16歳で名門入りした天才

 アーセナルはイングランドが誇る名門クラブで、これまで数々の著名な選手を獲得してきた。額面通りの活躍を見せた選手もいれば、期待を裏切った選手もいる。ここでは、2001年以降に加入した選手の中から、チームを大きく変えた選手を紹介する。※移籍金などのデータは『transfermarkt』を参照

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MF:セスク・ファブレガス
生年月日:1987年5月4日
移籍金:320万ユーロ(約3億8000万円)
在籍期間:03年夏〜11年夏
リーグ戦成績:212試合35得点72アシスト

 リオネル・メッシやジェラール・ピケらと共にバルセロナのカンテラ(下部組織)で育ったセスク・ファブレガスは、2003年のU-17世界選手権で大会最優秀選手に輝くなど早くから注目を浴びる存在だった。そんな同選手に熱視線を注いでいたクラブの一つがアーセン・ヴェンゲル監督率いるアーセナルであり、U-17世界選手権終了後の2003年9月に獲得を発表。当時のセスクはまだ16歳だった。

 そのスペイン人MFはすぐに能力の高さを発揮し、アーセナル加入2年目で満足いく出場時間を確保。先輩パトリック・ヴィエラが去った2005/06シーズンからは中盤における中心人物として君臨し、非凡な技術と高精度なパスで違いを生むだけでなく自ら得点もあげるなど、イングランドの名門に歓喜をもたらし続けている。その姿はとても10代とは思えぬものがあった。

 早くから注目を浴びる選手が早くして消えてしまうケースも珍しくないが、セスクの存在感はそこからどんどんと増している。2007/08シーズンにはプレミアリーグだけで20アシストを記録するなど爆発。翌シーズン途中からはトニー・アダムスに次ぐクラブ史上2番目の若さで主将に就任するなど、アーセナルの「顔」となっていた。

 そのセスクは2011年に古巣バルセロナへ移籍。アーセナルには8シーズン在籍し、公式戦304試合で57得点97アシストという成績を残した。後にライバルクラブのチェルシーへ移籍したことでグーナーの反感を買ったのも事実だが、間違いなくアーセナルにとって最高の補強だった。

無敗優勝に貢献した巨漢DF

DF:ソル・キャンベル
生年月日:1974年9月18日
移籍金:フリー
在籍期間:01年夏〜06年夏、10年冬〜10年夏
リーグ戦成績:146試合8得点4アシスト

 ライバルクラブへの「禁断移籍」をした選手は少なくない。最も有名なのはバルセロナからレアル・マドリードへ渡ったルイス・フィーゴだが、ソル・キャンベルもまた、禁断の移籍をした選手としてサッカー史にその名を残す人物だ。2001年、トッテナムからアーセナルにフリーで加入した同選手はスパーズファンの怒りを買い、後に「Judas(ユダ)」と非難されている。英紙『ザ・サン』によれば、当時のキャンベルは自由にロンドンの街を歩くこともできない状況にあったようだ。

 アーセナルサポーターとしても、トッテナムからの加入ということもあり、当初は巨漢DFの補強を手放しで喜べなかったかもしれない。しかしキャンベルはピッチ上のパフォーマンスで自身の獲得が正しかったことを証明。加入後すぐに最終ラインのレギュラーになると、他を寄せ付けない圧巻の強さと絶大な存在感を武器に、1年目でプレミアリーグとFAカップ制覇に貢献している。

 2003/04シーズンにはコートジボワール代表DFコロ・トゥーレと鉄壁のセンターバックコンビを形成し、プレミアリーグ史上初となる無敗優勝の原動力に。その後もアーセン・ヴェンゲル監督の信頼を得たキャンベルは、チャンピオンズリーグ(CL)準優勝などに貢献するなど、イングランドを代表する守備職人として印象的な活躍を見せ続けていた。

 結果的にアーセナルで一つの時代を築き上げたキャンベルは、2006年夏に契約満了を迎え退団。その後ポーツマスやノッツ・カウンティなどでプレーしたが、2010年に当時35歳で再びアーセナル復帰を果たしている。結局二度目の在籍はわずか半年間に終わったものの、リーグ戦では11試合に出場し、CL・ラウンド16の1stレグ、ポルト戦では得点もマークしていた。

攻撃のグレードを引き上げた司令塔

MF:メスト・エジル
生年月日:1988年10月15日
移籍金:4700万ユーロ(約56億円)
在籍期間:13年夏〜21年冬
リーグ戦成績:184試合33得点58アシスト

 2013年、レアル・マドリードから4700万ユーロ(約56億円)という移籍金でやって来たメスト・エジルは、チームに新たな可能性をもたらしていた。1年目から主力に躍り出ると、プレミアリーグではいきなり二桁アシストをマーク。さらにFAカップでも活躍し、アーセナルを頂点へと導いている。なお、同クラブにとってはこれが実に2004/05シーズン以来となるタイトルだった。

 当時世界最高の司令塔と言っても過言ではなかったエジルの存在感は、そこからどんどんと増している。2年目は怪我に悩まされる時期もあったが、3年目にはプレミアリーグだけで19アシストという驚異的な数字をマークしてアーセナルを2004/05シーズン以降最高となる2位に導き、サポーター投票によるクラブ年間最優秀選手に選出。2018/19シーズンには背番号を伝統ある「10」に変更し、プレミアリーグにおけるドイツ人選手歴代最多得点記録も更新した。

