突然、暗い雲が湧き、雨が降り出す。途方に暮れる隣人に、そっと傘を差し出す。それが、地域に根付く庶民金融の役目なんだよ―。かつて、酒場の片隅で大切な矜持[きょうじ]のように語る銀行マンがいた▼いわき市のいわき信用組合もこれまで、たくさんの雨傘をかざしてあげてきた。「江名町信用組合」として発足し、今年で77年。「いわしんさん」と親しまれ、小さな事業所や住民に寄り添い続けている。震災と原発事故発生後、冷え込む古里の経済を支えた。「われわれの話を聞いてくれる」。頼もしい身近な相談相手となった▼「地元企業のため」という大義名分が、不祥事の温床となっていた。取引先の経営が悪化すれば自らの懐も痛むと、20年にわたって続けた不正融資は1293件、247億円にも上る。一部の幹部が主導したという。諫[いさ]める勇気を、誰かが振り絞れなかったのか。日々、誠実に職務に向き合う現場の職員を思うと、気の毒でならない▼いつしか忘れてしまったようだ。大義名分には「人として守るべき節義と分限」の意味がある。失った信頼を取り戻すには、いばらの道が待つ。視界不良の土砂降りに、周囲は傘を差し出してくれるだろうか。<2025・6・3>