都心に行けば行くほど目立つタワーマンション。中には階段では到底、たどり着けない階数に住んでいる人もいるだろう。

眺望は良く、そこに住んでいるだけで華やかな気分になることができるが、災害時にはさまざまな壁が立ちはだかる。

そこで今回、住宅ジャーナリストの榊淳司さんに、災害が起こるとマンション、特にタワーマンションはどのような影響を受けるか聞いた。

住宅ジャーナリスト・榊淳司さん

エレベーターの閉じ込め

まず、榊さんは「地震の揺れでタワーマンションが構造面で大きな被害を受けたり、建物が傾いたりすることはないと考えています。よって、災害時の懸念は“生活被害”です」と指摘する。

タワーマンションは、一般的に20階以上の鉄筋コンクリート造の集合住宅のことを指す。そのため、エレベーターの移動は欠かせない。だからこそ、地震や停電によってエレベーターが停まってしまうと何もできなくなるというリスクが伴うという。もちろん、エレベーターの閉じ込めはタワーマンションだけに限らない。

しかし、「今まで地震が起きてもエレベーターが止まったことはない」と、どこか他人事のように思っている人も多いかもしれない。だが、実際に2018年6月の大阪北部地震ではエレベーターが停まった。国土交通省が2019年6月に発表したデータでは、大阪・京都・兵庫・奈良・滋賀を中心とし、和歌山・岐阜、福井、香川にわたる広範囲で約6万3000台のエレベーターが運転休止し、そのうち大阪・京都・兵庫・奈良・滋賀の346台で閉じ込めが発生している。発生した時間が朝だったためか、閉じ込めが発生した建物で最も多かったのが住居だ。

「ここ20年以内に建設されたタワーマンションに設置されているエレベーターであれば、地震の揺れを感じると地震時管制運転装置が作動し、最寄りの階に停止し、扉が開くシステムになっていますが、それ以前のエレベーターではこの機能が付いていない場合も多く、閉じ込めが発生する可能性が高いと思われます」

大阪北部地震の場合は、数時間で救助されているが、「一度停止したエレベーターを再び作動させるためには、専門の技術者による安全確認が必要です。停電によって停止した場合でも、技術者が安全性を確認しなければ動かせないこともあります」と榊さんは言う。

大規模地震が起きたときに、最優先は閉じ込めによる救出、その次に病院などの緊急性が高い施設や公共性の高い建物の復旧が続く。高さ60メートル以上の高層住宅や一般の建物のエレベーターの復旧の優先順位は高くないのだ。

タワマン周辺の避難所はキャパオーバーに

タワーマンションで生活するにあたり、エレベーターが動くことが日常であるが、災害時はそんな日常が崩れてしまうこともある。だからこそ、「エレベーターが使えなくなった場合どうすればいいか」を常々考えておかなければならない。

2011年の東日本大震災の影響により、それ以降に建設された新築マンションでは、災害への備えが重視されるようになる。

震災以前、タワーマンションでは地震や停電によって電力の供給がなくなった場合の非常用電源の稼働時間は24時間が標準だったが、震災以降は72時間に。地震等で電力が途絶えても、非常用エレベーターを72時間は動かすことができるようになった。ちなみに、非常用電源は発電機を稼働させて動くため、72時間分の発電用燃料がタワーマンション内のどこかに保管されていることが多い。

だが、榊さんは「非常用電源が使えるとしても、すべてのエレベーターが動くわけではなく、非常用エレベーター1基しか動きません」と注意を促した。

何世帯もの住民のいるタワーマンションであれば、エレベーターは1基だけではなく、何基もあるだろう。自分が住んでいるマンションの非常用電源がどれくらいの時間稼働できるか把握していない場合は、管理組合に聞いたり、新築であればマンション購入時のパンフレットに記載されているという。気になる場合は、確かめてみるといいかもしれない。

たとえ、72時間稼働したとしても、72時間以内にインフラが復旧するとは限らない、ということも頭に入れておく必要がある。非常用電源が途切れた時、高層階に暮らす人たちは自力で階段を上り下りするか、マンションの外へと避難するか、どういった行動をとるのか事前に考えておく必要もある。

そして、榊さんは「タワーマンションでは電気が止まることで水の供給も止まる」と話す。タワーマンションでは、電力でポンプを稼働させ、水を上層階へ押し上げているため、電気がある限り水が蛇口から出てくるが、電気が止まってしまうと水も出なくなるというのだ。

そうなると、飲料水は出なくなり、トイレも流すことができず、風呂にも入れず、洗濯もすることができない。

さらに、「タワーマンションに限らず、マンションの住民については行政は避難所への収容を想定していません。基本的に、避難所はその場にいたら命の危険がある人のためだと考えるべきでしょう。タワーマンションは基本的に命の危険はないとみなせるため、住居内で“自活”が求められているのです」と話す。

東京のような大きな都市で大地震が発生した場合、行政が設置する近隣の避難所へ行ったとしてもキャパオーバーになり、救援物資などが絶対的に不足してしまうことが容易に想像できる。そもそもタワーマンションの住民を収容するスペースが足りない。タワーマンションが建設され、街の住民が増えても、避難所の収容人数は変わらないのだ。

だからこそ、「東日本大震災以降は、マンションによって、各階ごとに災害備蓄をしているところもあります。ほぼ、飲料水と食べ物ですが、避難所へ行けないということも踏まえると、自宅でしっかりと備えておく必要があると思います」と榊さんは言う。

先日の台風15号による影響で、千葉県内ではいまだに停電している地域もある。いつ、どこで、なにが起こるかわからない時代。備えあれば患いなしというが、タワーマンションで暮らす人たちは災害時にどう行動するか、どんな備えが必要か知っておく必要があるかもしれない。

榊淳司

住宅ジャーナリスト・榊マンション市場研究所主宰。著書には『マンションは日本を幸せにするか』(集英社新書)、『マンション格差』(講談社現代新書)、『すべてのマンションは廃墟になる』(イースト新書)、『限界のタワーマンション』(集英社新書)など。