■業績動向



3. 2023年8月期の業績見通し

USEN-NEXT HOLDINGS<9418>の2023年8月期の業績見通しは、売上高247,000百万円(前期比3.8%増)、営業利益18,400百万円(同6.2%増)、経常利益17,300百万円(同6.5%増)、親会社株主に帰属する当期純利益9,200百万円(同5.9%増)と期初予想を据え置いている。同社は下期も、安定した顧客基盤や映像コンテンツ、音楽コンテンツ、IoT各種商材、ネットワークインフラなど経営資源を最大限に生かす。強力な直販体制に加えてテレマーケティングやWebマーケティング、様々な販売チャネルを活用することでグループシナジーを最大化し、ウィズコロナで急速かつ大きく変化する消費行動や企業活動、テクノロジー、社会環境に対応する方針である。これによりサステナブルな利益成長を達成し、株主価値と企業価値を高める考えである。



中期経営計画「Road to 2025」の2期目となる2023年8月期は、急激な円安と行動制限の解除という大きな変化の最中にある。円安に関しては、海外コンテンツの調達原価上昇が懸念されるものの、これをストック収入の増加に伴う収益の安定化やコンテンツ調達の内外構成比の改善、条件交渉などによってカバーする方針であった。行動制限の解除に関しては、国内の人流が急増しており、業務店や飲食店、ホテルなどの業績底上げにつながると期待された。しかし足元の状況は、円安は是正しつつあるものの想定には届いておらず、行動制限の解除については想定以上の人流回復で運営に忙殺されるホテルなど想定外のボトルネックを起こしている。加えて精査前でまだ公表されていない「Paravi」統合にかかわる費用や「Paravi」自身の損失含みの業績もある。このため、第2四半期の進捗率は順調だったにも関わらず、同社が期初予想を変えなかったものと推測される。



2023年8月期のセグメント別の業績見通しは、期初予想のまま、コンテンツ配信事業が売上高74,000百万円(前期比3.6%増)、営業利益7,300百万円(同16.0%増)、店舗サービス事業が売上高61,000百万円(同4.9%増)、営業利益8,700百万円(同3.8%減)、通信事業が売上高53,000百万円(同4.4%増)、営業利益5,700百万円(同6.2%増)、業務用システム事業が売上高21,000百万円(同9.7%増)、営業利益3,400百万円(同3.8%増)、エネルギー事業が売上高42,000百万円(同0.9%増)、営業利益700百万円(同36.7%増)としている。



コンテンツ配信事業は、業界内に巣ごもり需要後の一服感はあるものの、同社は増収かつ2ケタ増益と好調継続を予想している。リオープニングに伴い、動画配信に対する財布内シェアや時間シェアが他の商材・サービスにシフトすることを考慮して、課金ユーザーの純増数を1年間で20万程度と見込み、売上高は1ケタ前半の伸びという計画になっている。円安による海外コンテンツの調達コスト増を見ているが、国内調達の拡大や取引条件の見直し、ユーザー獲得コストの減少、課金ユーザーの純増数が順調に伸びていること、下期は上期比で販促コストがかからないことなどを考えると、予想はやや保守的な印象である。「Paravi」については、統合効果が精査されていないことから、売上面での寄与は予想されるも、利益面での寄与は今のところ不透明である。



店舗サービス事業は、音楽配信は業務店向け顧客基盤を維持することで契約件数は横ばいを想定する。顧客の省人化ニーズを背景に、POSレジや配膳ロボット、デジタルサイネージといった店舗DX商材の契約件数が順調に増加する見込みになっている。利益面では、DX機器の減価償却費やサービス体制強化に伴う人件費の増加、個人向け音楽配信の契約件数減少などにより減益を見込んでいる。足元では店舗DX商材の契約件数が順調に伸びており、貸倒(一時コスト)が発生しても第2四半期が増益だったことを考えると、店舗サービス事業の予想は保守的な印象が強い。



通信事業は、フロー型収益からストック型収益へのシフトにより増収増益を目指している。法人向けICTは、増収基調維持も円安によるコスト増や人員増強により営業利益は横ばいを見込んでいる。業務店向け自社光回線は契約件数の順調な拡大により増収増益の一方で、回線取次は微増収・微増益を予想している。個人向けサービスは引き続き減収トレンドだが、MVNOの収益化により利益は横ばい維持の予想となっている。現状、おおむね想定どおりの推移となっているようだ。



業務用システム事業は、全体では、ウィズコロナの浸透により旅行・宿泊業、娯楽業の業況が回復するとの期待から増収増益を見込んでいる。なかでも一般ホテルは、旅行支援政策による実需の拡大が期待されるが、2022年8月期の観光庁補助金による特需の反動減を想定している。病院/クリニックは、「Sma-paマイナタッチ」の導入、新型再来受付機の拡販、クリニック向けクロスセル強化などにより増収増益を見込んでいる。しかし、足元は前述したように、下期に向けて業績下ブレの要因が多くなっている。ただし、補助金消滅による影響の一巡、新紙幣に対する特需、「Sma-paマイナタッチ」駆け込み需要、繁忙の常態化による投資意欲の回復など、2024年8月期には好転することが見込まれている。



エネルギー事業は、原料高など不安定要素が多いなかでも積極策を講じることで微増収・大幅増益を予想している。「USENでんき」は高圧の新規契約受付停止による顧客数減少に伴って減収としているが、値上げによる収益性改善や案件減少による販売代理店手数料の減少により営業利益は微増を見込む。「U-POWER」はグリーンエネルギーの人気もあって契約件数を順調に積み上げることで損益分岐点を突破し、収益性が大きく改善する見込みとなっている。足元では、「U-POWER」の業績が想定を大きく上回って好調に推移している。短期的な動きも要因になっているため第2四半期の業績がそのまま下期も継続するとは限らないが、通期業績を押し上げる最大の要素と言えるだろう。



(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)