セビージャの選手が絶賛した鹿島の「9番」と「30番」

 22日に行われた明治安田生命Jリーグワールドチャレンジ2017で、鹿島アントラーズがスペインの強豪セビージャを2-0で下した。勝利の立役者は後半途中からピッチに立った21歳の鈴木優磨と18歳の安部裕葵だった。彼らはセビージャから何を感じ、未来に向けて何を思っているのだろうか。(取材・文:舩木渉)

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 鹿島アントラーズとの試合を終えたあと、セビージャの選手たちは一様に不機嫌そうな表情でスタジアムの外に出てきた。ほとんどがメディアの取材を拒み、足早にバスに乗り込んでいく。

 理由は明白。試合全体を通して主導権を握っていたにもかかわらず、終盤に2失点して鹿島に敗れたからだった。プレシーズンの1試合にすぎないが、彼らの根っこにある負けず嫌いな性質は我々の想像を超えていた。

 取材に応じた数少ない選手の1人、左サイドバックとして先発出場していたセルヒオ・エスクデロは言った。「後半の交代がすごく効いていた。2ゴールを決めた9番とか。30番も違いを作れる選手だった。興味深い選手だよ」と。

 スペイン代表歴を持つDFを唸らせた鹿島の9番は21歳の下部組織出身FW鈴木優磨、そして30番は高卒ルーキーの18歳・安部裕葵(ひろき)である。

 ともに後半途中から出場した2人は72分、電光石火の攻撃でセビージャから先制点を奪い取った。右サイドの伊東幸敏からパスを受けた安部は左足の1タッチ目で鋭くターンしてステベン・エンゾンジをかわすと、一気にスピードを上げてスライディングにきたクレマン・ラングレを置き去りにする。

 さらに慌ててカバーに入ったフランス代表DFセバスティアン・コルシアを巧みなダブルタッチでかわしてペナルティエリアへ侵入。最後は自分を追い越してきた鈴木にボールを渡してフィニッシュ。値千金の先制ゴールを流し込んだ若き背番号9は、お馴染みとなった「クリスティアーノ・ロナウドポーズ」で喜びを表現した。

 高速ドリブルで3人を抜き去った安部は「(ドリブルは)本当に自分の得意なプレーなので、それがああいう相手にも通用するんだなというのは自信になった。あの局面で考えている余裕は正直ないので、自然と体が動いたという方が、言い方としては合っていると思います」と圧巻のアシストを振り返った。

「理想のゴール」を決めた鈴木優磨、ヨーロッパへの憧れ隠さず…

 鈴木は「あれが俺のFWの理想のゴール」と語る。

「運んできてもらって、やっぱり最後に決めるのがFWというのが俺の理想。横パスを受けて点を取るのが一番簡単なゴールですけど、俺の一番理想的なゴールなんです。こういうゴールはいままでなかったのでよかった」

 昨季はリーグ戦に31試合に出場して8ゴールを記録し、鹿島の優勝に貢献した鈴木だったが、今季は出場時間を伸ばせず苦しんでいる。スーパーサブとして見せた勝負強さを期待されながら新シーズンを迎えたものの、今季はいまだ2ゴール。最近はプレー時間を与えられないことも増えた。

「調子がいい中で自分も遅れるわけにはいかない」

 そんな強い思いを抱いて臨んだセビージャ戦、鈴木は2ゴールと結果を残した。しかし鹿島を勝利に導いた本人は「相手は疲れた状態で、体作りの状態」ということを繰り返し強調していた。万全でない相手に勝ったからといって慢心してはならないと、自らを戒めるように話す。

 それでも将来のビジョンは明確になった。「ヨーロッパはいいなと思いました。こういうチームとできて。これを日常的にするには、やっぱりヨーロッパに行かなければいけないと、俺は改めて今日思いましたし、もっと相手のコンディションがいい中で戦えるってやっぱり羨ましいなと今日改めて思いました」とは鈴木の言葉。

