【亘崇詞の“アルゼンチン流”サッカー論|第3回】指導者として掲げるテーマは「サッカーで食べていける選手を育てること」

 現在女子の3部に相当する「プレナスチャレンジリーグ」の岡山湯郷Belleで指揮を執る亘崇詞が、最も重きを置いているテーマは「サッカーで食べていける選手を育てること」である。それは世界中に散って活躍する選手を、次々に輩出し続けているアルゼンチンの現状を知るからこその哲学とも言える。

「食べていけるというのは、世界のどこへ行っても順応できる力を養うということです。例えば不謹慎だとの誹りを受けるかもしれませんが、この先コロナ禍でJリーグが開催できなくなったとしても、きっとブラジルやドイツでサッカーの試合は止まらない。日本で相撲が相当なことがない限りストップがかからないのと同じで、それは国技であり文化だからです。もし日本でできなくなったら外へ行きなよ、と送り出す。それは指導者も同じです。日本に指導の場がないから終わりじゃなくて、どこへ行っても教えられるようにならなければいけない」

 亘は今までも視野を広げ、刺激を与えるために極力国際経験を取り入れてきた。

「中国女子2部のチームを指導していた頃は、中国やインドネシア代表との試合を組み、日本遠征をしてジェフユナイテッド市原・千葉レディースやちふれASエルフェン埼玉と対戦しました。岡山湯郷でも非公式ながら中国、台湾やベトナム代表、あるいは水原(韓国)と試合をして、世界との違いを感じてもらい、世界で雇ってもらうためには何が必要なのかに気づいてもらおうと試みてきました」

 海外でプレーするということは、助っ人として求められることを意味する。それはアルゼンチンへ渡ってプロ契約に漕ぎ着けた亘ならではの発想だとも言える。

「本当に多くのことを学びました。球際の強さ、粘り強い守備、数少ないチャンスをものにする勝負強さ、狡賢さ(スマートさ)、判断のスピード……。しかし心技体では、心が90%だと教わりました」

 アルゼンチンでは「おまえは上手いけれどパーソナリティーが欠けている」と言われた。

「その頃はあまり意味が分かりませんでした。でも今は監督にも選手にもチームに影響を与える強い人間性が必要で、それがないと認められないんだと考えるようになりました。だからそういう自分に欠けていた部分を、将来無限の可能性を秘めた選手たちに少しでも伝えていきたいと思っているんです」

どんな環境でも「最高の力を発揮できる」かが選手として重要な要素

 亘は、現在マンチェスター・シティで活躍するFWセルヒオ・アグエロの凄みを例に挙げた。

「プレーヤーの本当の上手さって、なんなのかということです。アグエロよりリフティングが上手い選手はたくさんいる。でも彼は物凄いプレッシャーがかかるビッグマッチのチャンスの場面で、最適の判断とテクニックを駆使して結果を出す。だから周りを掌握できるんだと思うんです」

 南米から単身欧州へ乗り込み、逞しく結果を出しながら周囲を掌握していく選手たちを見て、亘はつくづく「指導者には柔軟性が必要だ」と感じる。

「ある選手が20歳まで凄く理解のあるチームで育ってきて、そこからギリシャやウルグアイへ行ったら全然できません、では寂しい。もし次のチームが自分の嫌いなタイプのサッカーをやっていたとしても、そこでもできる選手になっちゃえよ、と僕はいつも言っています。そのためにもまず指導者に柔軟性がないと、選手にも柔軟性はつきませんからね」

 今年亘は最高齢の48歳で、S級ライセンスを受講している。南米で挑戦すれば、もっと簡単に取得できたかもしれないが、敢えて逃げずに日本で挑戦する道を選んだ。

「南米で指導者ライセンスを買ってきたんだろう、と言われるのは嫌ですからね(笑)。与えられた環境で最高の力を発揮する。それが解決力。食っていける選手になれるかどうかを分ける重要な要素だと思います」

 かつて指導をした選手たちから「最近ようやく亘さんが言っていたことが分かるようになってきましたよ」と声をかけられ、凄く励みになっているという。日々のトレーニングで話し、蒔いた種が数年後に収穫になる。改めて亘は「育成とはそういう仕事」なのだと実感している。(文中敬称略)

Football ZONE web編集部