チーム状況

今夏は昨年までの移籍市場とは状況が違う。新型コロナウィルスの影響で、財政難に苦しむクラブが多く、売りたいチームが多い一方で、買い手側のクラブで資金が潤沢なのはごく一部。そのため多くの交渉が非常に難しい状況になっている。あるいは資金を準備できず、トレードでの移籍も増えそうな夏でもある。一方で補強の動きを止めれば、チームの新陳代謝が止まってしまう。各クラブ工夫を重ねて強化を成功させようとしている。そんな特別な夏におけるプレミアリーグBIG6の補強はどうなっていくのだろうか。今回はマンチェスター・シティを解説していく。(文:内藤秀明)
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 春先の時点でのシティは、幸先が不透明な状態だった。UEFA加入の各クラブが守ることを義務付けられている財務面のルールであるファイナンシャル・フェア・プレーを違反しているという疑惑がかけられた。結果、チャンピオンズリーグなどのUEFA主催大会からの締め出される可能性があったのだ。これが現実のものとなれば、数十億円もの減収だけでなく、野心のある選手がクラブから離れるリスクを抱えることになる。

 しかし、シティがスポーツ仲裁裁判所(CAS)に異議申し立てをした結果、7月にCASはUEFA側の主張を無効とする判断を発表。マンチェスターの強豪は来季も無事にチャンピオンズリーグに出場できることになったのだ。この一報には多くのシティファンが胸を撫で下ろしたことだろう。

 さてピッチ内の状況でいうと、2016年にシティの監督に就任して以降、ペップ・グアルディオラのチームは常に成長を続けて来た。1年目こそ守備が不安定で勝ちきれずリーグ戦は3位に終わったが、翌2017/18シーズン、2018/19シーズンに関しては、2年連続でリーグ優勝を勝ち取った。しかも内容的には毎年アップデートしての優勝だったことで、多くのサッカー関係者やファンを驚かせた。

 そして迎えた19/20シーズン、これまでの4-3-3とは違い、中心選手のケビン・デブライネをトップ下に配置する4-2-3-1を試すなどのチャレンジもあり、攻撃面は一定の収穫もあった。

 しかし最終ラインにけが人が重なったこともあり、重要な試合に勝ちきれない状況が続く。結果、リバプールがリーグ戦で独走を続けていたこともあり、勝ち点を18も離されての2位。順位だけを見れば1つ下がっただけだが、優勝チームが過去にない輝きを放った上に、大幅に勝ち点を離されたこともあり、シティが後退したように見えたシーズンになった。

監督の方針

 昨シーズン末に、ペップは選手時代の恩師でもあるフアン・マヌエル・リージョ氏をアシスタントマネージャーに迎えた。ミケル・アルテタが昨年度末にアーセナルの監督に就任したことで空枠だったポストには、若手コーチではなく自身よりも年上の指導者を加えることとなった。

 この人事の真意はわからないが、少なからずペップ自身も何かしらの変化を求めていたのは間違いないだろう。後述するが主力選手の退団が多いことも、その変化を後押しするはずだ。

 なお19/20シーズンはチャンピオンズリーグでの戦いが残っていた影響でシーズン終了が遅く、20/21シーズンに向けてはまだトレーニングもほとんどこなせていない。現段階では監督の新しい方針なども見えてきていなのが実態だ。

退団が予想される選手

 今季シティからは、主力選手が複数退団することが決まっている。

 まず一人目は長らくシティの中盤を支え続けたダビド・シルバが契約満了で退団し、レアル・ソシエダに加入することに。小柄なテクニシャンは、常に良いポジションをとり、少ないタッチでボールをシンプルにさばくことで、チームの潤滑油であり続けた。彼がいなくなったことで、シティの中盤からパスワークのリズムが損なわれる可能性は高い。

 加えて左ウイングでプレーし、縦へのドリブル突破で好機を幾度となく演出し続けたレロイ・ザネもドイツの強豪バイエルン・ミュンヘンに移籍することが決まっている。ザネは昨季、負傷の影響でシーズンをほぼ棒に振っている。そういう意味では昨季比較で大幅な損失はないかもしれない。しかし優勝を経験した2シーズンでは、ザネの圧倒的なスピードによる縦突破が攻撃面で欠かせない要素だったことは間違いない。

 レギュラー以外でいうと、カップ戦を中心に活躍した第二GKのクラウディオ・ブラボも契約満了で退団し、レアル・ベティスへの加入が決まっている。

 そして現段階では去就は不明だが、CBのエリック・ガルシアが退団を希望する意向を示しており、このままでは2021年の夏にフリーで移籍してしまうことになる。もし金銭面を優先する場合、今年の夏に退団する可能性もある。

補強が必要なポジション

 シティに補強が必要なのは、退団が決まっているシルバやザネの代わりをこなせるトップレベルのインサイドハーフや、ウイングだ。シルバ二世として期待されるアカデミー上がりの若手MFフィル・フォーデンの台頭は非常に心強いが、それでも若干枚数が足りない。

