無名選手揃いのチームで優勝したモナコ

 2016/17シーズンはASモナコのセンセーショナルな優勝で幕を閉じたフランス・リーグアン。来る新シーズンに向け、注目を集めているのがリールだ。昨季チャンピオンズリーグでも快進撃を続けたモナコの立役者と言ってもいい敏腕スポーツディレクターが加わり、新監督には鬼才マルセロ・ビエルサが就任。2017/18シーズンの台風の目になるだろうか?(文:小川由紀子)

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 昨季のリーグアンの、ASモナコ優勝はセンセーショナルだった。

 ロシアの富豪が経営に参画して強化を進めていたとはいえ、ファルカオ、ハメス・ロドリゲス、ジョアン・モウチーニョらスター選手を引き抜いてタイトル獲得を狙った戦略をすっぱりと捨て(そこにはファイナンシャルフェアプレー違反を回避といった事情も絡んでいたが)、若手育成型にシフトした、スタート時はほぼ無名の選手揃いのチームで、彼らはフランスの頂点に立った。

 その結果、キリアン・ムバッペというメガスターが誕生し、この夏のメルカートでは、ティエムエ・バカヨコはチェルシー、ベルナルド・シルバとバンジャマン・メンディはマンチェスター・シティと、優勝メンバーは破格の移籍金とともにビッグクラブへと羽ばたいている。シティがメンディのために支払った約5000万ポンドの移籍金は、ディフェンダーのサッカー史上最高額だ。

 トマ・ルマールのアーセナル移籍も秒読みと言われ、リーグドゥ(2部)降格からのカムバックを支えたストライカーのバレリー・ジェルマンもすでにマルセイユへと鞍替えした。

 ムバッペも、史上最高額の移籍金を用意したレアル・マドリーとほぼ合意に達したという情報が流れるなど、モナコを去る可能性は高い。

 とんでもなくエキサイティングだった昨季の優勝メンバーがごっそりいなくなるのは残念でならないが、クラブの台所は素晴らしく潤った。ロシア勢にとってのモナコ再建計画の第一ステージは、見事に成功を収めたといえるだろう。

 この成功の影には、クラブの新体制構築に尽力したと言われるある人物がいる。ポルトガル人の辣腕テクニカルディレクター、ルイス・カンポスだ。

 同胞のジョゼ・モウリーニョやレオナルド・ジャルディム同様、選手としての功績はないが、早くから指導者道を極め、35歳から25年間、ポルトガルのクラブで監督のキャリアを積んだ。2013年、モナコ再建にあたってバシリエフ副会長の片腕として引き抜かれる前は、モウリーニョ率いるレアル・マドリーでスカウティングを担当し、互いに影響を与え合ったと言われている。

いくつかのクラブが招聘を試みたスポーツディレクター

 エージェント界の大ボスの一人、やはりポルトガル人のジョルジュ・メンデスと親しいのはもちろんのこと、移籍市場に精通し、とくに若手の発掘に長けるといわれるカンポスは、今年5月にレキップ紙に掲載された記事によれば、シルバ、メンディ、グリク、ジェマーソン、シディベ、ファビーニョ、バカヨコ、ルマール、ボシリアといった、モナコの昨季のオールスターメンバーを含む12人のリクルートを主導、ムバッペのプロ契約についても中心となって推し進めた人物であったと、父親のウィルフレッド・ムバッペが同紙に語っている。

 しかしカンポスは、自らが構築に携わったチームが優勝カップを掲げたときにはモナコにはいなかった。昨年の6月に去っていたのだ。

「少し休みたい。それに新しい挑戦をしたくなった」というのが本人の言だが、2016年1月から、バスティアの監督を首になって以来浪人していたクロード・マケレレがスポーツ・ダイレクターとして参画したり、フロント陣にもソリが合わない人物がいたというから、クラブ内部の混沌に嫌気がさしたのかもしれない。

