■業績動向



4. 2024年3月期の業績見通し

2024年3月期の業績についてJストリーム<4308>は、売上高13,320百万円(前期比6.5%増)、営業利益1,665百万円(同0.1%増)、経常利益1,675百万円(同1.4%増)、親会社株主に帰属する当期純利益1,040百万円(同19.1%増)を見込んでいる。売上高はオーガニックな成長トレンドに順調に回帰する見込みだが、利益面ではシステム開発などの人材確保に向けた投資が先行するため、成長トレンドへの回帰は売上高より遅れる予想となっている。営業利益予想はコロナ禍前、オーガニックな成長を開始する前の5倍の水準にあたることから、現状は長期成長トレンドのなかの次なる成長への踊り場であると言える。なお、親会社株主に帰属する当期純利益は、前期に発生した投資有価証券評価損がなくなるため大幅な増益予想となっている。



DXは、コロナ禍を契機に社会構造や産業構造を大きく変えたが、アフターコロナにおいても引き続き構造を変えていく重要因子である。このため、企業行動はWebの比重を増しながらリアルとのハイブリッドな事業展開が広がると予測されている。こうした環境のなかで2024年3月期の同社は、中期経営の方向性をベースにコロナ禍で経験したノウハウを生かし、動画配信ソリューションからマーケティングやデータベースに踏み込んだ市場戦略によって、オーガニックな成長トレンドへの回帰を目指す方針である。



医薬領域では次世代のMedical DXパートナーを目指し、Web講演会のみならず、デジタルマーケティングや広告に注力する考えである。Web講演会では、医師と企業のコミュニケーションにおける課題を解消するため、相互コミュニケーションを促進するサービスを提供するほか、医薬品の市販直後の調査を支援するWeb講演会やオウンドメディアに縛られないMR主導のWeb講演会など新領域を開拓し、本社とエリアの複合開催も提案していく。また、同社の社内業務をデジタル化・効率化することで、サービス品質向上とコスト削減の両立を図る。ニーズが高まりつつあるデジタルマーケティングでは、「WebinarAnalytics」の導入促進によるデータ収集・分析業務の強化や、医師とMRの双方向交流サービスの提供、既存顧客へのデジタル関連ソリューションの開発・提案、トランスコスモスやビッグエムズワイなどグループ力の活用を計画している。なかでも需要の高いデータ活用サービスを強化することで、製薬企業各社のDXを支援していく考えである。広告では、メディア開発とメディアプランニング機能の強化や「WebinarAnalytics」を利用した分析・効果測定の提案などにより、Web講演会の新たな活用方法を提案する方針である。



EVC領域(医薬以外)では、ビジネス全般の動画コミュニケーションにおいて、動画活用のベストソリューションパートナーを目指す。用途別戦略として、セミナー/イベント、社内情報共有、教育/トレーニングの3分野に絞って強化する。特に市場規模の大きいセミナー/イベントの動画利用に適したサービスと機能の強化を継続し、「WEBINAR STREAM」やセルフ開催用プラットフォームなど株主総会やIR、学会といった個別の利用シーンに合わせたメニュー整備も進める。販売面においては、「J-Stream Equipmedia」や「J-Stream CDNext」の新規獲得のための営業リソース拡充や、制作・システムやライブ配信需要などへの波及効果をねらった領域/用途別施策の展開を推進する。新設した代理店専任部署では、代理店などパートナーを通じてパッケージ化されたサービスを中心に売上を増やす方針である。



OTT領域では、コロナ禍で大きな流れとなったネット配信の成長を持続する一方、グローバルプレイヤーなどの台頭によるコンテンツ・インフラ両面での競争激化やマネタイズといった顧客の様々な課題を解消する、動画ビジネスにおけるトータルテックパートナーを目指す。大規模配信やWebサイト運用などに総合的な関わりを持つキー局に向けては、マルチCDNなどを利用した配信品質の向上や安定したWebサイト運用体制の提供を行うことで、既存顧客の維持と新規顧客の獲得を図る。BS/CS局や地方局には引き続きDX支援を継続し、スポーツや公営競技などのコンテンツ事業者向けには、コンテンツ配信用のCMSや課金機能など動画配信と組み合わせて利用できる機能・ソリューションを提供する。特に足元で拡大基調にある公営競技では、既存顧客への大規模な配信システムの提供や新たな顧客とのリレーションの構築を積極化する考えである。



こうした市場戦略を背景に同社は、アフターコロナのため一時的に踊り場となった医薬領域を含め、全領域で増収を予定している。投資、支出面では、動画利用の一般化や技術進歩、それに伴う需要の拡大に応えるため、案件対応能力や開発能力、バックオフィス能力などの体制強化を進める必要がある。そのために人材を中心に先行投資していくことが不可欠となっている。収益環境のボラティリティが落ち着いてきていることを考えると保守的な印象ではあるが、営業利益は横ばいにとどまる見込みとなっている。



(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)