 仮に4-3-3のシステムを基本とする場合、両翼とインサイドハーフの4枠に対して、新加入選手を除けば、リヤド・マフレズ、ラヒーム・スターリング、ベルナルド・シウバ、フォーデン、デ・ブライネ、イルカイ・ギュンドアンの6名しかいない。理想を言えば全ポジションに一人控えが欲しいところである。

 もちろんSBでプレーすることが多いものの、本来は中盤のオレクサンドル・ジンチェンコは中盤で、トップでのプレーが基本のガブリエル・ジェズスはウイングでプレー可能だが、その場合元ポジションが手薄になってしまう。

 いずれにしても攻撃的な役割をこなすことができる選手を少なくとも1名、可能なら2名獲得したいところである。

 また最終ラインに関しても補強は必要だ。まずは昨季、怪我が多く不在が響いた左CBの控え。そして可能であれば、右CBにも即戦力級の選手が欲しいところである。本来ガルシアの成長に賭けたいところではあるが退団の可能性があり、ジョン・ストーンズは伸び悩み、ニコラス・オタメンディは衰えを隠せない状態だ。なにより35歳の大ベテラン、フェルナンジーニョに依存するのも、非常にリスキーである。

獲得が決まった選手、噂になっている選手

 シティはここまで二人の選手を手早く獲得している。一人は昨季までボーンマスに所属していたオランダ代表DFナタン・アケだ。

 SBとCBでプレー可能なレフティは、足元に自信があり、上背こそないが身体能力が高いため広いエリアのカバーが可能な選手である。攻撃的かつ前がかりに戦うシティにとって適任の人材だ。昨季は左CBとSBにけが人が重なったことを考えると、最高のバックアッパーを手にしたことになる。アケはボランチでもプレー可能な選手のため、内側に絞ってプレーする偽SBのプレーにも難なく適応できるだろう。

 なお、アケに関して右CBでの起用の可能性はあまりなさそうだ。ボーンマス時代は主力の怪我で出場することになった若手DFロイド・ケリーが左利きだったこともあり、アケが右CBでプレーする試合もあった。しかしペップは右CBに右利き、左CBには左利きの選手を置くことを好むタイプのため、緊急事態以外は右CBにアケを配置することは考えにくい。

 そのためなのか、右CBの主力級として、依然としてカリドゥ・クリバリ獲得の噂が取り沙汰されている。移籍情報に詳しいファブリツィオ・ロマーノ記者によると、シティとナポリは現在交渉中で、ナポリは7500万ユーロ(約95億円)程度のオファーを期待しているという。

 しかしシティとナポリの関係性は非常に悪く、クリバリのエージェント経由で交渉が行われているため、非常にゆっくりしか進んでいないようだ。というのも、2018年、当時ナポリに所属していたジョルジーニョのシティ移籍が決まりかけていたものの、結果的にナポリはジョルジーニョをチェルシーに売却したことで、裏切られたシティとの関係性が悪化したそうだ。

 移籍市場の期限の10月頭まで間に合うかどうかは現時点では不明だが、なんとか交渉をとりまとめたいところである。

 さてシティの確定しているもう一人の新加入選手の話に戻そう。シティはこの夏、バレンシアに所属していた20歳の若手MFフェラン・トーレスの獲得を決めている。右WGでの出場がメインだが、両翼でプレー可能なスペインU-21代表MFは、視野が非常に広く、シンプルにプレーすることを得意としている。スピードがあるタイプではないが、空いているスペースを見つけるのがうまく、ダブルタッチで相手DFをかわすプレーなどもできる。

 いずにしても純粋なスピード型ウインガーではないため、これまではウイングでのプレーが主だったかもしれないが、ベルナルド・シウバのようにペップの元ではインサイドハーフでの起用もあるかもしれない。

 可能ならもう一枚攻撃的な選手を獲得したいところではあるが、現段階では現実味のある噂は上がってきていない。攻撃的なタレントでいうと、ビッグネームのリオネル・メッシ獲得の噂が、今年の夏は現実味を帯びていた。

 アルゼンチン代表の絶対的エースは、バルセロナのジョゼップ・マリア・バルトメウ会長の方針に不信感を抱いており、退団意思を固めていた。しかし契約の問題で、退団が難しいことがわかったメッシは、今年はしぶしぶ残留を決めたという。もしメッシがシティに加入していれば、直近は怪我がちで稼働率が落ちているセルヒオ・グエロの位置に収まったはずだが、今年の夏もペップとメッシの再開は結局実現しなさそうだ。

最後に

 現段階でも既に強いシティだが、ここにクリバリの加入も決まれば攻守ともにかなり層が厚い状態になる。昨季は悔しい2位におわったが、今季は王座に返り咲くことができるか。補強の進捗と、ペップの新しいチャレンジに、今年も注目したいところである。

(文:内藤秀明)

【了】