 彼が成功させたと言われるリクルートについても、そのうちのいくつかはクラブ側が否定していることからも、蜜月は終焉を迎えていたのだろう。

 ちなみに、14-15シーズン、わずか13節率いただけでバスティアの監督を首になったマケレレをモナコに推薦したのは、古巣チェルシーのアブラモビッチ会長だと言われている。ロシアつながりでかつてのスター選手を救おうとしたようだが、モナコでも居場所をみつけられずにマケレレは5ヶ月足らずでクラブを去った。

 フリーになったカンポスには、マルセイユなどいくつかのクラブが招聘を試みたが、最終的に彼を手に入れたのは、新オーナーを迎えたリールだった。新オーナーであるジェラール・ロペス自身が右腕にと熱望したのだ。

“エル・ロコ”ことマルセロ・ビエルサを口説き落とす

 ロペスはスペイン系ルクセンブルク人の実業家で、子どもの頃からのスポーツ好きが高じて財をなしてからはF1チームのオーナーになるなど、着々とスポーツ界で実績を積み上げてきた。リーグアン参画についても数年前からリサーチを進め、2016年、14年間オーナーを務めたセイドゥー氏がリールを売りに出すと、獲得に名乗りをあげた。

 ロペス会長がまず着手したのは、2017-18シーズンからチームを率いる指揮官の選考だった。そして前々から興味があったというマルセロ・ビエルサを口説き落として、今年2月には早々に契約をかわしたことを発表した。

 ビエルサは14-15シーズンにマルセイユを率い、攻撃的サッカーを展開して人気を博した。結果も4位と前年よりも順位を上げたが、翌シーズンの開幕戦後に突如辞任してしまったお騒がせ監督だ。しかし一部では『エル・ロコ』の人気は絶大で、今回のリーグアン復帰も注目を集めている。

 2月に契約を結んで以来、ビエルサとテクニカルディレクターのカンポスはほぼ毎日連絡をとりあい、新シーズンのための準備を進めてきたという。

 ロペス会長が5月に行われた会見で語ったところによると、ビエルサはマルセイユのときのように、自分が欲しい選手のリストをクラブ側に突きつけるのではなく、彼が欲しい選手の条件を優先順位をつけて渡し、その条件に適合する選手をカンポスがピックアップして返す、という協力体制をとっているという。

「我々は若い選手に投資したいと考えている。それが我々が理想とするクラブ像によりふさわしいからでもあるが、マルセロからの要望でもある。彼は、自分のスタイルに合わせて育成できる人材を求めている。そのことに納得し、我々のプロジェクトに賛同する選手がいたら、獲得を検討する」とロペス会長は補強方針についても話した。

昨季は下位に沈んだが、一転上位争いに加われるか

 その言葉どおり、この夏のメルカートでは、リールは若手選手を中心にリクルートを進めている。

 ブラジルのサンパウロFCから獲得したブラジル人ストライカー、ルイス・アラウージョは21歳になったばかり。同じく同クラブから守備的DFティアゴ・メンデスも呼び寄せた。2人は今季のリールの中核メンバーになると期待されている。また昨季アンジェに所属していたコートジボワール人のFWニコラ・ぺぺも22歳だ。

 ビエルサの実戦初采配となった7月中旬のプレシーズンマッチ、対スタッド・ランス戦に先発した選手の平均年齢は23歳だった。

 2-0でリールが勝利をおさめたこの試合では、アラウージョが先制点を挙げ、後半、やはりこの夏獲得した20歳のアルゼンチン人FWエセキエル・ポンセが追加点と、新加入メンバーが揃ってデビュー弾を決めて新監督ビエルサにとっても幸先のいいスタートとなった。

 資金力のある外国人投資家のオーナー、絶大なコネクションを誇る辣腕テクニカルディレクター、実力派監督、という『成功フォーミュラ3要素』が揃った今季のリール。11位と14シーズンぶりに順位表下半分に終わった昨季から一転、上位争いに加わる新勢力となれるか。

(文:小川由紀子)