■要約



ワコム<6727>は、デジタルペンとインクの事業領域で、技術に基づいた顧客価値の創造を目指すグローバルリーダーである。映画制作や工業デザインのスタジオで働くデザイナー、アニメーターなどプロのクリエイターからの支持により高いブランド力とシェアを誇る。自社ブランドで「ディスプレイ(液晶ペンタブレット)製品」や「ペンタブレット製品」等を販売する「ブランド製品事業」と、スマートフォンやタブレットなど完成品メーカー向けに独自のデジタルペン技術をコンポーネントとして供給する「テクノロジーソリューション事業」の2つのセグメントで事業を展開している。



1. 2024年3月期上期の業績概要

2024年3月期上期の連結業績は、売上高が前年同期比2.7%増の55,591百万円、営業利益が同7.6%増の2,457百万円と増収増益となった。円安効果や好調なOEM需要を背景とする「テクノロジーソリューション事業」の伸びが増収に寄与した。ただ、「ブランド製品事業」については、プロ向けディスプレイ製品(既存モデル)の需要減に加え、消費者センチメントの悪化に伴う低価格帯モデルの苦戦が続いた。損益面では、負の遺産の整理に伴う引当金の費用計上等による粗利率の低下や積極的な研究開発投資を伴いながらも、円安効果を含む「テクノロジーソリューション事業」の伸びや経費削減により営業増益を実現した。



2. 2024年3月期の業績見通し

2024年3月期の連結業績予想について同社は、想定為替レートの見直しや「テクノロジーソリューション事業」の上振れを勘案し、10月31日付けで2回目の業績修正を公表した。売上高は前期比3.3%減の109,000百万円、営業利益は同123.5%増の4,500百万円と減収ながら大幅な増益を見込んでいる。上期同様「ブランド製品事業」の苦戦が続くなかで、「テクノロジーソリューション事業」の伸びが業績をけん引する見込みである。前期比で減収を見込んでいるのは、市場環境の不透明さの継続や「ブランド製品事業」における事業構造変革の動きを慎重に判断した結果と弊社は見ている。損益面では、積極的な研究開発投資を継続する一方、「ブランド製品事業」における粗利改善や「テクノロジーソリューション事業」の伸びにより前期比で大幅な増益を実現する想定である。



3. 中期経営方針「Wacom Chapter 3」アップデートの改編

同社は、4ヶ年の中期経営方針「Wacom Chapter 3」(2022年3月期〜2025年3月期)に沿った取り組みを推進してきた。「ライフロング・インク」のビジョンを継承し、改めて「5つの戦略軸」を設定するとともに、その実行に当たって「6つの主要技術開発軸」を定め、具体的な価値提供と持続的な成長につなげる方針である。特に既存技術と親和性の高いAI、XR、セキュリティの3分野を選択し、新コア技術と新しいビジネスモデルで新しい価値提供を実現していくところが戦略の目玉となっており、基本的な方向性に見直しはない。ただ、足元での急激な経済環境の悪化といった外部要因に加え、商品ポートフォリオや販路マネジメントの強化など同社自身の体制にも改善すべき余地があるとの認識に立ち、今後2年間(2024年3月期〜2025年3月期)を次の「Wacom Chapter 4」における事業成長につなげるための「事業構造変革期間」と位置付け、粗利改善や成長基盤の構築に注力する方針(アップデートプラン)を打ち立てた(2023年5月公表)。さらにアップデートプランの公表から6ヶ月が経過した時点で、「ブランド製品事業」についてはもう一段の追加構造変革が必要であると判断し、具体的な改編プランの公表に向けスケジュールを発表した(2024年1月を目途に進捗報告を、5月を目途に改編プランを反映した次期及び中期的な経営見通しを公表予定)。



■Key Points

・2024年3月期上期は円安効果やOEM需要増に伴う「テクノロジーソリューション事業」の伸びにより増収増益、「ブランド製品事業」は市場環境の変化による影響を受け、前期からの苦戦が続く

・2024年3月期の業績予想について2回目の業績修正を公表。上期に引き続き、円安効果や「テクノロジーテクノロジー」の伸びにより大幅な増益を見込む

・「ブランド製品事業」に対する追加構造変革の必要性から、中期経営方針「Wacom Chapter 3」アップデートの改編プラン及び経営見通しを公表予定(2024年1月を目途に進捗報告、5月を目途に公表)



(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)