指揮官も絶賛した2アシスト

 負傷者が続出している川崎フロンターレだが、主力不在の間も連勝を重ねている。大卒2年目の脇坂泰斗は、ようやくめぐってきたチャンスで自らの実力を証明して見せた。これまで出番に恵まれなかった23歳は下部組織出身としてのプライドも胸に等々力陸上競技場のピッチに立っている。(取材・文:舩木渉)

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 川崎フロンターレは相次ぐ負傷者に悩まされている。谷口彰悟、守田英正、馬渡和彰は復帰したものの、阿部浩之、車屋紳太郎、中村憲剛はまだ離脱中で、さらに奈良竜樹も左ひざの内側側副じん帯損傷と内側半月板損傷で手術を受け全治4ヶ月と診断された。

 2連覇を果たした昨季の主力の約半数が不在。チームとしても決して万全の状態ではない。そんな中でも、現在リーグ戦は4連勝中だ。序盤戦はなかなか勝ち星を掴めていなかったが、ここにきて負傷者が続出する状況下でも連勝できている要因には、これまで“脇役”だった選手たちの台頭と健闘が挙げられるだろう。

 キャプテンの小林悠も「こういうけが人がいる中でもいろいろな選手が出て活躍できて、チームとしてすごく底上げができていると思います」と、激しさを増す競争と着実な成長に手応えを感じている。

 中村や守田、大島僚太が離脱している間には下部組織から昇格して3年目の田中碧が中盤で大きな存在感を発揮し、最終ラインでも加入から2年間でリーグ戦出場ゼロだった舞行龍ジェームズが谷口不在の穴を埋めた。3日に行われたJ1第10節のベガルタ仙台戦では、新加入のブラジル人センターバック、ジェジエウが力強いプレーでスタンドから喝采を浴びた。日本代表経験のある齋藤学のドリブルも、往時のキレを取り戻しつつある。

 そして大卒プロ2年目の脇坂泰斗も、ピッチ上で成長した姿を披露した1人だ。昨季はリーグ戦で出番を得られなかった下部組織育ちのMFは、J1第8節の湘南ベルマーレ戦で終盤に途中出場してJ1デビュー。続く神戸戦は先発濃厚とされながら直前の負傷で欠場したものの、第10節の仙台戦でJ1初先発を飾った。

「(先発だと)知ったのは前日だったので、少し驚きはあったんですけど、そのための準備はしていたので、やるだけかなという気持ちでいました」

 そう語る23歳は、ようやく訪れたチャンスで鮮烈なプレーを披露し、2アシストという目に見える結果も残した。フロンターレの鬼木達監督も「あれぐらいはやってくれるだろうなという予想はしていました」と初先発での活躍を称えた。

「組み合わせのところを含めて、彼がイキイキする形になるだろうなと。あとはチームの中で潤滑油としての役割を期待していました。それプラス得点に絡むというところですね。本人が取れれば一番良かったと思いますけど、本当にいい活躍だったと思います」

「昨年の1年間がなければ今はない」

 指揮官がプレーぶりを絶賛する一方、脇坂は冷静だった。「(試合に)出るためにやっているのではなくて、出て結果を残すためにやっているので、最低限の結果かなと思います」と気を引き締める。ビッグチャンスで力みすぎてゴールを逃したこともしきりに悔やんでいた。

 ただ、それはたった1試合の活躍で定位置を獲得したわけではないと理解しているからこそ。負傷者が復帰してくれば、再びベンチ入りも難しい日々に戻ってしまうかもしれない。その危機感は、公式戦出場のチャンスをほとんど得られなかった1年目の昨季の経験からくるものだろうか。

「昨年の後半あたりからずっと自分の中では感触がいいなというか、出たらやれるなという感覚があったりしていたので、そういったところで気持ちを切らさずにやれました。1年目で慣れていないという気持ちで済ませたくなくて、もっとうまくなりたいという一心でやっていたので、そういったところは本当に昨年の1年間がなければ今はないと思うので、まだまだですけど、ずっとトレーニングしてきて本当によかったなと思います」

 昨季の公式戦出場は、天皇杯での1試合のみ。その頃と比べれば「自分の自信や余裕もそうですし、全部が違うと思います」と脇坂は言う。ベンチ入りすら厳しい状況でも、中村や家長昭博といった経験豊富かつ実力も飛び抜けた選手たちと研鑽を積む日々は、何にも代え難かった。だからこそ今になって「他のチームで過ごす1年間よりも内容の濃い1年間だった」と実感している。

 じっと我慢して努力を続けていた男のプレーは、とてもリーグ戦初先発とは思えないものだった。周りとのコンビネーションも流れるようにスムーズで、積極的にボールを引き出して多くのチャンスに絡む。卓越したパスセンスとプレービジョンは、小林の1点目をアシストした場面にも現れていた。

