■業績見通し



1. 2024年3月期の業績見通し

2024年3月期の連結業績予想についてワコム<6727>は、10月31日付けで2回目の業績修正を公表した※。売上高を前期比3.3%減の109,000百万円、営業利益を同123.5%増の4,500百万円、経常利益を同81.3%増の5,200百万円、親会社株主に帰属する当期純利益(以下、最終利益)を同120.4%増の3,950百万円と減収ながら増益を見込んでいる。



※1回目の業績修正(2023年7月31日付)では、「ブランド製品事業」の落ち込みを踏まえて、売上高を減額修正した。2回目の業績修正(同年10月31日付)では、想定為替レートを円安に見直し、好調な「テクノロジーソリューション事業」の伸びも勘案し、売上高・経常利益・最終利益をそれぞれ増額修正した。2回分の業績修正を合わせると、売上高は期初予想比で3,000百万円増、経常利益は700百万円増、最終利益は650百万円増と、それぞれ増額修正した。なお、2024年3月期下期の想定為替レートについては、1USドル=138.0円(前回予想レート130.0円)、1ユーロ=151.0円(同140.0円)、1中国元=19.2円(同19.0円)とそれぞれ円安方向に修正した。





上期同様、市場環境の変化の影響を受け、「ブランド製品事業」が既存モデルを中心に苦戦する一方、好調な「テクノロジーソリューション事業」の伸びが業績をけん引する想定となっている。ただ、前期比で減収を見込んでいるのは、市場環境の不透明さの継続や「ブランド製品事業」における事業構造変革の動きを見据えて、慎重に判断した結果であると弊社では見ている。



損益面では、積極的な研究開発投資を継続する一方、「ブランド製品事業」における粗利改善を中心に、円安効果を含む「テクノロジーソリューション事業」の伸びが加わり大幅な増益を実現する。もっとも、営業利益率は4.1%(前期は1.8%)と改善に向かうものの、価格政策(2024年3月期は値下げ影響が値上げ効果を減殺すると見られる)や商品ポートフォリオの刷新(一部既存モデル在庫の販売促進によるキャッシュ・フローの改善を優先し、関係する新製品の市場導入は慎重に進めている可能性がある)などといった事業本来の利益創出効果よりも、前期末に評価減を行った既存モデルの在庫品を中心とする値下げを伴う販売促進活動継続による増益効果の方が、2024年3月期の会社見通しにより大きく含まれていると考えられる。それでも「ブランド製品事業」の通期黒字化には届かず、前期の急失速からの回復は道半ばと言える。



(1) ブランド製品事業

売上高は前期比10.1%減の37,000百万円、セグメント損失は1,300百万円(前期は3,981百万円の損失)を見込んでいる。上期に導入した新製品(3モデル)などを含む、商品ポートフォリオの刷新や価格政策による粗利改善にも取り組むことで大幅な損益改善(下期黒字化)を実現する想定であるが、市場環境の変化の影響を受けて前期末に多額の在庫評価減を計上した「既存モデル」への対応を考えると、2024年3月期も引き続き難しい舵取りを強いられているなかでの事業運営となる。



(2) テクノロジーソリューション事業

売上高は前期比0.6%増の72,000百万円、セグメント利益は同2.3%増の11,000百万円を見込んでいる。引き続き好調なOEM需要が業績の伸びをけん引し、セグメント利益率も15.3%(前期は15.0%)と前期を上回る想定である。



2. 弊社の注目点

同社の業績予想(修正後)は、足元の市場環境(不安定な経済情勢や為替相場の動向、先行き不透明な事業環境など)や同社自身の取り組み(商品ポートフォリオの刷新や価格政策等)の蓋然性を合理的に反映したものであり、十分に達成可能であると弊社では見ている。通期予想の達成のためには、下期の売上高53,409百万円、営業利益2,043百万円、経常利益210百万円で足りるが、好調な「テクノロジーソリューション事業」や現在の為替相場の状況から判断すると、上振れの可能性(特に営業利益面)も考えられる。一方で、苦戦が続く「ブランド製品事業」の回復の遅れや早期回復に向けた一過性のマイナス要因(不採算な在庫処分や評価減の計上等)などにも十分に注意を払う必要がある。注目すべきは、「ブランド製品事業」の粗利改善に向けた進捗である。市場環境の変化(在庫マネジメントを含む)に対応しつつ、価格政策や商品ポートフォリオの刷新をいかに進め粗利改善につなげていくのか、さらには将来に向けた投資も継続する必要があり、そういったバランスやタイミングが非常に難しい局面を迎えていると言えるだろう。いずれにせよ、負の遺産を整理して将来の成長軌道を確かなものとできるかどうかという観点から、まずは2024年1月に公表予定の追加構造改革プランの内容や進捗報告が気になるところである。



中長期的な視点からは、「Wacom Chapter 3」のアップデートで掲げた「事業構造変革」の進捗に注目したい。「ブランド製品事業」については追加構造改革の必要性が出てきたものの、それを除けば、今後やるべきことがより具体的に明示されたことから、それぞれの成果をフォローするとともに、いかに「Chapter 4」での成長加速につなげていくのかを見定めたい。特に3つの新コア技術(AI、XR、セキュリティ)との組み合わせや新しいビジネスモデルの立ち上げが、中長期的な同社の方向性や将来性を占ううえで重要な判断材料になると見ている。そのためには、同社自身における技術開発はもちろんのこと、他社との連携により新しいサービスとしての価値をいかに生み出していけるかが成否を決することになると考えられる。デジタルインクとAIによる新たな価値提案は、すでに動き始めた教育分野以外にも様々な分野で可能性があるうえ、他社に先駆けてデータやノウハウが蓄積できれば、革新的な領域で圧倒的なポジションを確立できる公算も大きくなるだろう。



(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)