周囲は復活を信じ続ける

 現地17日にプレミアリーグ第19節が行われ、トッテナムはシェフィールド・ユナイテッドに3-1で勝利を収めた。ハリー・ケインやソン・フンミンら好調な攻撃陣が結果を残す一方、ガレス・ベイルはベンチに座ったまま試合終了の笛を聴いた。レアル・マドリードから期限付き移籍で古巣復帰を果たし、大きな期待を寄せられながらほとんど活躍できていないかつてのエースに居場所はあるのだろうか。(文:舩木渉)

———–

「彼が復帰した時、本当に興奮したよ。僕たちはトッテナムの前線3トップがケイン、ソン、ベイルの3人になるのではないかと話していた。ガレスのための計画は進んでおらず、本当に残念だ」

 かつてトッテナムでキャプテンを務めた元イングランド代表DFのマイケル・ドーソンは、英『スカイ・スポーツ』の中継内でガレス・ベイルの現状を嘆いた。かつての同僚はレアル・マドリードから1年間の期限付き移籍でトッテナムに戻ってきたものの、期待されたほどのパフォーマンスを見せられていない。

 ドーソンが解説者として中継に登場した現地17日のプレミアリーグ第19節、シェフィールド・ユナイテッド戦もベンチ入りしながら出番なしに終わった。ベイルが最後に公式戦のピッチに立ったのは1月10日に行われたFAカップ3回戦のマリンFC戦で、8部相当の格下相手にもかかわらず終盤の途中起用だった。

 昨年12月23日のカラバオ・カップ準々決勝、ストーク・シティ戦に先発したものの、ふくらはぎを痛めて前半のみで交代。以降の公式戦6試合でチャンスを与えられたのは先述のマリン戦のみ。負傷から復帰してもリーグ戦での出番は一度もない。

「彼はまだクオリティを持っているし、それを我々が見ることになるのは時間の問題だと思う」

 元チームメイトとして復活を信じるドーソンはこのように語るが、果たして今のトッテナムにベイルの居場所はあるのだろうか。

 シェフィールド・ユナイテッド戦でトッテナムは珍しく3-4-3を採用した。今季は主に4-2-3-1で戦ってきて、3バックを使ったのも数えるほど。あまり馴染みのない戦術だったが、先発でピッチに立った選手たちはいつも通りに躍動した。

新システムでもケインら3トップが躍動

 ステーフェン・ベルフワインが負傷から復帰し、ハリー・ケインやソン・フンミンと3トップを形成。4-2-3-1ならトップ下が定位置のタンギ・エンドンベレが、苦手とされた1列後ろのセントラルMFで起用された。トビー・アルデルヴァイレルトがリーグ戦2試合連続でベンチに座ったのは驚きだったが、3バックも問題なく機能していた。

 ソン・フンミンが蹴ったコーナーキックにセルジュ・オーリエが頭で合わせ、トッテナムは開始5分での先制に成功。40分には高い位置で相手からボールを奪い、ピエール=エミル・ホイビュルクからの縦パスを受けたケインが見事な反転からのミドルシュートで追加点。後半の54分にデイヴィッド・マクゴールドリックのゴールでシェフィールド・ユナイテッドに1点を返されるも、62分にエンドンベレのスーパーゴールですぐ突き放してトッテナムが勝利を手繰り寄せた。

 ジョゼ・モウリーニョ監督はなかなか交代カードを切らなかったが、最後までベイルには声がかからず。中継映像には不遜な表情でスタンドの椅子にどかっと腰掛けるウェールズ代表FWの姿が度々大写しになった。チームは公式戦7試合負けなしと好調ながら、かつてのエースは蚊帳の外に置かれている。

 ベイルはマドリーからレンタルの身だ。来季に向けて完全移籍で買い取るのか、あるいは再び手放すのか、早くも去就に関しての話題が飛び交い始めている。

 シェフィールド・ユナイテッド戦に向けた記者会見では、モウリーニョ監督にベイルの今後についての問いが真っ先に投げかけられた。それに対しての答えは次のようなものだった。

「(ベイルの今後についての)議論は一瞬たりともなかった。ガレスはシーズン終了まで借りている選手だ。1秒も議論していない。もちろんガレス自身、マドリー、トッテナムの全てについて話していないということだ。まだ何も話していないということを、私は約束する」

「レアルに戻りたいのか?」

 ただ、この会見が行われる前にクラブ公式チャンネルで公開された練習動画の中で、モウリーニョ監督からベイルに対し「ここに残りたいのか? それともマドリーに戻ってフットボールのない日々を過ごしたいのか?」と発破をかけた様子が収録されていた。

