紆余曲折だった今季のアーセナル

プレミアリーグ最終節、アーセナル対ワトフォードが現地時間26日に行われ、3-2でアーセナルが勝利した。中位に低迷したアーセナルは勝利でプレミアリーグを締めくくったが、FAカップ決勝に向けて不安を残す内容となった。(文:加藤健一)
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 前例のない中断期間と再開後の過密日程を強いられた今シーズン、アーセナルは勝ち点56の8位という成績に終わった。

 アーセナルがプレミアリーグでトップ6を逃したのは、1994/95シーズン以来、25年ぶりのことだった。このシーズンは序盤から中位をさまよい、2月には86年から指揮を執るジョージ・グラハムが解任。しかし、チームはその後も4連敗と立ち直れず、勝ち点51の12位に終わっている。

 今シーズンは開幕から勝ちきれない試合が続いた。10月27日のクリスタルパレス戦では途中交代したグラニト・ジャカがファンからブーイングを受けると、挑発的な態度で応戦してしまった。この行為に批判が集まり、ジャカは主将の座を奪われている。

 アーセナルはそこから公式戦7戦未勝利と苦しみ、11月29日にウナイ・エメリ監督が解任。エメリのアシスタントを務めていたフレドリック・ユングベリが暫定で指揮を執ったが状況は変わらず、ペップ・グアルディオラの下でマンチェスター・シティのアシスタントコーチを務めていたミケル・アルテタが12月にアーセナルの監督に就任している。

 アルテタ就任後もリーグ戦4戦連続ドローがあり、UEFAヨーロッパリーグではオリンピアコスに延長戦の末に敗れてラウンド32で姿を消している。決して順調とは言えない船出ではあったが、公式戦再開後は4連勝があり、FAカップではシティに勝利して決勝に進出。ポジティブな面を見せながらシーズンを終えようとしていた。

アーセナルは3点を先行したが…

 結果的にこの試合に勝利したアーセナルだが、手放しで喜べる内容ではなかった。3点を先行しながら、残留を争う相手に2点を喫して肉薄された。5日後に控えたチェルシーとのFAカップ決勝に向けては不安を残している。

 アーセナルはラッキーな形で先制に成功した。キックオフから1分も経たない間に、ピエール=エメリク・オーバメヤンがクロスを上げると、アレクサンドル・ラカゼットがクレイグ・ドーソンに倒された。長いVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)のチェックを経てアーセナルにPKが与えられ、オーバメヤンはシーズン21得点目となるゴールを決めている。

 24分にはオーバメヤンの落としを受けたキーラン・ティアニーがゴールネットを揺らして追加点。33分にはティアニーのスローインを受けたオーバメヤンが、オーバーヘッド気味のシュートでゴールを決めて、点差を3点に広げた。

 しかし、アーセナルはワトフォードに押し込まれる時間が続き、前半はボール保持率で下回り、シュート本数でもアーセナルの6本に対して、ワトフォードに9本のシュートを許している。42分には古巣対戦となったダニー・ウェルベックをペナルティーエリア内でダビド・ルイスが蹴ってしまい、PKを献上。ワトフォードはトロイ・ディーニーがこれを決め、点差を2点に縮めて前半を折り返している。

試合中のシステム変更

 戦前の予想では4バックという見方もあったが、アーセナルは3-4-2-1を継続し、ジャカを3バックの左で起用している。しかし、この日は中盤のダニ・セバジョスとジョー・ウィロックが縦関係になっていたため、セバジョスが1人で広大なスペースをカバーしなくてはならず、カウンターを浴びる場面が続いた。

 19分あたりの場面で観客のいないエミレーツ・スタジアムにアルテタ監督の高い声が響いた。以降、ジャカはワトフォードのボランチ、ウィル・ヒューズとの間合いを詰め、セバジョスと中盤で並ぶ4-2-3-1の陣形へと変化している。

 ワトフォードにボールを持たれる時間は長かったが、不用意なカウンターを受ける場面は減った。そして、中盤でフリーになったジャカが自陣からボールを運んで、2点目につなげている。前半の布陣変更は功を奏した。

 4-4-2のワトフォードは相手の4バックに対して数的同数でプレスをかけた。42分にPKを与えたシーンはビルドアップを試みたアーセナルがボールを奪われた直後に起きている。

 アーセナルは57分にウィロックを下げてセアド・コラシナツを3バックの左に入れ、ラカゼットに代えてエディー・ヌケティアを起用。いつもの3-4-2-1の形に戻している。右はメイトランド=ナイルズが自由になり、決定機を迎えるシーンもあった。しかし、アーセナルはこのまま試合を終わらせることができず、1点差に詰め寄られている。

 アルテタは試合後に「バスケットボールの試合のようだった」と表現している。ワトフォードに前を向いてプレーするためのスペースを与えてしまい、DFラインはずるずると下がり、ボックス内で守る場面があまりにも多かった。システムを変えても根本的な解決にはならない様は、まるでエメリ時代の試合を見ているようだった。

目指すべきはリバプール

 ここ2試合のアーセナルのパフォーマンスは決して良くないが、FAカップ決勝はまったく別のゲームになるだろう。プレミアリーグでは8位以下が確定していた。消化試合へ臨むメンタル面の難しさは、早々に優勝を決めたリバプールと同じだった。

 思い返せば、隆盛を極めるリバプールもユルゲン・クロップがシーズン途中に就任したシーズンは8位に終わり、翌シーズンは欧州の舞台でプレーできなかった。

 目指すべきスタイルは異なるが、今のアーセナルの不安定さは、クロップ・リバプールの初期に似ている。強豪相手に勝利したかと思えば、下位を相手に苦戦する。ただ、その不安定さはカップ戦では強さに変わる。

 そのリバプールは3年目でUEFAチャンピオンズリーグ(CL)準優勝、そして翌シーズンに優勝した。タイトルの味を知るとともに安定した強さを備えていき、5年目の今季は悲願のプレミア制覇を成し遂げている。

 アーセナルにはシティのように大型補強をする資金力もなければ、アルテタはジョゼ・モウリーニョのように2年目に結果を残す監督でもない。どちらかというと、クロップやマウリシオ・ポチェッティーノのように、長期的にチームを作っていくタイプだろう。

 ファンとクラブには我慢が求められるが、すでに可能性の片鱗は見せている。今季味わった酸いも甘いも、復活へのプロローグになるのかもしれない。

(文:加藤健一)

【了】