増加などに伴い、DXの取り組みが活発になっている。具体的なDXの取り組みは、オンライン会議、テレワークシステムの導入、クラウドサービスの利用、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)※の導入など多岐にわたる。



※これまで人間しかできないと思われていた作業をAI・機械学習等による認知技術により自動化作業にしようとする取り組みのこと。





DXにおいて、インターネット上のサーバーを利用してデータやアプリケーションを提供する「クラウドサービス」は大きな役割を担っており、クラウドサービスを用いたデジタル技術を活用することで企業の業務改善や競争力強化が可能となる。クラウドサービスは、従来のオンプレミス※型のサービスと比較して、コスト削減やスピーディーで柔軟なシステム運用が可能で、企業が必要な部分のみを選択してシステムを構築できる。加えて、ビッグデータやAI、IoTなどの先進技術によって消費者の行動傾向、需要予測などを正確に読み取り、商品開発やマーケティングに活用することもできる。



※法人においては、他社にインターネット上で管理を任せる「クラウド」に対し、サーバーやアプリケーションにより自社自らが管理して行う環境のこと。





総務省の「令和4年版情報通信白書」によれば、国内のクラウドサービスの利用状況は、「全社的に利用している」「一部の事業所又は部門で利用している」が2017年には56.9%だったものが、2021年には70.4%となり年々増加している。「利用していないし、今後も利用する予定もない」が2017年には22.1%だったものが、2021年には15.2%にまで減少している。今後、クラウドサービスの利用者の伸び率は普及に伴い鈍化するものの、さらに上昇するものと推測される。



(1) クラウドサービス

クラウドサービスは、低コストで広範囲にわたる仕組みを構築ができるため、顧客は自社のビジネスに集中できるほか、地理的な制約がなくリモートワークで柔軟な働き方を実現できる。さらにはビッグデータ、AI、機械学習などの導入により、クラウドサービスはもっと高度な機能を発揮するようになることから、需要はさらに増加し、市場規模も拡大すると見られる。



「クラウドサービス」の種類には、1)「Salesforce」のようなSaaS、2)クラウド上でインフラストラクチャ※を提供するIaaS(Infrastructure as a Service)、3)クラウド上でアプリケーションを開発・運用するためのプラットフォームを提供するPaaS(Platform as a Service)などがある。



※セキュリティや制御などを含めて、ソフトウェアやアプリケーションを運用するうえで必要な仕組みのこと。





(2) SaaS製品

SaaSは利用者にとって利便性が高く、導入が比較的容易であるため、クラウドサービスのなかでも多く利用されている。IaaSやPaaSは、自らアプリケーションを開発したり、インフラストラクチャを構築したりするサービスである。SaaSと比較するとある程度知識や技術が必要であり、導入するにはハードルが高いため、一般的な企業は導入しにくい。



SaaS製品には、営業、マーケティング、カスタマーサポートなどの業務を支援するCRM、人事・採用・研修などの業務を支援する「HRM(Human Resource Management)」、オンラインでの会議やセミナーなどを実施する「オンライン会議」、ECサイトやアプリなどで決済処理を行うツ「オンライン決済ツール」、AI・機械学習に特化した「AI・機械学習ツール」などさまざまな製品がある。同社が得意とし、顧客への導入支援に注力する分野がクラウド型CRMであり、同社はその世界的シェアを持つSalesforceを中心に取り扱っている。



日本国内ではあらゆるビジネスの分野でデジタル化が進み、クラウドサービスと同時にSaaS製品の需要も高まっている。コロナ禍の影響によりリモートワークやテレワークなどの働き方の変化が進み、SaaS製品を活用する企業が増加傾向にある。一般的に、月額にて利用できる「SaaS製品」に比べて、商品を購入しなければならない「パッケージ型製品」については導入コストや保守コストが高いため、コストパフォーマンスに難がある。従来パッケージ型製品でしか提供されていなかったサービスも、SaaSの進化によってSaaS製品でも提供できるようになり、SaaS製品のシェアが拡大している要因にもなっている。



日本国内にも、クラウド名刺管理サービスを提供するSansan<4443>、クラウド型CRMを提供するサイボウズ<4776>、「楽楽清算」をはじめとした業務支援サービスを提供するラクス<3923>、クラウド型会計ソフトを提供するマネーフォワード<3994>、同じくフリー<4478>といったSaaS製品を取り扱う企業(以下、SaaS企業)が数多く存在する。SaaS製品は、継続した契約が続く間は定期的に収益をあげられる「ストック型ビジネス」であるため、将来的な収益予想が立てやすくなる。



日本のSaaS市場は欧米に比べて10年以上遅れており、近年ようやく成長期に突入したのに対し、欧米のSaaS市場は既に拡大期を迎えている。世界市場においては、Salesforce、Microsoft、Adobe、Oracle、SAPなどのSaaS企業が既に多くのシェアを占めているのに対し、国内のSaaS企業のシェアはわずか数%しかない。海外のSaaS企業は代理店やパートナー企業に対して幅広い裁量権を与え自己責任でSaaS製品を販売することが多く、自己負担で教育・サポートを行う場合が多い。そのため、ルールの縛りが厳しい国内のSaaS企業の代理店・パートナー企業に比べ、同社をはじめとする「Salesforce」のパートナー企業は、それぞれ自由度が高い独自の販売システムを確立していくため、成長スピードが非常に速い。



(3) 「Salesforce」

「Salesforce」は、CRM分野におけるSaaS製品ではMicrosoft「Microsoft365」「Dynamics 365」や、Adobe「Creative Cloud」、Oracle「Oracle Cloud Applications」、SAP「SAP S/4HANA Cloud」などと並び世界的なシェアを持っている。なかでも「Salesforce」を販売するSalesforceは世界最大手で、約15万社の国内外の取引先導入実績がある。コロナ禍における好業績を受け、大幅に採用を増やしたSalesforceは、2023年1月に経営環境の悪化により大幅な人員削減を発表し拡大路線を修正したが、同社は国内のクラウドサービス市場は今後も拡大していくと見ており、特に影響はないと見ている。



(執筆:フィスコ客員アナリスト 中山博詞)