 いつまでも状態の上がってこないベイルに“最後通告”を突きつけたようにも受け取れる。今季はヨーロッパリーグ(EL)でグループステージ全6試合に先発出場しているものの、プレミアリーグではわずか4試合の出場にとどまるなど決して稼働率がいいとは言えない。期待されたほどのパフォーマンスを披露できていないのが現状だ。

「ガレスが負傷した状態でここにやってきたのはご存知の通りだろう。最初の1ヶ月は怪我をしていた。そして一歩ずつ前に進み、ELは彼がコンディションを取り戻す助けになった。ただ、ELのグループステージはプレミアリーグとレベルが違う。決勝トーナメントになれば、また話は変わってくるが。とはいえグループステージはプレミアリーグと強度も、リズムも、求められるクオリティも違う」

 モウリーニョ監督は、ベイルがプレミアリーグで戦うのにふさわしいプレーの質をを取り戻せていないと考えているようだ。相変わらず負傷が多く、かつてのような爆発的なスプリントや豪快なプレーの数々は鳴りを潜めたままだ。

「いい感じの前半を過ごせていたストークとのカップ戦で再び小さな怪我をしてしまった。簡単なプロセスではないよ。誰もが知っているように、マドリードでのここ数年は彼にとって簡単ではなかった。一歩ずつ、彼がベストな状態を取り戻せるようにやっていくだけだ」

 このように指揮官は擁護するが、おそらく今後もすぐにチーム内の序列が入れ替わることはないだろう。リーグ戦12得点11アシストで前線に君臨するケインは絶好調で、同じく12得点を挙げているソン・フンミンと最高のコンビネーションを発揮している。ベルフワインもピッチを幅広く動き回って攻撃にアクセントを加える貴重な駒として機能している。

 4バックであろうと3バックであろうと、この3トップ(あるいはケインをトップ下気味に配置しての2トップ)は不動。今の低調なベイルが彼らの間に割って入れるような隙はない。以前トッテナムに在籍していた当時のプレーを取り戻すことができれば話は違ってくるだろうが、1週間や2週間で状況に何か変化が生まれるとは考えにくい。

「全力疾走」を取り戻せなければ…

 ただ、モウリーニョ監督は「ガレスは大好きな選手なんだ。実際、私がマドリーにいた時、会長に彼のことを話したら1年後に来た」と、2013年のマドリー移籍も自らが望んだものだったことを明かしてベイルを擁護している。

「私は彼のことが大好きだ。人としても、ドレッシングルームの中でも、素晴らしいナイスガイだよ。この時期まで彼がトッテナムサポーターの記憶にある以前のようなレベルに達しなかったのには、複雑な理由がある」

 31歳になったベイルは、これまでのキャリアで負傷を繰り返したことによる代償に苦しめられている。どこかを痛めるためにパフォーマンスのレベルが下がり、おそらく自分でも納得のいくプレーを見せられていないことに憤りを感じているはずだ。

 もちろん年齢を重ねるごとに負傷のリスクは高まるが、それは今のベイルにも同じことが言える。全盛期の姿を取り戻そうにも、リミッターを外してさらなるリスクを冒すことに抵抗もあるのではないだろうか。中途半端なプレーしか発揮できず、それによって試合にもなかなか出ることができず、コンディションを取り戻すためのチャンスも少なくなる。ようやくマドリーを脱出できても、負の循環からは抜け出せていない。

 マドリー移籍前のベイルをよく知るドーソンは、「ガレスは全力疾走をしなければならない選手だ。以前トッテナムでプレーしていた時は、誰もそこにいないかのように(スプリントで)どんどん追い越していったものさ。まるで子どもが大人の男たちと遊んでいるみたいで、本当に素晴らしかった」と回想する。

 やはり負傷を気にすることなく全力でスプリントをかけられる状態に戻らなければ、ベイルが“らしさ”を発揮することは難しい。爆発的な加速でサイドをぶち破る力のない今の彼は、平凡な選手の1人にすぎない。当然ながらケインやソン・フンミンらの立場を脅かすことはできず、各々が特徴的な武器を持った他のアタッカーたちとの争いにも勝てないだろう。モウリーニョ監督がいつまでも守ってくれるわけもない。

 限られた出場機会と日々の練習に真正面から向き合っていかなければ、チャンスは巡ってこず、チーム内に居場所のないままレンタル期間が終わってしまう。トッテナムサポーターのアイドルだったかつての姿を取り戻すまでの道は長く険しいかもしれないが、挑戦せずに引き下がるのではなく、最後まで諦めず抗い続けて欲しいものだ。

(文:舩木渉)