【歴代名手の“私的”技術論|No.9】原口元気(日本代表MF):日本代表を機能させるサイドのキーマン

 いちおう原口元気の回としているが、技術論というより日本代表の守備に焦点を当ててみたい。

 森保一監督は、2018年ロシア・ワールドカップ(W杯)の戦術を引き継いでいる。4-4-2のミドルゾーンでのプレスが基本である。守備の鉄則として3ラインがコンパクトであること。その守備ブロックをどの場所に置くか、どこで守るかについてはハイプレス、ミドルプレス、ロープレスと3つに分けられるが、日本はミドルプレスがメインになる。もちろん、状況に応じてハイプレスも行うし、押し込まれれば低い位置での守備になるが、ミドルプレスが理想的だ。

 なぜミドルプレスなのかという前に、なぜハイプレスでないのか。

 少し古い話だが、当時のバルセロナのハイプレスの図を見ていただきたい(図1参照)。3ラインをコンパクトにするのが鉄則と書いておいてあれなのだが、バルサのハイプレスは2ラインしかない。ここでメッシは、守備の勘定には入っていない。第一ラインは右からペドロ、シャビ(チャビ)、ブスケッツ(ブスケツ)、イニエスタ、ビジャの5人。第二ラインがダニ・アウベス、プジョル、ピケ、アビダルの4人だ。

 ポイントは第一ラインが5レーンをすべて埋めていること。ここではボールを持っている相手の右センターバック(CB)に対して、バルサの左ハーフスペース担当のイニエスタがプレスをかけている。イニエスタの担当レーンには相手のMFがフリーになってしまっているが、イニエスタ自身がコースを塞いでいるので直接パスは通らない。通ってしまった場合はブスケッツか、高い位置を取っているDF(アビダル)がカバーする。

 第一ラインが5レーンをすべて埋めていて、自分のレーンにいる相手に対しては前進してプレッシャーをかけていくので、相手にしてみればパスワークでバルサの第一ラインを通過するのは難しい。コンパクトでディフェンスラインが高いので、ロングボールで裏を突くことはできるが、ピケ、プジョルはスペースカバーに長けていて、GKも高いポジションでカバーしている。

 つまり、ハイプレスをメインにするには5人でフィールドの横幅を埋めきって圧力をかける必要がある。5人の壁でプレスして、抜けて来たボールを第二ラインが拾う。ハイプレスに適した守り方だが、逆にこれでミドルゾーンをメインにするとブスケッツの脇が空きやすくなるので得策ではない。

バルサが持つ条件を満たさない日本、ミドルプレスに見出す活路

 次にロシアW杯の日本の守り方を見てみよう(図2参照)。

 2トップの位置、プレスの開始点がバルセロナに比べてかなり低い。そもそも4-4-2は、ハイプレスに向いていない。FWの第一ラインが2人、MFの第二ラインが4人なので、5レーンのどこかは空いてしまう。例えば、相手のMFがハーフスペースに引いて3人でパスを回す形になった時点で、前進してプレスを続けるのは難しくなる。サイドハーフは1人で相手2人への守備をすることになり、そうなったら引き込むしかないわけだ。もちろん、日本はミドルゾーンに相手を引き込む前提で守っている。

 なぜミドルプレスなのか。まず、ロープレスではゴール前での高さ、パワーの勝負に持ち込まれやすく、その場合の劣勢が予想される。しかし、ハイプレスに4-4-2は向いていないうえ、バルサが持っている条件を満たしていない。

1 ボール支配力=相手を深く下げる
2 DFのスピードと1対1の対応
3 GKの守備範囲と足下の技術

 この3つのうち1つが欠けても成立しない。ロシアW杯の日本(および現在までの日本)は、3つの条件の1つも満たしていないので、ハイプレスは無理であり、そもそもそうするつもりもなかったわけだ。

 吉田麻也、昌子源のCBは広大なスペースで競走するのは厳しいが、ある程度限定されたスペースならば対応できる。横からのクロスボールでなく、縦のロングボールなら競り勝つ強さもあった。下がりすぎず、上がりすぎずのライン設定には適していた。

 日本の守備のストロングポイントは、サイドへの追い込みと囲い込みの速さだ。原口、乾貴士のサイドハーフにスピードと運動量があり、サイドへ追い込んだらサイドバック(SB)と挟み込む。さらにボランチが内側を封鎖。あっという間に出口を塞ぐ。このポジション移動の迅速と運動量が、ミドルプレスで生きていた。大迫勇也、香川真司の第一ラインの方向付けも上手かった。

 この日本の守り方はサイドハーフの負担が大きい。守備でハードワークしたうえで、攻撃では前へ出て行かなくてはならない。原口はその点で素晴らしい仕事ぶりだった。ベルギー戦の長いランニングで柴崎岳のパスを呼び込み、そのままゴールしたシーンは原口ならではのプレーだった。

 守備に難があると言われていた乾は、エイバルで守備力を身につけて過酷な上下動をこなし、香川との息の合ったコンビネーションは攻撃のエンジンになっていた。

森保ジャパンの“日本式ミドルプレス”、今後の問題点

 森保監督になってからは堂安律、南野拓実、中島翔哉の2列目が攻撃面でロシアW杯を上回るものを披露している。ただ、基本的に上下動だった乾と違って、中島は広範囲に動く。攻撃面ではプラスだが、中島が守備に入れない問題も出てきた。

 図3は中島が攻め残りになった場合の最悪に近い事態を表したものだが、5レーンは全く埋まっていないうえ、大迫、南野、原口、遠藤航、柴崎がポジション修正を余儀なくされる。5人の第一ラインを形成して強引にハイプレスにすることもできないではないが、それをやるにはラインが深すぎる。しかもロシアW杯を継承したチームは、ハイプレスの3条件を依然として満たしていない。かといって、ミドルプレスに整えるには全体に負荷がかかりすぎバランスが悪い。これは目下の問題点だろう。

 中島を最初から中央に置く、五輪世代で使っている3-4-2-1を採用するなど、いくつかの対策はある。いずれにしろ、なんらかの修正は必要だと思う。

Football ZONE web編集部