 とにかくプレー一つひとつが芸術的で、左足から繰り出される繊細なラストパスはスタジアムに足を運ぶ多くの人を魅了。アレクシス・サンチェスやサンティ・カソルラといった選手との相性も抜群で、彼らのコンビネーションは他クラブにとっての大きな脅威となっていた。2016/17シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)・ルドゴレツ戦で魅せたGKとDF2人を完全無力化したゴールは今でも多くの人の記憶に残っているなど、エジルは間違いなくアーセナルの“中心”にいた。

 ヴェンゲル監督の後を継いだウナイ・エメリ監督の下で構想外となり、今季もヨーロッパリーグ(EL)とプレミアリーグ両方の登録リストから外れるなど、エジルはネガティブなイメージを払拭できぬままフェネルバフチェへ旅立った。ただ、同選手がいなければ、アーセナルが2004/05シーズン以来のタイトルを取れたり、2015/16シーズンにレスターと優勝争いを繰り広げたりすることはできなかったはず。素晴らしい補強だったと言えるだろう。

ヴィエラとのコンビは世界最高

MF:ジウベルト・シウバ
生年月日:1976年10月7日
移籍金:900万ユーロ(約11億円)
在籍期間:02年夏〜08年夏
リーグ戦成績:170試合17得点11アシスト

 貧しい家庭で育ったジウベルト・シウバは主にストリートで技術を磨き、12歳でアメリカFCのアカデミーに入団。10代後半には家計を助けるため一度サッカーを離れ、地元の工場などで働かざるを得ないこともあったが、家計が少し安定してきた1997年に友人らの説得などもあってもう一度ボールを蹴ることを決断し、アメリカFCとプロ契約を結んでいる。

 その後ブラジル国内で着実に評価を高めたG・シウバは、2002年日韓ワールドカップでの活躍もあり、同大会終了後に名門アーセナル移籍を掴み取っている。すると同選手はアーセン・ヴェンゲル監督の下で大活躍。1年目からプレミアリーグ35試合に出場すると、2年目の2003/04シーズンは同32試合に出場し、クラブの偉大な歴史となる「無敗優勝」の立役者となっていた。

 観客を魅了するような派手なプレーを見せるタイプではなかったが、チームに一人はいてほしい、そんな選手であった、堅実なプレーで中盤に安定感をもたらし、危機察知能力の高さを武器に広範囲をパトロールすることもできる。より攻撃的だったパトリック・ヴィエラとの相性は抜群で、当時この二人が世界最高のダブルボランチと言っても決して不思議ではなかった。

 G・シウバは以降もアーセナルの中盤に君臨し続け、若かりし頃のセスク・ファブレガスをサポートするなどハイパフォーマンスを披露。副キャプテンに就任した2006/07シーズンには守備的なポジションながらプレミアリーグ初の二桁得点もマークしていた。そんなG・シウバは最終的にアーセナルで6シーズンプレーし、公式戦243試合に出場。まさに、クラブ史に残る「名脇役」であった。

エジルとの連係は多くのサポーターのハートを射抜く

FW:アレクシス・サンチェス
生年月日:1988年12月19日
移籍金:4250万ユーロ(約51億円)
在籍期間:14年夏〜18年冬
リーグ戦成績:122試合60得点27アシスト

 ウディネーゼやバルセロナで活躍していたアレクシス・サンチェスは、2014年7月にアーセナルへ加入しイングランド初上陸。移籍金は前年にやって来ていたメスト・エジルに次いで同クラブ史上2番目に高額となる4250万ユーロ(約51億円)とされている。すでに欧州トップレベルで活躍していた選手というだけあって、当然ながら期待値は高かった。

 そして結果的に、A・サンチェスはサポーターを納得させるパフォーマンスを披露する。プレミアリーグ初挑戦でいきなり16得点を記録すると、2年目も二桁得点。3年目は得点王の座こそ逃したものの、24得点11アシストという見事な成績を残していた。さらにA・サンチェスは、2015/16シーズンのFAカップ決勝で1得点1アシストをマークし連覇に貢献。2016/17シーズンのFAカップ決勝でもゴールを奪うなど、クラブにタイトルという財産ももたらしていた。

 非凡な技術と重心の低いドリブル、卓越したシュートセンスを武器に個人で決定的な仕事を果たすこともできたが、とくに司令塔エジルとの連係は圧巻だった。チームとして停滞気味にあっても、この二人でどうにかしてしまうということが決して珍しくなかった。「ここ10年のアーセナルで最もワクワクしたシーズンは?」とグーナーに問えば、恐らく多くの人がA・サンチェスとエジルのいたシーズン(とくに2015/16シーズンか)と答えるだろう。それだけ、彼らの存在感は特別なものがあった。

 A・サンチェスは最終的に2018年冬までアーセナルに在籍。公式戦166試合の出場で80得点45アシストという成績を残した。ガナーズからの移籍先がマンチェスター・ユナイテッドとなったことは少々モヤモヤする部分かもしれないが、チームにタイトルと多くの歓喜をもたらし、何よりサポーターをワクワクさせたという意味で、やはり最高の補強だったのではないだろうか。