魅力が凝縮されたアシストパス

 序盤の13分、仙台の中盤にできたエアポケットで田中からの鋭いワンタッチパスを引き出した脇坂は、素早く反転して、相手右サイドバックと右センターバックの間でボールを呼び込む小林に預ける。ペナルティエリア内でパスを受けたエースは、半身の状態からゴールに近い左足でボールをコントロールし、そのまま左足を振り抜いてゴール右隅を射抜いた。脇坂のパスから小林のシュートがゴールネットを揺らすまで、わずか5秒の間にいくつもの一瞬の判断が積み重ねられていたのである。

「最初(小林が)ぼやっといるのはわかっていて、自分がフリーというのもわかっていたので、トラップして打とうかなと思ったんですけど、意外とセンターバックの距離感が微妙というか、近くもなく遠くもなく、遠かったら打とうかなと思っていたんですけど、悠さんとも離れていたので、悠さんは左側に(サイドバックを)背負っていたんですけど、それならいけるなと思って(パスを)出しました。

(1点目の直前に)描いていた画は1つじゃないです。自分が(シュートを)打って決める画もそうですし、悠さんに当ててもう1回自分が受けるのも、悠さんが普通に打つでも、一瞬でそういったことを判断できるようになれているので、ああいう得点につながったと思います」

 脇坂は「最初にターンした時に(自分でシュートを)打てるかなと思ったんですけど、悠さんの方が確率高いなと思ってパスに変えました」という一瞬を、正確に描写して見せた。ターンして前を向いて、少し運んでミドルシュートという選択肢もあったが、よりゴールに近づけると判断して出したラストパスにも「悠さんが本当にスムーズにターンして打てるように心がけて出したので、狙い通り」とメッセージを込めていた。

 フロンターレの令和初ゴールを決めた小林も、「足元にすごくいいパスが来たので、止めてすぐ打てました」と脇坂から送られた最高のパスに感謝する。まるでいつも一緒に試合に出ているかのような阿吽の呼吸で生まれたゴールだった。

「憲剛さんは完全なパサーというタイプですけど、それとは違ってヤストは動きながら入ってこれる。動きながらのプレーというのがあるので、スピード感があると思いますし、もちろん憲剛さんのスルーパスとかはないですけど、動きながらコンビネーションで崩せるのがあいつの良さです」

 トップ下気味に構えて流動的に動きながら厳しいプレッシャーを受けても平然とパスをさばいていく脇坂の姿に「中村憲剛」を重ねたが、背番号11のエースは長年コンビを組んできた先輩と、下部組織育ちの23歳との明らかな違いを実感していた。そして「いろいろなワクワクするイメージのできる選手だなと思いますね、ヤストは」と、さらなる飛躍に期待を寄せる。

「少しずつ上達して、チームを引っ張っていける選手に」

 脇坂は神奈川県横浜市生まれで、高校から川崎フロンターレU-18に所属していた。高卒でのトップチーム昇格は果たせなかったものの、進学した阪南大学で着実に成長し、昨季から4年越しでフロンターレに戻ってきた。大学時代は流通経済大学出身の守田とも全日本選抜で共闘した仲だ。

「アカデミーの時からたまに等々力でプレーさせてもらう機会があって、そういうアカデミーの試合にもサポーターの方がたくさん来てくださったり。でもいつか満員の中でやりたいなとずっと思っていたので、そういった試合にスタメンで出られて、なおかつ勝てて、とりあえずよかったかなと思います」

 2万5789人以上が詰めかけた満員の等々力陸上競技場でリーグ戦初先発、そして勝利に安堵の表情を浮かべる。だが、そこに満足している様子は一切ない。「1つひとつやっていくことが大事だし、いきなり飛び抜けてうまくなるとか、そういったことはない。1日1日が大事だと思いますし、まだまだ試合も続くので、その試合に向けて1つひとつやっていきたいなと思います」と勝って兜の緒を締めた。

 同期の守田は昨年加入してすぐにレギュラーポジションを射止め、日本代表デビューも果たした。同じ下部組織出身でも、自分より若い田中が昨年からすでに多くのチャンスをもらっている。仙台戦をDAZNで解説していた柱谷幸一氏も、20歳の若武者の獅子奮迅の活躍に「代表に絡んでくるのではないか」と目を細めていた。そんな状況で燃えないはずがない。

「生え抜きだし、アカデミー出身だし、チームを引っ張っていかなきゃいけない存在だなと感じます。でもまだまだやることはたくさんあるし、1つひとつ、少しずつ上達して、チームを引っ張っていけるような選手になりたいと思います」

 フロンターレの下部組織からは近年、優秀な若手が多く輩出されている。板倉滉は仙台への期限付き移籍を経てマンチェスター・シティと契約、その後オランダ1部のフローニンゲンへ移った。三好康児もレンタル先の北海道コンサドーレ札幌や横浜F・マリノスで、Jリーグを代表するアタッカーになりつつある。田中も含め、彼らは脇坂にとっては年下になる。

 だからこそ追いつけ追い越せの精神で、成長速度をもっともっと上げていかなければならない。フロンターレの未来を担う生え抜きとしての使命を果たすには、まず2連覇中の王者でコンスタントに出場を重ねるための足場を築く必要がある。そのきっかけは、彼の見据える先にはっきりと見えているはずだ。

(取材・文:舩木渉)