無意味ではなかった前半の0-0

 コパ・デル・レイ決勝戦、アスレティック・ビルバオ対バルセロナが現地時間17日に行われ、0-4で後者が勝利。3年ぶり31回目の制覇となった。前半は0-0と点を奪うことができなかったバルセロナだが、なぜ最終的にここまでの大差がついたのだろうか。(文:小澤祐作)

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「アスレティック・ビルバオ」という響きはバルセロナにとって心地よいものではない。昨季のコパ・デル・レイでは準々決勝で負けており、今季のスーペル・コパ決勝でも120分間の激闘の末に敗北。ラ・リーガでは2勝を収めたが、すべて1点差以内での勝利と際どいゲームであった。

 現地17日に行われたコパ・デル・レイ決勝でも、バルセロナはビルバオに苦戦している。相手の4-4-2に対しバルセロナは3-5-2のため、最終ラインで数的優位を保ってボールをキープすることはできていたが、ハーフウェーライン付近からビルバオのプレスが厳しくなる。そのままボールを押し戻され、全体のラインが下がってしまうことが前半は多々あった。

 カウンター要員で最前線に残るイニャキ・ウィリアムズをジェラール・ピケがことごとく封じたためピンチ自体は少なかったが、バルセロナは前半で支配率84%という圧倒的な数字を出し、シュート7本を記録しながらも0点。枠内シュートはわずか1本という内容だった。この時点では、4-4-2のブロックを組むビルバオがよく守っていたという印象が強かった。

 しかし、後出しじゃんけんのような形にはなってしまうが、この45分間における0-0はバルセロナにとって決してネガティブなものではなかった。以下は主将リオネル・メッシの試合後のコメントである。

「アスレティックはいつも4-4-2の同じ方法でプレーし、スピードのある選手(イニャキ)を使ってカウンターを狙ってくることはわかっていた。

 僕らはボールを持ってスペースを生み出すために辛抱強くなければいけなかった。前半は多くボールを動かしたけど、後半はアスレティックのリズムが下がり、僕らはより多くのチャンスを生み出すことができた」。

 そのメッシの言葉通り、前半で多くボールを動かされたビルバオは、精神的にも肉体的にも疲労が溜まり、後半は前半のような守備がまったく機能しなくなっていた。立ち上がりから激しい守備を行っていた中盤底ダニ・ガルシアがファーストハーフ終盤にイエローカードを受けたことであまり強度を高められなかった点も影響したのか、ライン間が引き締まらない。もちろん、その隙をバルセロナが見逃すわけがなかった。

 60分にアントワーヌ・グリーズマン弾で先制すると、そこから12分間で3点を奪っている。それまで耐えていたビルバオの守備陣が崩壊したのは、本当に一瞬のことだった。結局、今季スーペル・コパで敗れた曲者相手にバルセロナは4-0という大勝を収め、2020/21シーズンのタイトルを手に入れたのである。

メッシのプレーを理解している男

 後半に入りペースを落としてしまったビルバオにとって脅威となったのは、やはりメッシだった。68分にチーム3点目を奪うと、その4分後にジョルディ・アルバからのクロスを合わせ4点目を決めている。コパ・デル・レイ決勝ではこれで9ゴール目となり、ビルバオのレジェンドであるテルモ・サラ氏の8ゴールを抜いて最多の記録を更新している。なお、メッシはMVPにも輝いた。

 ただ、バルセロナが4得点を奪えたのは、当然メッシだけの力ではない。とくに、フレンキー・デ・ヨングの輝きはビルバオにとって大きな障害だった。

 デ・ヨングはビルバオのペースが落ちた後半により前に出ることができた。右ウイングバックのセルジーニ・デストを追い越すランニングや、ゴール前に入り込む動きなど、豊富な運動量を駆使し様々なエリアに出没している。60分には、サイドを駆け上がりグリーズマンのゴールをお膳立てした。そしてもちろん、守備強度も十分すぎるものがあった。

 バルセロナの王様はメッシで、同選手にいかにボールを預けられるか、そしていかにサポートできるかは他の選手にとって重要な役割である。そういった意味で、デ・ヨングが果たした仕事は完璧だったと言っていい。

 63分、デ・ヨングはJ・アルバからのクロスを合わせ追加点を奪っている。ただこのシーン、J・アルバの狙いはニアサイドのメッシだった。

 つまりデ・ヨングは、J・アルバがメッシにクロスを合わせると読み、ボールが流れた場合も考えてペナルティーエリア内にポジショニングしていた。J・アルバとメッシの関係性を高いレベルで理解しており、危険なスペースへ飛び込める能力があるからこそ出来たプレーである。

 68分のメッシとのパス交換は圧巻で、ビルバオ守備陣に一回もボールを触れさせていない。メッシが走り込むエリアを読みながらパスを捌き、最後はボールを引いて相手との距離を遠ざけながらある程度のパススピードを確保し、さらにメッシが縦に抜け出すまでの時間を作ってスルーパスを流し込んでいる。ペナルティーエリア内に侵入したメッシは、そのままドリブルで相手を無力化しダメ押しの3点目を奪った。

 実は後半が始まる前、メッシがデ・ヨングとだけ言葉を交わすシーンがあった。何を伝えたのか定かではないが、この会話が上記のような連係に繋がったと考えても不思議ではなさそうだ。

 いずれにしても、デ・ヨングは敵の穴を見抜き常に最適なプレーを選択できるだけでなく、バルセロナというチームを高いレベルで理解している。だからこそ、メッシの存在もより際立つ。背番号21がバルセロナの新たな心臓になる日はそう遠くないのかもしれない。

(文:小澤祐作)