【J番記者が選ぶスーパーゴール|浦和編】2016年J1リーグ戦第4節湘南戦(後半10分)…鮮やかな連動から決めた“ショー”のようなゴール

 一つの完成形を見たような気がした。2016年の3月20日、浦和レッズが湘南ベルマーレと対戦したゲームで興梠慎三が後半10分に決めたゴールだ。

 この年、浦和は“ミシャ”ことミハイロ・ペトロヴィッチ監督が就任して5年目だった。パスワークを主体にした攻撃的なサッカーを標榜する指揮官に率いられたチームは、年々少しずつ新たな要素を取り入れつつ進化を図ってきた。ゆったりとしたボールの動かし方が批判を誘うこともあったが、一つの縦パスをスイッチに3人目、4人目、5人目と連動していく鮮やかな突破こそスペシャルなもの。その最たるものがこのゴールだった。

 中盤、左のインサイドで宇賀神友弥がボールを持つと、相手選手たちでできた三角形の重心に入り込んだ武藤雄樹へ縦パス。このボールに対して武藤は“ミシャサッカー”のシャドーなら必ずアイデアに持つフリックでボールを中央に流した。

 これを興梠が受けた時、宇賀神と武藤はともにパスを出して止まらずに左サイド側を一気に駆け上がっている。その動きをフェイントに中央を向いた興梠は、シュートも打てる間合いから右前方の李忠成へショートパスを出した。

 ここで相手のプレッシャーを感じた李は、背中で相手をブロックしたままボールをスルー。そこにはいつの間にかボランチの位置から柏木陽介が駆け上がっていた。浦和の攻撃方向に見て左サイド側から一気に戻ってくる湘南の守備陣を前に、柏木は右足ならシュートを打てたかもしれないが、ここで利き足の左足方向にボールを止める。これによって「間に合った」感覚の生まれた湘南の守備陣は一斉に踏ん張ってスピードを落とした。

 その瞬間、柏木はまたしても自分の右側の誰もいないスペースにショートパス。すると、そこにはこの密集を回り込むように興梠が走り込んできた。ストライカーは今度こそ冷静にゴール左隅へシュートを流し込んだ。

 この間、わずかに10秒弱。一つのショーとしてあまりにも美しかった。

 この年、浦和はルヴァンカップを制して念願のタイトルをミシャにプレゼントする。その翌日、サンフレッチェ広島時代から通訳兼コーチを務めてきた杉浦大輔さんは「よく完成度を聞かれますけど、ミシャのサッカーに完成はないと思います」と話していた。それでも、このゴールはその完成という言葉に限りなく近づいたものとして残ってしかるべきだと思う。それこそ、この路線で世界トップと言えるスペインの強豪バルセロナのゴール集の中にこっそりと一つだけ混ぜておいても、そんなに見劣りするものではないだろう。

興梠が持つ“個人の力”を目の当たりにした2018年の反転ボレー

 このゴールを決めた興梠は、13年に加入してからクラブの歴代ゴール記録を塗り替えるなど、名実ともに“浦和のエース”として名を残している。彼の個人能力、身体能力や瞬時のひらめきといった天才性を目の当たりにしたゴールを挙げるなら、18年7月2日のセレッソ大阪戦のものだろうか。

 武藤の右コーナーキックをファーサイドの45度付近でファブリシオがヘディングで競り勝つと、シュート性のボールがGKとの間に入っていた興梠のもとへ。このボールに右足で反応した興梠はトラップで自分の前にボールを浮かせると、そのまま反転して左足ボレーを突き刺した。全てがノーバウンドのまま、一瞬の出来事だった。

 このゴールを長居陸上競技場の記者席で見ていた私は、思わず声を上げた。ただ、とんでもなく難しいゴールを決めたはずの本人は、淡々と周囲の喜ぶチームメートに囲まれるだけ。そんな落差もまた彼らしかったと感じたところまで記憶に残る。

 近年の浦和は、ルヴァンカップ、天皇杯、AFCチャンピオンズリーグといったカップ戦でタイトルを獲得しているが、リーグ戦では頂点に届いていない。06年の初優勝から近くて遠い2回目を待ち望んで14年、今度はそのタイトルをつかみ取るゴールが語り継がれるものになって欲しい。

Football ZONE web編集部