 セビージャとの対戦を通してヨーロッパ挑戦への憧れは強くなったようだ。だが、まずは鹿島でペドロ・ジュニオールや金崎夢生といったリーグ屈指のアタッカーたちからポジションを奪い取り、継続的に活躍しなければ道は開けない。

「成長スピードをもう一段階、二段階上げるには、やっぱり強い相手と日常的にやること。間違いないなく自分の成長スピードが上がると思う。そのためにどうするかと言ったら、今自分のいるところで一生懸命頑張るしかないと思う」

セビージャ戦を心底楽しんだ安部。観客の度肝抜いたドリブルへの自信

 小学1年生の頃から鹿島アントラーズ一筋の21歳は、一言一言に力を込める。セビージャ相手の2ゴールに一喜一憂することなく、現状をいかに打破して次のレベルへ到達するか、それだけが鈴木の目線の先にある。

 一方、安部は飄々としていた。2ゴールの先輩を差し置いて獲得したマン・オブ・ザ・マッチについて「そういうのがあるのも知らなかった」と、特に大喜びすることもない。

 広島県の瀬戸内高校に進学から鹿島に加入して1年目の安部は、本田圭佑がプロデュースするSOLTILO FCの系列チームにあたる東京都S.T.F.Cから輩出されたプロ選手第1号でもある。今季のリーグ戦出場は2試合とわずかだが、取材時の受け答えは非常に落ち着いており、すでに大物ぶりが漂っていた。

「とりあえず『止めて・蹴る』がとてもうまくて、やっぱり自分ももっと『止めて・蹴る』という基礎を練習しないといけないなと思いました。前半はピッチの外から見ていて、すごく勉強になった。今日の試合は自分にとってすごく楽しくて、見ていても楽しくて、やっていていても楽しくて、すごく充実した試合でした」

 鈴木と同じく、セビージャとの対戦を心底楽しんだ。安部は自分のドリブルが通用すると、試合前から自信を持っていたという。「自分は縦にすごく速い選手という長所を理解しているので、ああやって押し込まれている時に僕が前に推進力を出したら相手が嫌がることはわかっていた」と語る表情は自信に溢れていた。

 前半、鹿島はセビージャに試合の主導権を握られた。あれほど振り回されるJリーグ王者の姿はなかなか見られない。相手の巧みな駆け引きに翻弄され、次々チャンスを作られる。コンディションこそ万全でなかったとはいえ、鹿島がカウンターを狙うしかない状況でドリブラーの積極果敢な仕掛けは確かに生きる。

「彼らよりうまくなりたい。早く追い越したい」(安部)

 だが、安部はすぐにレギュラー奪取を考えているわけではない。「目の前の試合もすごく大事ですけど、長い目で見て2年後や3年後にどうなるかが大事だと思う。今日の試合がもしダメだったとしても、とりあえず次の練習を一生懸命頑張ろうというモチベーションになるので、今日が良かったからといって特に変わることもないですし、ひたむきに練習を続けていこうと思います」と改めて気を引き締めた。

 試合を終えてあからさまにヨーロッパへの憧れと成長への欲求を口にする鈴木と、少年のように楽しみ、落ち着いて前を見据える安部。対照的なように見える2人がセビージャ戦を通して見つけた答えは、同じだったように思える。

 世界で通用する選手になるための基準が、スペインの強豪との戦いの中で見つかった。それは彼らの脳裏に残り続け、常に意識しながら日々を過ごしていくことになるだろう。

 安部は言う。

「彼らよりうまくなりたい。まだ自分は18歳ですし、まだまだ時間もありますし、当たり前ですけど一生懸命、毎日を無駄にせず、早く追いついて追い越したいなと思います」

 鹿島の未来を担う若者たちの頭の中に刻まれたセビージャ戦での経験が、今後のキャリアにおいて重要なものになっただろう。それをいかに活かすかが、彼らの到達点の高さを決めることになるかもしれない。

(取材・文:舩木渉)