まさかのカード支払い拒否も?

「プレミアリーグ謀略者たちの兵法」と題してプレミアリーグの監督たちを特集した12/7発売『フットボール批評issue30』から、今シーズン20クラブ中の半数が英国人という事で「英国人至上主義」リバイバルとも言える同現象に英国人記者が迫った章を一部抜粋して前後編で公開する。今回は後編。(文:ドミニク・ファイフィールド、訳:山中忍)

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 時流が理由の一部であることは間違いない。そもそも、もともとは「英国人監督至上主義」とも言えたサッカーの母国では、アーセナルでのアルセーヌ・ヴェンゲル就任(1996年)、チェルシーとリバプールによるジョゼ・モウリーニョとラファエル・ベニテスの招聘(ともに2004年)などがもたらしたインパクトにより、外国人監督を好むトレンドが生まれた。

 英国人がオーナーを務めるクラブでさえ、ファンに時代遅れと思われることを嫌って国産監督から目を背けるようになった。某クラブの役員は、匿名を条件に次のように教えてくれた。

「監督が外国人でなければ始まらないような風潮がありましたからね。それを意識し過ぎたのかもしれません。今になって思えば、当時でも、英国人監督のほうがファンの共感を得やすかったのではないかとも思えます。この国のクラブとしての原点に立ち返るべき時が来たというか、逆に国産の監督へと時代の流れが傾いている気がします。指導者としての能力に加えて、クラブとの絆を持つ人物であればなおさら、チームを任せようという気になるものです」

 そのような英国人監督の最たる例として、シェフィールド・ユナイテッドのクリス・ワイルダーがいる。新世代とは言い難い53歳は、20年目に突入した監督キャリアを「下部リーグを転々」と表現されても仕方がない。前任地のノーサンプトン(現3部)では、シーズン中の給与未払いが3カ月間に及んだクラブでの在職中に、自らもスーパーでの買い物でカード支払い拒否を経験したこともある。

 だが、現雇用主にとってのワイルダーは、低予算でのチーム作りに長けているばかりか、クラブとの絆もすこぶる深い監督だ。選手生活の序盤と終盤にも在籍した元DFは、イングランド中部の鉄鋼の町で育った地元サポーターの1人として、2本の刀が描かれたシェフィールド・ユナイテッドの紋章がタトゥーとして体に刻まれてもいる。身も心も通称「ブレイズ(刃物)」の“1枚”と言える国産監督は、リーグ1(3部)降格6年目を中位で終えたクラブが、野心も方向性も失っていた2016年にラブコールを受けた。

英国人監督の心の支えとなる偉大な人物とは?

 ただし、地元出身の指揮官は、従来の国産監督とは異なる特徴も持ち合わせていた。入念なドリルが当たり前の練習方法だ。計3クラブでプレミア監督を務めたベニテスや、マンチェスター・ユナイテッドで指揮を執ったルイス・ファン・ハールらが好んだドリルは、選手をうんざりさせて心離れを招く危険性から、英国人指導者の間では敬遠される傾向があった。だがワイルダーは、綿密な分析に基づく戦術を徹底的に仕込むことを好む。

 練習グラウンドでは、ワイドエリアへの展開、パスを繋ぐためのトライアングルや攻め崩すためのオーバーロード、中盤からのボックス侵入といったパターンの習得に多くの時間が割かれる。その成果として、リーズのマルセロ・ビエルサとリバプールのユルゲン・クロップという一流監督をも感嘆させた、CBのオーバーラップなどを含む画期的でいて実用的な、攻守に見応えのあるシェフィールド・ユナイテッドのサッカーがある。

 ワイルダー自身は、英国人ならではの幸運も忘れていない。歴代最高の国産監督というべき、元ユナイテッド指揮官による後進への配慮だ。

「サー・アレックス・ファーガソンという監督の偉大さに尽きる。国内外でタイトルを獲得し続けていた当時から、自分みたいな単なる若手監督の1人にまで気を配ってくれた。よく向こうから電話をくれて、アドバイスをもらったものさ。カンファレンス(セミプロ最上層の5部)でのプレーオフ決勝(2014年)前夜にも、サー・アレックスからの電話で大一番で結果を出すポイントを教えてもらった。あそこで負けていたら、自分のキャリアもどうなっていたことか」

(文:ドミニク・ファイフィールド、訳:山中忍)