「昔、ライオンズクラブでご一緒したことがありますよ」

 1億2000万円の赤字を出す事態に陥り、4月から株式会社ジャパネットホールディングスのグループ会社として再出発しているJ2のV・ファーレン長崎。経営再建の歩みはどのように進んでいるのだろうか。8月7日発売の『フットボール批評issue17』では、新社長である髙田明社長へのインタビューを敢行。この取材後、長崎新経営陣最大の強みを感じさせられる出来事があった。(取材・文:海江田哲朗)

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 地方取材のときは、その土地の喫茶店に行くのをささやかな楽しみとしている。

 コーヒーチェーンが幅を利かせ、コンビニで挽きたてコーヒーが100円で買える時代だ。前時代的な個人経営の喫茶店は減少の一途をたどっている。

 この場合、カップルがウフフと見つめ合い、きれいに盛りつけられたランチプレートを出すような、こじゃれたカフェには用がない。まして、テーブルの隅に「女子会にいかがですか?」とポップが飾ってある店は論外だ。僕が求めるのは、たとえば学生時代、なんにも予定がなくて時間を持て余す夏の午後、友だちと会って「お茶でもすっか」と出向いた喫茶店だ。

 ぶらっと街を歩き、気が向いた店に入る。ほぼ運まかせの都合、当たり、ハズレはある。それがおもしろい。もっとも評価の基準はあいまいだ。コーヒーの味は重要なポイントと考えられるが、僕は味の違いがよくわからない。口に含み、おいしいと思えればそれでいい。小一時間ほど、煙草を吸ったり、本を読んだりしながら、ぼんやり過ごす。

 佐世保市の中心地にある『山本コーヒー』も、そんなふうに立ち寄った喫茶店だった。メニューには名物の佐世保バーガーやレモンステーキがあったが、あいにく食事は済ませていた。カウンターに座り、ホットコーヒーを注文する。最初、床に散らばる落花生の殻に面食らった。アメリカンスタイルだ。佐世保には米軍基地がある。通りを行き交う人々は国際色豊かだ。

 コーヒーに添えられた落花生を剥き、ピーナッツを口に放り込んで殻を床に落とす。僕の不慣れな仕草を見てか、「フフッ、気持ちいいでしょ?」と店主が小さく笑った。いい店だなと思った。コーヒーも美味い。

「どちらから? お仕事ですか?」と尋ねられ、来訪の目的をかいつまんで説明した。自分は雑誌の記者だということ。ジャパネットたかたの創業者である髙田明氏がV・ファーレン長崎の社長に就任し、話を訊きに東京から来たのだと。最後に、自分はもともと九州の人間だから里帰りの気分と付け加える。これを言わずにはいられないのはなぜだろう。

 店主がグラスを拭きながら言う。

「髙田さんとは、昔、ライオンズクラブでご一緒したことがありますよ。ユニークな方でね。この頃はごぶさたしていますが」

 ライオンズクラブは全国各地にあり、社会奉仕活動を目的とする友好団体だ。主に経営者で組織され、希望すれば誰でも入会できるわけではない。簡単に言えば、その地域の名士が集う。

 そこで、僕は先ほど終えたばかりの髙田社長のインタビューを思い返していた。

仮にJ1を制しても「使命を果たしたとは言えない」

「子どもたちが喜ぶこと、県民の夢をつぶしてはいけない。われわれにできることであれば、やらなければいけないと」

「人生って、時期によっていろいろな生き方があるじゃないですか。70の人生。80の人生がある。県民の夢をつなぐミッションに意義を見出したから、手伝ってみようかと思い立ったわけです」

「J1昇格が第1段階。次にJ1定着。人は、目標を掲げることによりモチベーションを上げていきますので、より上を目指していくのは当たり前です。しかし、仮にJ1を制するクラブになったとして、それだけでは使命を果たしたとは言えません。

 強豪クラブになるのは手段であって、目標ではないんですよ。真の目標は、長崎を元気に、子どもが夢を持って生きられるように、社会に貢献すること。その思いがあるからこそ、苦しいときもがんばれる」

 髙田社長の話には体裁の整ったよそいきの言葉が多分に含まれていると僕は感じたが、それは虚飾とは違い、偽りのない気持ちだったのではないかと思える。

 ジャパネットたかたは平戸市の小さなカメラ屋を起源とし、およそ30年前、髙田氏が独立して佐世保市に店を構えたことから始まる。ラジオ、テレビ、インターネットとメディアの多展開を進め、やがて国内有数の通信販売企業へと成長した。

 往時、地元の若い経営者が集まり、これからの佐世保をどうするか、長崎をどうするか、喧々諤々、語り明かした夜があったのだろう。そこにはイノベーション、ウィンウィンといった薄っぺらい経済用語はなく、生身のぶつかり合いだったはずだ。

 ひっそりと静まりかえった『山本コーヒー』はそこだけ時間が止まったようで、初めての場所なのにふと懐かしさを覚えた。きっと、若かりし日の髙田氏も、佐世保の街のどこかで仕事の合間にコーヒーを飲み、ひと息ついていたのだろうと想像する。

 そろそろ空港に向かう時間だ。僕は「また佐世保に来たら寄らせてもらいます。コーヒーと煙草がセットという人間にはありがたいお店です」と言い、「最近はどうも世知辛くていけないね。昔ながらの店はだんだん減ってきているけど、うちは息子が跡を継ぐことになっています」と話す店主はちょっぴり誇らしげであった。

 地元の危機に際して立ち上がり、新たな事業に乗り出す経営者がいれば、その土地にしっかり根を生やし火を灯しつづける経営者もいる。それは優劣ではなく、生き方の違いだ。

 長崎県を代表する企業のひとつである、ジャパネットたかたのバックには、直接的、間接的に数多くの企業がついている。経営が次世代へと受け継がれようとしていくなか、若き髙田明を知る人たちがいる。それがV・ファーレン長崎新経営陣の最大の強みと言えまいか。

(取材・文:海江田哲朗)