苦戦続きだった序盤戦

 新型コロナウイルスという未曾有の脅威によって2度目の夏を迎えることになった、欧州の長い2019/20シーズンがようやく閉幕した。トラブルに見舞われ、新たな様式への適応も求められながら、タイトル獲得や昨季からの巻き返しなど様々な目標を掲げていた各クラブの戦いぶりはどのようなものだったのだろうか。今回はレアル・マドリードの1年を振り返る。(文:編集部)

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 レアル・マドリードの2019/20シーズンにおける最重要人物は、間違いなくジネディーヌ・ジダン監督だった。

 UEFAチャンピオンズリーグ(CL)はラウンド16でマンチェスター・シティに屈して敗退。コパ・デル・レイも準々決勝でレアル・ソシエダに敗れたが、ラ・リーガにおいては悲願のタイトルを獲得した。マドリーにとって3年ぶりのリーグ優勝だ。

 特に新型コロナウイルス感染拡大にともなう中断期間が明けてからの戦いぶりは圧巻だった。再開初戦のエイバル戦から11戦無敗、最終節のレガネス戦で引き分けただけで、それまでは10連勝という驚異的な快進撃で頂点に立った。

 ただ、全てが順調だったわけではない。特に序盤戦は苦戦が続き、一時はジダン監督の立場も危うくなるほど。ラ・リーガ開幕戦でセルタに勝利した直後、第2節と第3節に連続して引き分け、レバンテ戦の勝利を挟んで、CLのグループリーグ初戦でパリ・サンジェルマン(PSG)に完敗を喫した。

 9月末からはリーグ戦でアトレティコ・マドリーに引き分け、直後のCLではベルギーのクラブ・ブルッヘと勝ち点を分け合った。そしてラ・リーガ第9節のマジョルカ戦に0-1で敗れ、「いよいよジダンも終わりか…」という空気も流れていた。

 ところが、ここから急激な立て直しに成功して2月上旬まで公式戦21試合負けなしを記録する。途中、年末にバレンシア、バルセロナ、アスレティック・ビルバオと3試合連続ドローもあったが、マドリーらしい力強さで勝ち点を積み上げ、CLでも無事にグループリーグ突破を果たす。1月にスーペルコパも制し、再びチームの調子は上向いていった。

 ジダン監督にとって、実は新型コロナウイルス感染拡大による公式戦中断は幸いだったかもしれない。2月上旬にレアル・ソシエダに敗れ、1勝を挟んでセルタとドロー、オサスナに敗戦、さらにホームで行われたマンチェスター・シティとのCLラウンド16の1stレグを落とすというシーズン2度目の山場が訪れた。

 シティ戦の直後に組まれていたバルセロナとのエル・クラシコこそ勝利したものの、その次のベティス戦にも敗れて暗雲が立ち込めていたところで、リーグ戦もCLも中断に。約3ヶ月後に公式戦が再開されてからの流れは、冒頭に述べた通りである。

新型コロナの影響がプラスに?

 6月に入ってからのマドリーは、とにかく攻守に洗練されていた。再開直後からコンディションが抜群によく、他のどのチームよりも選手たちは軽快な動きで次々に挑んでくる対戦相手を圧倒していった。

 約3ヶ月間におよんだ“おうち時間”も、オンラインでのフィジカルトレーニングや、ジダン監督らスタッフと選手たちの緻密なコミュニケーションが途切れることなく行われていたのだろう。タイトル争いに向けた集中力を切らすことなく、心身ともに万全の状態で過酷な連戦に臨むことができていた。

 戦術面に目を移すと、2019/20シーズンのマドリーはとにかく守備が堅かった。リーグ優勝を成し遂げられた最大の要因は、38試合でわずか25失点という堅守にあると言える。セルヒオ・ラモスとティボ・クルトワを中心としたディフェンス陣が後ろをしっかり預かり、まずは負けない戦いをする。そのうえで、大勝ちを狙うのではなく、1点あるいは2点だけでも奪ってしっかり勝ち切るという方針がチーム内にしっかりと浸透していた。

 長く困難な1年を戦い抜く上で、若手の成長も戦い方の幅を広げるのに一役買った。ジダン監督はシーズンが進むにつれて連続で同じスタメンを送り出すことが少なくなっていった。それを可能にしたのは、フェデリコ・バルベルデやフェルラン・メンディ、ロドリゴ、ヴィニシウス・ジュニオールといった若い選手たちの飛躍的な成長だった。

 彼らが主力級と遜色ないレベルに到達したことで、指揮官もためらうことなく起用できるようになった。特にバルベルデとメンディの成長は目覚ましく、若手に呼応するようにこれまでチームの中心を担ってきたベテランたちもパフォーマンスのレベルを上げていった。

 選択肢が拡大したことで、ジダン監督は11人の組み合わせとそれぞれの個性に合わせて、試合ごとに戦術的な動きを細かくカスタマイズするようにもなった。ソリッドな守備はそのままに、セントラルMF気質の選手を5人並べてみたり、推進力に長けるバルベルデを右ウィングで起用したり。交代枠の増加を活用し、ヴィニシウスとロドリゴを後半途中から送り出して前線に豪快な突破力を加えるようなバリエーションもできた。

叫ぶほど嬉しかったリーグ優勝

 34歳になったモドリッチは一時期パフォーマンスを落としていたが、見事に復活を遂げてチームの中心に返り咲いた。セルヒオ・ラモスは守っても攻めても存在感抜群。クルトワは往時の姿を取り戻してビッグセーブを連発してゴールマウスに立ちはだかる。

 若手の躍動と要所を締めるベテラン勢の掛け合わせで、ジダン監督は超ソリッドなチームを作り上げた。ラ・リーガでは選手個々のクオリティ、選手層、チームスピリット、戦術的な完成度などの面でマドリーが頭一つも二つも抜けていただろう。

 CLでは3連覇を達成するなど無類の強さを発揮していたジダン監督だが、リーグ優勝は2016/17シーズンの一度だけしか手にしていなかった。だからこそ、優勝が決まった試合後には「CLよりも嬉しい」と喜びをあらわにした。

 その直前の試合、ラ・リーガ第36節でグラナダに勝利してリーグ優勝に王手をかけた瞬間には、珍しくベンチで雄叫びをあげた。「フットボールとは苦しいものだからこそ幸せだった。本当に重要な勝利だったのだから、叫んでしまうのも当然だ」と、ジダン監督はリーグタイトルへの並々ならぬ思いも口にしていた。

 まもなく始まろうとしている新シーズンに向けて、課題がないわけではない。加入1年目で輝ききれなかったエデン・アザールの状態をいかに引き上げ、チームに組み込んでいくか。新型コロナウイルスの影響で財政的に大きなダメージを被った欧州サッカー界で、ハメス・ロドリゲスやガレス・ベイル、ルカ・ヨヴィッチといった余剰戦力になった選手たちを放出できるか。そして、若返りを図りながら選手層の厚みをどう確保していくか。

 2019/20シーズンのマドリーで、幾度の苦難にも屈せずチームを力強く引っ張ったジダンは、卓越したリーダーシップとマネジメント力で監督としても一流であることを改めて証明した。宿敵バルセロナが一時代の終わりを迎えて崩壊に向かう中、先に述べたような目の前の難題を1つひとつ解決していくことが、リーグ連覇とCL奪冠への必須事項になる。その先にはマドリーの黄金期も見えてくるかもしれない。

(文:編集部)