■決算概要



1. 2024年3月期上期の業績概要

ワコム<6727>の2024年3月期上期の連結業績は、売上高が前年同期比2.7%増の55,591百万円、営業利益が同7.6%増の2,457百万円、経常利益が同18.7%増の4,990百万円、親会社株主に帰属する四半期純利益が同17.7%増の3,804百万円と増収増益となった。



売上高は、円安効果※や、好調なOEM需要を背景とする「テクノロジーソリューション事業」の伸びにより増収を確保した。ただ、「ブランド製品事業」については、プロ向けディスプレイ製品(既存モデル)の需要減に加え、消費者センチメントの悪化に伴う低価格帯モデルの苦戦が続いた。



※売上高全体を約30億円押し上げる要因となった。





損益面では、積極的な研究開発投資※1を継続しながらも、円安効果※2を含む「テクノロジーソリューション事業」の伸びや経費削減により営業増益となった。「ブランド製品事業」は、減収による収益の押し下げに加え、買付契約評価引当金の費用計上※3に伴う粗利益率低下要因もあり前年同期に引き続き営業損失を計上したものの、物流量や米国関税費用の減少を背景に売上原価が減少したことから粗利率は改善し、販管費削減も相まって営業損失の拡大は限定的だった。



※1 研究開発費は3,641百万円(前年同期比485百万円増)に増加。

※2 営業利益全体を約4億円押し上げる要因となった(そのほとんどが「テクノロジーソリューション事業」によるもの)。また、営業外収益として、円安による為替差益(約25億円)を計上した。

※3 買付契約評価引当金とは、一般的に安定的な資材仕入れを目的とする棚卸資産の長期買付契約に対して、市況の悪化等に伴う損失見込み額を引き当てる負債性引当金である。同社の「ブランド製品事業」の場合、既存モデルの需要減等を踏まえ、構造的な市場の変化に備えて、あらかじめ保守的な会計処理を行ったものと弊社では捉えている。





財政状態については、在庫マネジメントの推進により棚卸資産が減少した一方、現金及び預金の増加や増収に伴って売上債権が増加したことで、総資産は前期末比13.5%増の85,420百万円に拡大した。自己資本はプラス要因(内部留保の積み増しや為替換算調整勘定の増加)がマイナス要因(自己株式の取得)を上回ったことで前期末比1.8%増の41,213百万円とわずかに増加した。これにより、自己資本比率は48.2%(前期末は53.8%)に低下した。



2. 事業別の業績概要

(1) ブランド製品事業

売上高は前年同期比16.4%減の17,078百万円、セグメント損失は2,017百万円(前年同期は1,852百万円の損失)と減収減益となり、セグメント損失が継続した。売上高は円安効果(約9億円の増収要因)があったものの、主力の「クリエイティブソリューション」が、消費者センチメントの悪化等に伴う市場環境の変化により、ディスプレイ製品、ペンタブレット製品ともに販売が減少した。「ビジネスソリューション」についても、流動的な市況の変化や案件進捗の影響を受けてわずかに減収となった。損益面では、減収による収益の押し下げに加え買付契約評価引当金の費用計上により減益となりセグメント損失が継続したが、物流量や米国関税費用の減少、販管費削減といったコスト減要因により損失の拡大は限定的となった。一方、活動面では、事業構造変革の一環として取り組んでいる商品ポートフォリオの刷新に向けて新製品(3モデル)※を導入した。



※新しい機能やサービスが付いた「Wacom Oneシリーズ」(エントリーモデル)。





a) クリエイティブソリューションの売上高

前年同期比18.1%減の9,310百万円と減少した。製品別に見ると、「ディスプレイ製品」が低価格帯での新商品及び既存モデルが売上貢献した一方、プロ向け並びに中価格帯での既存モデルが需要減少により減収となった。「ペンタブレット製品」についても、中価格帯での新商品及び既存モデルが売上貢献したものの、プロ向け既存モデルが経年等による需要減少、低価格帯の既存モデルも需要減少により減収となった。



b) ビジネスソリューションの売上高

前年同期比2.9%減の2,180百万円とわずかに減少した。流動的な市況の変化や案件進捗による影響を受けた。



(2) テクノロジーソリューション事業

売上高は前年同期比14.2%増の38,513百万円、セグメント利益は同5.5%増の6,915百万円と増収増益となった。売上高は円安効果(約21億円の増収要因)に加え、「EMRテクノロジーソリューション」におけるOEM提供先の需要増が増収に寄与した。「AESテクノロジーソリューション」については、市場環境の変化を受け僅かに減収となった。損益面でも、増収による収益の押し上げや円安効果(約5億円の増益要因)により増益となった。



3. 2024年3月期上期の総括

2024年3月期上期を総括すると、好調なOEM需要を背景とする「テクノロジーソリューション事業」の伸びにより増収増益を実現したとは言え、円安効果を除くと、実質的には「ブランド製品事業」を中心に厳しい環境が続いたという見方ができる。特に中期経営方針「Wacom Chapter 3」のアップデートから6ヶ月が経過した現状においても、「ブランド製品事業」における苦戦が継続しているところをどう評価するかがポイントとなるだろう。後述するように、1) 新型コロナウイルス感染症の拡大(以下、コロナ禍)における「需要の先食い」解消の遅れ、2) 買い控え傾向の継続のほか、3) 他カテゴリーへの需要シフト傾向(選択肢の多様化)などが要因として挙げられるが、1) 及び2) のような景気循環的なものと3) の構造的な変化によるものとをしっかりと見極める必要がある。同社自身もアップデートプランのさらなる改編により、「ブランド製品事業」の追加構造改革の必要性を打ち出し、特に3) に対して早急に対策を進める方針であるが、買付契約評価引当金の計上や在庫削減といった負の遺産を整理する動きも、そのような動きの一環として捉えることができる。



活動面では、新製品の導入やクリエイティブ教育への集中、B2Bチャネルの強化、デジタルインクサービスの立ち上げ準備など、将来に向けた基盤整備において着実な成果が積み上がっており、その点は大いに評価できるポイントと言える。



(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)